第22話



 話し終るとお嬢さん三人組は各々発言する。

 「いまどきいませんよね、そういう人」

 はあ~と大きなため息をついたのは小原嬢。

 「こぶつきデートもなんなくこなすっていうのがね~」

 ていうかお互いオタクだから子供目線でいろいろ楽しんでしまった感満載というか? ていうか今の回想はデートというくくり!? 吉井嬢?

 「ていうかさ、どうなのさ、ゆっきー自身の気持ちは?」

 腕組んではあ~とため息ついているのは青木嬢。

 え? なにわたしの気持ちとは?

 「ゆっきーのさ、各務氏に対する気持ちの問題よ。各務氏がゆっきーに対してどうこうじゃなくてさ、ゆっきー自身は各務氏のことをどう思ってるのよ?」


 ……え?


 「え?」

 「『え?』じゃなくて、付き合うの?」

 「どこへ?」

 「そういうボケはいらない」

 スパンと青木嬢はいいきる。三歳下ってまじですか? ってぐらいの迫力なんですが。姐さんとぜひお呼びしたい迫力なんですが。

 「ま、まあ、美紀ちゃん、ゆっきーは年のわりにはいろいろと晩生なんだから……」

 吉井嬢が青木嬢を宥める。

 「あたしが各務氏狙いでいってもいいかしらっ? てことよ!」

 「え?」

 「え?」

 「え?」

 その場にいた吉井嬢も小原嬢も青木嬢に視線をむける。

 いや、あれ? 瀬田氏は?

 「瀬田氏はどう……」

 するの? っていうか瀬田氏といい感じだと思ってたんですけど?

 そんなわたしの疑問の声をさえぎるように……というか瀬田氏と呟いただけなのにピクリと形のいい眉をあげる。

 「あれは実家近所の同じ中学の同級生! それだけ!! どうなの?」

 カッと大きな目をさらに見開いて語気を荒らげるんですけど。

 え? そうなの?

 「青木先輩……喧嘩したんですか?」

 小原嬢がこっそりと呟く。

 「してないっ!!」

 ……したな……喧嘩したな……これは。

 わたしは吉井嬢に視線を送ると吉井嬢もなんともいえない表情になっている。

 いくら鈍いとか自他共に認めるわたしでもわかりますよこれは。一体何したんですか瀬田氏!!

 ん~各務氏に相談するか?

 青木嬢にはぜひとも幸せになってもらいたいものです。

 

 「青木嬢、やけになってはいけませんよ」

 「何が!?」

 「各務氏はたしかに美形です、イケメンです」

 「余裕かっ!?」

 「アキバのガンプラめぐりに付き合う根性がありますか? 女子のお洋服ショッピングとはわけが違うんですよ?」

 「……も、もしかして……フィギュアってやつとかも……?」

 小原嬢がビクビクしながら尋ねる。

 わたしは深々と頷く。

 「スーパードルフィーも結構造詣が深かったりして? 実はわたしも一体もってますが話が合う合う……というかすごいよね話せる男子の現物初めて見ました」

 「なにそれ!!」

 「わかりやすくいうと大きく精巧なリカちゃん人形です」

 携帯を開いて画像をみせる。

 「あ、これはいいかも」

 小原さんがくいつく。

 「キレイだしかわいい~かも」

 うむ、ビーズアクセを作るのが趣味ならば、小原さんにはこうアンテナにくるものがあるのですね。

 「あとはいろいろ、うっすい本とか」

 「なにそれ?」

 一般の方になんと説明してもいいのやら。どこから説明すればいいのやら。

 コミケで売ってる本です。

 ただまあ、一般のお嬢さんには知らない世界って言っとけばいいでしょうか。

 「とらのあなは一日かけてもいい感じ? 怖いですよ、わたしの男版がうようよ闊歩するようなフロアで美女が我慢できるかって何の試練ですかって話ですよ、まあそれでもOKならばとめませんよ?」

 うむ、青木嬢ならば問題はないように思います。

 多少の趣味はスルーというか受け入れてくれそうですし、各務氏と並ぶと美男美女でお似合いですし?

 

 「違うでしょ、そこでどうしてOKだすの!?」

 「いや~お互いがいいなら、いいんではないでしょうか?」

 「話が違う! あたしが聞きたいのはそこじゃないのよ! ゆっきーが、各務氏に他の女がいてもいいのかって話よ!」


 ……ん~~……。

 確かに幸太と一緒にいったとき、カメラをとってもらうお嬢さん方にはもやっとしたけど……でもなあ……。


 「あの人もともとたくさん周りに女の人いましたよ?」

 「危険人物ばっかりだけどっ!?」

 

 う……。

 それを忘れていた……。

 ちょっとイっちゃったストーカーやら肉食女子やら……。

 確かにそんな女子の比率は高い……。

 そんな魑魅魍魎にまた各務氏が囲まれるのかと思うと……。


 「それは確かに、いただけませんね」

 「でしょ!?」

 「でも、ほら、えっと、青木嬢はそういう女子とは違うから?」

 「ばっかじゃないの!? ゆっきーあたしのどこ見てそう言うの!? あたし完璧肉食女子でしょ!? 瀬田も言ってたでしょ!?」

 

 青木嬢……何故自ら肉食女子宣言しなさるの……。

 自分で言って傷ついた表情でなんでそういうのかな……。

 瀬田氏……貴方、この人に何を言ったのですか?

