第24話
いつもどおり、各務氏はわたしを家まで送り届けてくれるようです。
ちゃんと時間を見てきりあげてくれるし。
ただあれだよね~。
罪悪感半端ないんですよね、こっちが呼び出したにも拘わらず結局あの場のお会計は各務氏が払ってるんですよ。
「払うって言ってるのにな」
身長差があるから、この呟きは聞こえなかったみたいで……。
それも、あるんだけど慣れないのが……手!! 手ですよ!! なぜに手をつなぐ!!
指絡めるかああああ!!
恋人繋ぎってやつですよねコレ!!
「美幸はいつになったら慣れるのかな」
「はひぃ!?」
何をですか!!
「手つなぐの嫌い?」
なんでわかるの!? 嫌いっていうかさ、汗が気になるんですよ!! うっわ、こいつ汗っかき、キモ!! とか思われたくないのですよ。
「迷子になるからね」
「幸太と同じ扱い禁止!!」
そういうと、各務氏は噴き出す。
「似てる~やっぱDNAだね~」
「どこが!! 似てませんよ!! 幸太は姉のDNAがっつり受け継いでますから、絶対将来イケメン間違いなしです。はっ五歳児と変わらないってことですか!?」
「似てるよ、幸太はイケメンか~」
「イケメンですよ」
「じゃあオタク教育はほどほどに」
「う」
「オレみたいになっちゃうぞ」
「各務氏は……オタクな自分が嫌いですか?」
「ん~……ロボはロマンですから」
「ですよね」
「そこで肯定するのが美幸だね」
「……オタクでボッチですから」
「ボッチじゃないでしょ」
ぎゅって指に力が入る。
それは各務氏がわたしの傍にいるからってことですか? そういう意味?
確かに今この状況はボッチじゃないし。
わたしのようにいわゆる非モテオタ女子が見たら「お前、それ、喧嘩売ってんのか?」「リア充だろ、爆発しろ」な状況ではありますが……。
「あ~各務~!!」
背後から聞きなれない声が、各務氏の名前を呼んだ。
わたしと各務氏は背後を振り返る。
「なんだよ~飲み会ぶっちぎってきたのはデートかあ」
どうやら各務氏の同僚の方々らしい。男女6人ぐらいの人数でこちらの方に歩いてくる。
「デートだよ、やっぱ。この子あれでしょ、各務のスマホの待受けにいる子じゃん」
はあああああ!?
スマホの待受けですと!? 何それ! 聞いてないですよ?
「だよ、気をきかせろ」
各務氏は投げやりに呟く。
「残念だったね~女子~だから言ったじゃん、各務彼女いるって~」
その一言で男性の後ろにいる女性陣の視線が一斉にわたしに向かう。
ぞくっと悪寒が走る。
いやあああああ、なんか見えないスカウター装着してレベル見られてる気がする!!
女子力いろいろ計測されてる気がするうぅ!!
なんか怖いっ。
「へ~各務君の彼女なんだ~」
一歩進みだされて、心臓がぎりぎりしてくる。
血管が一気にどうにかなったみたいに……頭に血が上るというか。なんというか。
「ふ~ん」
頭の先から足の先まで計測っ……怖いっ。逃げたいっ。
わたしの指にからまってる各務氏の指の力が強くなる。
各務氏を見上げると、各務氏はわたしを見てた。
見ててわかる。幸太と同じだわ、この表情「美幸ちゃん行っちゃダメ~」って駄々こね時の表情ですよ。
あれですよね、わたしの予想通りの女子一同様と解釈してもいいんですよね? つまり各務氏狙いの肉食系女子御一同様とジャッジさせていただいても!?
だとしたら、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだっ……某アニメの主人公のごとく心の中で逃げちゃダメだを繰り返す。
ここで逃げたら綾○が初号機に乗るハメになるっじゃなくて、各務氏が女子の餌喰にっ! ここは頑張ってガラスの仮面を被るところよ美幸っ!!
「こ、こんばんは……雪村といいます」
「いつからつきあってんの?」
ここはなんて答えればいいの!?
