第21話
「おべんとうつくってるのー?」
朝起きてキッチンに立つわたしと姉の姿を見て、幸太君はわくわくしながら訊ねた。
ええ、キミのママとばあばがはりきってるんですよ。
各務氏にお断りする筈の電話が、何故か本日キミも一緒におでかけになったからですよ。
「幸太もつれていくんじゃ、お弁当にしないとね」
「え?」
「デートだったら別に何もお弁当なんていらないけどさー、幸太がいるのに、あんたの彼氏に幸太の昼までゴチになったら悪いでしょうよ」
……姉さん……男性に食事奢ってもらうの前提ですか……。
「やだーだから、あたしも手伝ってあげるからー」
別に幸太の食事代ぐらいは私が持ちますよ、そう思ったのですが、姉の言葉にも思い当たることがあるので、ここは素直に弁当三人分をこしらえるほうが得策だと思いました。 だって、これまでに各務氏と食事にいった場合、絶対各務氏もちなんですよね。
それもこれも、あれですよ、女子をエスコートしないとまた残念とか思われるとか、そういう固定概念できあがっちゃったんですかね。
なんかそう思うと各務氏気の毒だわ……。
そういう負担を除くためには弁当は正解です。
うん、お互いのために。
幸太の朝ごはんをたべさせて、したくをさせていると、ドアチャイムがなる。
姉がいそいそと玄関へ向かうが、お母さんも一緒に玄関へ向うのその意味がわからない。
「はーい」
姉も余所行きボイスで玄関のドアをあけるとその動きが固まったらしい。
(のちに母に聞いたし、本人も語っていた)
本日も、爽やかな笑顔でわたしの母と姉に挨拶をする。
「おはようございます、各務です」
「各務さん、いらっしゃい!」
「は、はじめまして、美幸の姉の千春ですー、息子がお世話になります」
千春姉さん……どもってますよ、声、上ずってますよ……。
「こちらこそ、お預かりしますね」
姉よ、しっかり既婚者でしょうに、ポーとなってますが……。
「幸太君、一緒に行く、各務さんだよ。おはよう、各務氏」
幸太は物怖じというか人見知りすることなくはきはき答える。
「おはようございます、はなさきこうたです」
「おはようございます。幸太君かー元気いいね、今日はスカイレンジャーもそうだけど、大きいロボット見にいこうね?」
「はーい」
「じゃ、美幸さんと幸太くん、おあずかりしますね、お母さん」
「よろしくおねがいしますねー。これ、たいしたもんじゃないけど、美幸と作ったので召し上がってくださいねー」
「わーお弁当ですねー、ありがとうございます」
もうそれぐらい私が持ちますから、頼むから各務氏に渡さないように。
そんな心の声が届くはずもない。各務氏は躊躇いなく受け取って、わたしに手を伸ばしておいでと、ジェスチャーする。
母と姉のいってらっしゃーいを背に受けて、わたしと幸太は玄関に出た。
「おはよう美幸」
「おはようございます」
うーん、昨日のお断り電話がこうなってしまって気まずいような……。
「晴れてよかったねー」
「うん」
幸太君……キミ、人見知りしなさすぎですよ。
さすが姉の子……。
「ガン○ムよく見えるよね?」
姉が持たせたジュニアシートをセットしてもらって、ちゃっかり助手席に乗り込む幸太君です。
「お、幸太君ガン○ム知ってるの?」
「しってるー、みゆきちゃんとDVDみたよ! ア○ロがのってるんだよ!」
「美幸……ファーストから観せたのか……」
すみません、がっちりと観せました。
完璧です。この子ギ○ンの演説できますからっ。
だから姉にオタク教育ほどほどにとか言われちゃうのよ~。
オタクでゴメンネ、ゴメンネーですよ……はい……。
けど、各務氏……この間と違って、BGMの選曲が人気漫画原作の主題歌のコンピレーションCDを車で流すのも相当だと思うのですが……。
いや。幸太君ものりのりですが……。
わたしも好みですがっ!
