第3話

家に着き急いで父の書斎に向かう。確かこのあたりにあったはず…。


電気をつけるのももどかしく、薄暗い部屋の中、なんとか見覚えのある赤い本を探し当てる。主に流行り病について書かれた医学書。少し前に祖母が帯状疱疹を患った時に、天然痘を心配して父が読んでいたものだった。当時、私も興味本位でパラパラと眺め、不思議な病を見かけた、そんな記憶がうっすらとあった。


部屋に戻り頁をめくる。


『赤ゐ爪病毒』


あった。思わず手が震える。


「主に病毒を持つ者の爪を介して感染する。」


私は急いで着物を脱いだ。鏡台の前に立ち恐る恐る腕を持ち上げる。白い肌にみみず腫れのように小さな傷ができている。あの時、男の爪は私の肌に確かに触れたのだ。


「この病に感染すると手の小指に『恋愛細胞の活性』が赤く現れる。恋愛細胞は通常時よりも情欲を起こさせ、冷静な判断•思考力を著しく鈍らせる。」


ところどころ文字を追いながら頭がクラクラとしてきた。母が呼びに来ても返事もできずに、そのまま一晩布団の中で苦しんだ。身体が妙に熱っぽくておかしい。


こんな病、先生の事を想っている私には効き目なんて無いに決まってる。


明日はお稽古の日じゃないけど、どうしても先生に逢いに行かなくちゃ…と思った。だって先生も私に逢いたいと思っているに違いない。先生に触れたい。先生は私が来るのをきっと待ってるに違いないわ。

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