第7話

彼と一緒の生活は、毎日が音に溢れていた。


朝は目覚ましの音楽が鳴って、起きると彼は1番にアコースティックギターを弾いた。

昼間はどこかへ居なくなって暗くなると帰ってきてまたギターを弾いたり歌を歌いPCに長時間向かった。


最初は何をやっているのかよく分からなかったのだけど、どうやら曲を作っているようだった。

時々ヘッドフォンを外してスピーカーで音を流すと聴いたことのない様なキラキラした音が部屋に溢れた。凄い人だと私は思った。


彼は真っ暗になると庭に出て、小さな虫を捕まえてきてくれた。そしてスポイトの先につけてそれを私に食べさせてくれた。何の違和感もなく、美味しく虫を食べる自分が不思議だった。もう1人の自分が、少し離れたところに浮かんでこちらを観察している様な、とてもおかしな感覚だった。


ある夜、いつもの様に虫を食べ終えた私の目の前に、彼の手が伸びてきた。掌にのると身体がフワッと浮き上がる感覚の後に目の前に彼の顔があった。彼と目が合うと心が今にも浮いてしまう様なふわふわした気持ちになった。

カエルなのにどうしてなんだろうと、私は不思議に思った。


「ここに乗れる?」


そう言って彼はアコギのゆるやかな側板に私を乗せた。彼がギターを弾くと、音色が身体に直接響いて、脳内が音で満ち溢れた。

なんだか身体の色が変わりそうなくらい彼の音でいっぱいになる様だった。


ウットリしていると急に


『トンッ』


という振動がきた。咄嗟に側板にしがみつく。


『トンットンッ』


リズミカルに彼がギターのボディーを叩きながらギターを奏でる。必死に足を踏ん張る私に気づいた彼の目が笑った。


左手で忙しく弦を押さえながら、右手ではトントンボディーを叩きつつ器用に音を奏でている。

あんまりギターが揺れるので私は思わず彼のシャツの胸の辺りに飛び移った。

何これ…なんだったっけ…何か不思議な言葉が頭に浮かぶ。えっと、確かスラム奏法だったっけ。


「怖かった?」


ギターを弾く手を止めて私を覗き込む目がいたずらに笑っている。

トクントクンとシャツを通して彼の鼓動と胸の温かさが伝わってきた。


何だろう、この感覚。


確かに知っている、どこか懐かしいような感情に心地よく捕らえられ、ギュッと胸が締め付けられた。

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