第19話
第一回の合コンの時に感じていたんですが、いや、女子会の時にも思っていたんですけどね……。
このメンバーよく食べる人達だ~。
高速のサービスエリアで落ちあって、持ってきた食材トータルすると、バーベキューセットの網とかコンロとかは、やはり高本氏が持ってきた一台じゃ足りないので現地でもう一台レンタルすることに。
高速降りてから大き目のスーパーに寄って、運転する人もいるのでノンアルコール飲料を各種取り揃えて、おつまみ系のおかし購入し、目的地に到着。
で、セッティングなんですが。実はみんな本格的なバーベキューはしたことない人たちばかりだったということなんですよ。
僭越ながらわたしが、バーベキューセットの火のセッティングをしました。
わたしも初心者なのですが、ここ数日アウトドア系のサイトを閲覧しまくって予備知識はなんとなーく頭に入ってます。
飯盒炊飯もできるので小原嬢が持ってきた無洗米で、飯盒セッティング。
時間を計ったんですが、火力の調整まではやっぱり手が行き届かず。飯盒の底にお焦げができていたので、お焦げおにぎりをその場で作る。醤油とラップを持ってきてよかった~。
「ゆっきー! お肉美味しい!」
青木嬢が声を上げる。
「タレが母特製なんで、それに一晩漬けこんでおきました」
「ゆっきーおむすび~お焦げのおむすび~!!」
「はいはい」
なんだろう。この甥っ子幸太がたくさんいるような状態は。
いやわたしが参加女子の中で年上だから?
育ち盛りの子供に必死でご飯を与える母の気持ちってこんな感じですか?
にもかかわらず。
「ゆっきー、鉄板奉行なの?」
「冬場に鍋やったら仕切ってくれそー」
君たちがたくさん食べてるからでしょー! 冬場にこの女子三人で鍋をやると、鍋が煮たちすぎるとか。
うん、その原因、なんとなくわかります。
しゃべってないで火加減調節しましょうよ、鍋も見ようよ。
「美幸、もういいから、ちゃんと食べな」
各務氏がわたしにとりわけてくれたお皿を渡してくれようとしたのですが、いま、お焦げおむすびを、三宅君と高本氏が目で訴えてる。女子がほおばるおむすび食べたいって目が訴えてるんです~。
あれですよ、その、キレイ子ちゃんが食べてるおむすび、食べかけが食べたい~って目じゃないんですよ、ガチでそれよこせ的な、色気なし食い気オンリーの視線ですからーっ!!
「ああ、お焦げおむすび……」
「いいな~」
ホラキター!
でもお焦げもうないですよー! 肉、肉、野菜、肉、炭水化物、肉そしてノンアルコール飲料エンドレスですよこの人たち!!
「もう、先輩も三宅もーさっき、雪村さんが持ってきてくれたおにぎりも食べたでしょーが」
瀬田氏も食材焼きに集中してますね。
「人が食べてるものが旨そうに見えるんですよ!」
「そうそれが人情というもの」
「いや、ごめん、実際旨いからね、お焦げむすび」
むぐむぐ、とおむすびほおばりながら吉井嬢は言う。
キレイな飯盒の炊きたてを塩むすびにしようと思ってたが仕方ない。
「焼きむすびを作りますから~」
「ヤター!」
「わーい!」
わたしの一言に、どっかのお笑い芸人みたいに、ワイングラスならず缶をかんぽーいしてる男子二人。
「ゆっきーこのタンドリーチキンおいしい~」
「あーそれも母が勝手に味付けしてましたよ」
「つーか、お前らも食ってばっかいないで焼けー!」
瀬田氏が叫ぶ。
「ほら、専務のお達しだぞ、三宅」
「オレ!?」
「そう、お前」
「おこげおむすび、とっておいて~」
「美幸も、瀬田も、ちょっと休め」
「じゃ、じゃあ、あたしがやる。ゆっきー食べなよ」
小原さんと三宅君が焼きがかりを交代してくれた。
各務氏がとりわけてくれてた紙皿を受け取って、ようやくお食事タイムです。
焼きおにぎりにするのには、量的に少ない小さい炊きたておむすびを食べる。
「この鳥の手羽も美味かったよ」
「はい、あ、各務氏、お皿、持っててもらってすみません」
各務氏も楽しんでくれるのか、にっこり笑ってる。
「何ですか?」
「弁当ついてる」
「は?」
各務氏の指が伸びて、わたしの顔の口元に触れる。
ご飯粒がついてたのか!?
ご飯食べるちっちゃい子状態は、みんなじゃなくてわたしですか!?