 

 「許す」

 「は?」

 「青木嬢なら許す、各務氏は多少オタクですが、いい人です。是非とも幸せになってもらいたい」


 ぽんと青木嬢の肩を叩く。


 「いいですよ、青木嬢に何を言ったか知りませんが……青木嬢にそういう錯乱気味の台詞を吐かせる瀬田氏に任せるぐらいなら、各務氏に任せた方がいいと思うんですよね」




 就業後、即効各務氏に連絡をとった。

 一時間ほど遅れて、指定の居酒屋に各務氏が到着。

 お疲れ様です。

 

 「遅れてごめんな、美幸から断りの電話とかはあっても誘いの電話は初めてだから仕事頑張って終わらせてきた」


 椅子に座る各務氏におしぼりを渡す。


 「お忙しいところ、申し訳ありません」

 「で、いろいろと、ここに来る前に考えてみたんだけど」

 「はい?」

 「嘘でもいいから俺に会いたかったからとか言ってくれない?」

 「嘘はつきません、各務氏に会いたかったからです」


 ガタっと椅子からおちそうになる各務氏。

 何そのリアクション……おかしいですか?


 「各務氏、青木嬢のことどう思います?」

 「いい子だよね、明るくてはきはきしてて、美人だし」

 「ですよね?」

 「うん」

 「お付き合いしてみませんか?」

 「は?」

 「青木嬢と」

 「……美幸さ……」

 「はい」

 「何持ち上げて落としてくれてんの?」

 「は?」

 「自分の後輩と俺をくっつけようとしてるの?」

 「青木嬢が幸せならばそれでいいですし、各務氏が青木嬢のことを気に入ってるのなら問題はないでしょう」

 テーブルに肘をついて、ぼそぼそと「せっかく誘ってくれた電話だと思ってたのに……用件これかよ」と呟きながら片手で形のいい額に手をあててはあ~とため息をつく。

 「でも」

 「?」

 「たぶん、青木嬢は瀬田氏が好きなのかもしれないですよ」

 「……よく見てるじゃん」

 「各務氏、瀬田氏は青木嬢のことどう思ってるんでしょうか?」

 額にあててた手を頬杖にして、わたしを見る。

 そしてニヤリと笑う。

 く……そういう仕草一つ一つが絵になる人だな……各務氏。

 「青木さん、なんて言ったの?」

 「他言無用で。特に瀬田氏には」

 「うん」


 ランチの時の会話をかいつまんで各務氏に伝えてみた。


「瀬田氏に対する青木嬢の反応が彼女らしくないし、明らかに喧嘩かもしくは何か言われたと思うのです。瀬田氏の状態はどうなんでしょう」

 「がっつり落ち込んでる」


 落ち込んでるですと!?

 ということはやはり喧嘩ですか!?


 「瀬田はな~意外と普通なんだよね」

 「どういうことですか?」

 「仕事はずばぬけていいけど、人間関係は普通なの」

 「はあ……」

 「そして自分のことをよくわかっている。うちの会社もほんとは瀬田がたちあげたようなもんだ。だけど、人材をうまく回せるかどうかを考えると、できないこともないけれどそこそこだろうね、だからこそ旧友のうちの社長を押し上げて自分は一歩さがって開発とかにまわってる。彼女にしてもそう」

 「そうとは?」

 「普通なの、青木さんとは同窓会であったとかいってたけど、瀬田は青木さんの友人の名前は忘れたけど、やっぱり同じ同窓の子と、同窓会後に偶然会ったらしい」

 「はあ」

 「ナースなんだって、制服がいいねとぼやいててな」

 「……」

 「美幸、だからそういう顔しない。男って多かれ少なかれそういうところあるから……美幸が執事に萌えとかいうのと同じだって」

 おおう……痛いところをつきますね各務氏。

 たしかに萌えます制服というかシチュエーションのコスチュームは萌えです。

 各務氏に頼んだら着てくれるかな……ギャルソンとか、執事とか、ドクターの白衣とか、浴衣とか。

 いや、もちろん、今日のスーツも素敵ですが。

 「だから、その子と進展したかというとそうじゃなくて、時間あけずに青木さんから例の合コン話があってね、青木さんとは話が弾んでいたし、俺もてっきりそっちのほうが早くまとまっちまうかなとは思ってたんだよな」

 「はあ……」

 「だからそこでなんか行き違いがあったんじゃないかと」

  ん~想像でしかないけれど、瀬田氏は二股とはいかないまでも、青木さんもナース服女子もいいなと思って、青木さんが引いた? こういうこと?

 「じゃあ、瀬田氏はナース女子に気があるの?」

 「だから制服萌えなだけだろ、そこを青木さんは……ほら、青木さんて義理人情厚いというか、友情大事なところとかあるから? 男のちょっといいなというのとすごくいいなというのは違うんだけど、そこはやっぱり瀬田のことを考えてじゃあって引いたんじゃね?」


 「……だめじゃん……青木嬢」

 

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