第2話
ドラムのケイタくん、ベースのユウマくん、ギターのオオタくん。薄ら明るいステージの上にヌルッと登場してそれぞれ楽器の音を確かめるメンバーたち。『アンデッド』は、颯斗たちが中学2年の頃から細々と続けてきたバンドらしい。
メンバー全員がそれぞれ別の高校に進学して毎日顔を合わせなくなってしまったので解散。残念だけど自然な流れだと思う。「みんな彼女が出来て音楽どころじゃなくなったんでしょ。結局その程度のコピーバンドだよね。演奏も下手だし。」と、南はかなり辛辣だった。
1年前、高校に入学して仲良くなった南に誘われて行った『アンデッド』のライブで私は颯斗と出会った。当時、南はユウマくんと付き合っていて、その2人となんとなく自然な流れで颯斗と一緒に、4人で度々遊ぶようになった。私と颯斗が付き合う事になった頃、ちょうど南とユウマくんは別れた。原因は、ユウマくんの二股だった。
友達と話しながらずっと楽しそうに揺れていた小宮愛莉の細い肩が急にピタッと静止する。
音もなくステージに現れた颯斗は、見た事のない赤いシャツを着てメイクを施して髪はパリッとセットされていてあぁそういえば友達のお姉さんに今回はヘアメイクを頼んだって言ってたなぁと私はぼんやりと思い出していた。
なんでだろう、毎日の様に小さな部屋であんなに近くでくっついているのに、ステージに立つと遠く手の届かない人の様に感じた。
あっけなくイントロが始まる。私は小宮愛莉越しにマイクスタンドの前に立つ颯斗を見つめた。
ギターを弾きながら颯斗が歌い出す。聴き慣れた曲なのに、まるで初めて聴くみたいなおかしな気持ちになる。颯斗の視線は小宮愛莉に釘付けだった。まるで視線で刺し殺すかの様に、真っ直ぐに小宮愛莉を見つめて歌っている。
颯斗を見上げる彼女は、一体どんな表情をしているんだろう。2人が見つめあっている事は間違いなかった。わけが分からなかった。私だってここに居るのに。ステージから見える距離に確かに立っているのに。これじゃまるでこの世が颯斗と小宮愛莉しか居ない世界になっちゃったみたいじゃない。どうして?
2曲目になっても3曲目になっても、颯斗の視線は変わらない。極端に彼女を見つめている。
頭がおかしくなりそうだった。吐き気さえしてくる。これは何の罰ゲームなんだろう。
サヨナラの歌だけど、哀しい歌だけど、どうしようもなく溢れる好きを歌った歌なんだ。
いつも目の前で聴かせてくれた歌、2人きりで。
あの時間は、偽物だったの?
それとも今が偽物の時間?どっちなの?
ねえ、どっちなの?
自分の心の中がどんなに騒ぎ立てても、大きな音にかき消されてどこにも誰にもいっさい通用しない感じだった。隣に居る南の顔すら怖くて見れなかった。
マイクを通した颯斗の声は、何だかいつもと違って、歌の持つ力が全力で私を邪魔モノ扱いしてくる様なおかしな感覚にすっかり私は陥ってしまった。
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