恥ずかしすぎる。
で、各務氏はそのわたしについてたご飯粒を食べた……。
指についたご飯粒を舌先で舐めるように食べたんですが……。
エロいっ……なんかその仕草がエロかった。
その一連の仕草を見ていたのは、わたしだけじゃなかったらしく。
何人かが冷やかすような視線を投げてくる。
ご本人は別になんともないような涼しい顔をしてらっしゃいますが、こういうところがあれですよ、女子をホイホイさせる要因の一つかもですよ!
今の仕草、見てるこっちが照れちゃいますよ。
ただでさえ、焼き係をしてたので火の傍にいたため、汗が……。
あんまり代謝がいいとはいえないのですが、珍しく汗が……。
「大丈夫? ゆっきー」
「はい」
「涼んできた方がいいかもねー。顔真っ赤だし、各務さん悪いんだけど、釣り竿借りてきたから、ゆっきー連れてニジマス釣ってきてくれますか?」
青木嬢が言う。
「いいよ、おいで美幸」
各務氏がわたしの手を引く。
「青木ー、俺も、釣り行ってきていい?」
「あんたは食ってろ」
瀬田氏と青木嬢の会話が遠くから聞こえた。
各務氏が、釣り糸を渓流に向けて放すのをぼんやりしながら見ていた。
「美幸、ちゃんと食べた?」
「はい、味見というか焼き加減を確認する為につまみ食いしたので、意外と食べてたんですよ」
「そうか?」
「はい……、あの……美味しかったですか?」
「うん」
よかった~、あれだ、思い出しました。小学生の時の遠足。お弁当がやけに気合い入ってて、低学年まではキャラ弁、高学年になると、色どりと味を重視した母の弁当。それをすっごく褒められたのを、思い出した。
お母さんありがとうって思ったなー。
「お母さんの手弁当には一生勝てない気がする」
「なんだよそれ」
「え? 今回の食材の下ごしらえとか、母がほとんどやっちゃって、みんな美味しいっていうから」
「だってお母さんプロなんだろ」
「そうなんですけどね。普通、子供って母親の料理一番とか思うけど、もちろんわたしも例に漏れずそうなんですが、私の場合は、なんかちょっと逆にこう贅沢というか……」
「素直に言っちゃえよー、お母さんすごいでしょ!って」
「マザコンみたいじゃないですか」
もしも、多分、ありえないけれど、わたしが姉のように結婚して子供ができたとして、子供の遠足にあの豪華キャラ弁とか今日のバーベキューの下ごしらえ完璧レベルのお弁当とかは絶対に無理ってことですよ。
「雪村はすっごく可愛がられてるなーとは思ったけどね」
「はい?」
「末っ子なんだろ?」
「はあ」
「家族みんなに甘やかされた感じ」
「え? 結構放置だと思ったんですけど」
「それは自主性を大事にってことじゃね?」
「……」
「でも、ちょっかい出しちゃう、今回のお母さんみたいに。大事にされてんだなーって思ったな」
「……そうかな」
「で、美幸もやってみる?」
各務氏はわたしに持ってた釣り竿を渡してきた。
「え? え? コレどーすんですか?」
「持ってていいよ」
「持ってるだけでいいの?」
「美幸釣りやったことない?」
「うーん、あまり、兄はよく父といってたらしいですけど、わたしは小さくてあまり記憶にないんですよ」
「そっか、釣りデビューな」
なんか、最近、初めてやること多すぎですよ。
この年になって釣りをしてなかったという自分もアレですけど、バーベキューに主力で参加とかも学生時代はなかったし。
女子会やら合コンやらもそうだけど。
自分以外の誰かとプライベートの時間に一緒にいるっていう機会がすごく増えて、それになんとなく戸惑いつつも、楽しいとか思っちゃうわけで……。
「美幸、引いてる」
「へ?」
各務氏に指摘されて、釣り竿を上げて見ると先端がグイっと重たい何かに引っ張られている感じ。
「わ、わ、わーっ! どーすんですかコレ!」
「ばらすなよ」
「ばらすって何っ!?」
「餌食い逃げ」
「ひー、糸切れる!」
魚釣りって、魚ってこんなに糸引っ張るもんなの!?
「大丈夫、そんなすぐには切れない」
各務氏はそう言いながら、竿の先端を見てわたしの背後に回って手を添えて一緒に引いてくれた。
引きあげると、各務氏が釣り針をとって魚をバケツにいれる。
「わー」
「すごいじゃん」
「ビギナーズラックですよねー」
そう言いながらバケツの中の魚を見つめる。
「釣れるもんなんですねー」
「初めての釣り、面白かった?」
私が何度も頷く。
頷いていた頭に、ぽんと、各務氏の手の平が乗る。
まるで小さい子をいつくしむように……。
照れくさいという気持ちよりも、嬉しさの方が強くて、ドキドキしたのは、気のせいでしょうか……。
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