目的地に近づくにつれ、観覧車やら、目当てのガン○ムやらが見えてテンションのあがる男子二人、あれですね、ロボは男の憧れなんですかね。
建物内に入って、スカイレンジャーをかぶりつく感じで観て、ゲーセンで遊ばせていたら、幸太君の「おなかすいた~」の一言で、お弁当タイムとなったわけで……。
「おばあちゃんのからあげは、おいしいんだよお」
「そうなんだー」
「ままのもおいしいけど、おばあちゃんのはまたちがうのー」
「おいしそうだねー」
芝生の上にレジャーシートひいて、ランチBOXをあけて、紙皿にからあげとおにぎりをとりわける。
「おいしいのー」
「ほんとだー」
あっという間にたいらげましたよ、この二人。
それにしても……。
「天気よくてよかったなー」
うわ、いま、わたしが思っていたこととシンクロしたよ、この人。
お弁当つくったはいいけど、雨だったらやばいなとは思ったけど……。
「おべんとうもおいしいし、天気はいいし、幸太君は面白いし」
うん、映画館を出て変身ポーズを決める様は、面白かったよ。
「おもしろいってなに!?」
プライドが傷ついたのか、幸太君が各務氏にくいかかる。
「えー可愛いしって言ったら幸太君は嫌かなー、面白くて楽しいからさー」
そういわれると、思い当たるふしがあるのか、幸太君は考え込む。
「そっか、おれも、たのしいっ!」
そんな会話に第三者のすみませーんという声がわってはいる。
ふと顔をあげると、20代女子と思われる三人組が声をかけてきた。
「すみません、あの、カメラをとってほしいんですけどー」
この間、バーベキューしたときもこういうシチュエーションがあったのですが、各務氏は断って、カメラ得意の吉井さんに丸投げしたんですよね、そのとき、なにもそこまで若いお嬢さんをスルーしなくてもと思ったのですが……。
「ごめんねーぼく、パパ借りるねー」
幸太にそうおっしゃったお嬢さんの一言に、各務氏、機嫌よさげに、デジカメ受け取りました……。
あの…もしもし?
各務氏いいいいっ、間違われてんのよ!?
子持ちに見られてんのよ!?
既婚者扱いされてんのよ!?
その扱い、ありなの!?
前回あれだけスルーしてたのに、今回は機嫌よく快諾とは、も、もしや、お声かけしたお嬢さん方の中に各務氏の好みのタイプがいたとか!?
わたしはお嬢さん方を見つめるが、どの子が各務氏のタイプなのやら……見当つかない……。脳内にある一応各務氏の好きなアニメのヒロインとかラノベのヒロインとか照らし合わせてみましたが、どのお嬢さんもあてはまらないしっ。
そこまで思い巡らせて、自分自身が、もやっとするような違和感を感じる…。
なにこれ……なんでここでもやっとわたしがしなければならないのですか!
そんなわたしの内心の動揺を知るべくもない各務氏は、お嬢さんたちにデジカメを返しわたしの隣に座って呟く。
「あーカメラもってくればよかったなー」
そういいながらポケットにあるスマホを取り出し、ガ○ダムを撮ってるよ!
ちょ、まて、わたしも撮るからっ!!
わたわたとバッグからスマホを取り出すところに各務氏に声をかけられる。
「美幸」
「はい?」
え?
スマホを私に向けて……いま……なに? わたしを撮ったの?
「な、なに撮ってんですかー!?」
「えー、この間のバーベキューの時、撮ってなかったから」
「吉井嬢が、結構撮影されてましたよ! データ持ってますよ!! 青木嬢からまた飲み会を設定したときに、持って行くって言ってましたよ!」
「いつ?」
「わかんないですけど!! みなさんの都合を聞いてからって……」
「へー」
「ばーべきゅーいいなーおれもいきたかったなー」
幸太が各務氏の後ろにまわって肩に手をかけてゆすっている。
それ……お父さんにおねだりする子供の仕草そのものですが……幸太君。
「幸太君は今度ね」
「え~いつ~?」
「いつかな~」
「いつなの~?」
「美幸がいきたいっていってくれたらね~」
「美幸ちゃんいこうよ~」
「ママがいいっていってくれたらね~」
姉さん……責任はあなたがとってくださいよ……。
頼むから。
「ママにきく~」
「そうね、帰ったらね」
そのスマホで連絡とれとか言い出す子ではなくてよかったと、わたしは胸をなでおろすのですが。
「おにいちゃんも、いっしょだからね~ぜったいだよ~」
……なんだその追い討ちは。
幸太君、キミ、背中にチャックついてませんか?
そしてそこに誰か入ってませんか?
回避しようとして墓穴を掘った状態ってこのことでしょうか?
誰か教えてください……。
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