「1ヶ月ぐらいか、ようやく捕まえたんだから邪魔するな」
各務氏が答える。
「大学の同級生なんだよ」
「え~」
「みえない~」
それはどういう意味ですか? わたしが童顔だからですか? ううん違う、あれかカップルぽく見えないということなの!?
うっわ、各務氏狙いの女子のスカウター高性能ですね!!
と言うか……願望もあるだろうな~なんだ、この程度は敵じゃないわね、みたいな? あたしの方がいい女だし、付け入るチャンスもまだあるわよ的な?
「か、各務君がお世話になってます……」
あえて各務氏ではなく、各務君と呼んでみた。
絡めてる指に力をいれる。
うまく笑えない。変な顔になってないかな。
「ホントに付き合ってんの?」
「大変じゃない? 各務、モテるから~」
苗字呼び捨て親しさアピールキター。
神様仏様青木様!! どうか、わたしにこの場を切り抜ける勇気と技をお与えください。
「昔からモテる人でしたから」
一応大学の頃から知り合いですから知ってますよなイメージで返事をする。
そしたらくるわくるわ質問攻め。
何歳? どこで働いてるの? 各務とは休日どこいってるの? すごい美人と仕事してるから心配じゃない? 等々、一気に答えられるかあぁ!!
答えられる隙を与えずに質疑応答とかないから。
最初答えようとしたけど、もうその矢継ぎ早の質問攻撃には黙ることにした。
沈黙は金。
「あ~も~うるせーな、どうでもいいだろ」
「なになに~これからどっか行っちゃうの~?」
「そう」
きっぱり答えましたよ各務氏。
「だから邪魔すんな」
各務氏の表情も、声のトーンも、低く冷たいものだった。
なまじ造作が整ってるだけに迫力が違う。
その声でその表情であからさまに近寄るな的なことを言われたら、わたしなら一生、彼に近づくことなんてしないと思う……。
もう生きててすみません、社会の片隅でひっそりしてます。ぐらいは思うわ。
「あ、泉田、23日の件はオレが先方にでむくから」
「OK~~了解~~」
一番真っ先に声をかけた男性がOKサインを出して答える。
温度差激しいな……。
親しい感じがする人には、わたしの知ってる各務氏の表情で、群がる女子達に対しては一線を引いてるようで、各務氏のフレンドリーで穏やかな表情とかは絶対に向けたりはしない……。
「じゃあな、行こう美幸」
彼女たちに会釈して各務氏に引っ張られるようにその場を離れた。
「……ありがとな、美幸……」
改札を抜けたところで各務氏は思いっきり溜息をついてわたしにそう呟いた。
ありがとなって言うか……お疲れ様って感じですよね、主に各務氏のほうが。
女性陣を相手にするたびにあの対応なのかと思うと、それまで各務氏にふりかかった体験談を振り返れば、それはそれで仕方ないなとは思うけど。
「……いや、なんていうか……お疲れ様です……」
「美幸」
「はい?」
「中にはけっこう病んでるやつもいるかもだから、お前、突撃くらうかもだわ」
げげっ、そこまでか!!
「美幸がそれで滅茶苦茶怖い思いするかもしれない」
「いや、さっきもそこそこ怖かった……」
「美幸……」
「あの人たちステルスで高性能なスカウター標準装備だったよ!! わたしいろいろ計測されたよね!?」
「ぶはっ……スカウター…て……お前……」
各務氏は噴出す。
「わたし女子力侮られてますよ!! いえ、もともとありませんけどっ!!」
各務氏はおかしそうに笑う、うん……その方がいい、各務氏は笑ってくれてるほうがいい。お笑い担当で上等。
「各務氏」
「うん?」
まだ笑いの収まらない各務氏にわたしは言う。
「突撃されても、大丈夫」
同じ轍は踏まない。
「守ってあげるよ」
わたしがそう言うと各務氏は固まった。
え? わたしじゃやっぱりダメですかね。頼りないですかね。
「ごめん、やっぱ送り届けないでどっか寄ってく?」
ギャー!! そこはまだ無理!! 無理ですから!! いきなりハードルあげないで!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます