第40話 魔族(2)


 僕は勇者ラインハルトに連れられて、お城へやってきた。

 お城の一番大きな部屋に通されて、王様と対面する。


「王様、こちらが魔族を倒したノエルです。彼はすごく優秀な人材だと思います」


 ラインハルトが僕のことを王様に紹介する。

 僕は必死に王様から目を逸らす。


「ふむ、単独で魔族を倒すか……それは素晴らしい。勇者ラインハルトにも劣らぬ人材だ。君はもしかして、有名な冒険者だったりするだろうか? そのような素晴らしい人材が無名なはずはあるまい」

「い、いえ……僕はなんてことのない、普通の冒険者ですぅ……」


 僕は王様から目を逸らすが、王様はじろじろと僕の顔を見てくる。


「お主、名前をノエルといったか? そういえば、最近優秀だと言われているクランのリーダーの名前もそんなのだった気がするな。閃光のノエルとかいったかな。もしかしておぬし、その閃光のノエルではないか……!?」

「ひ、人違いですぅ……」

「そうだ! そうに違いない……! おぬしは閃光のノエルだ! のう、大臣」


 王様は隣にいた大臣にも確認する。

 大臣はなにやら資料みたいなものに目を落とし、僕の顔と見比べる。


「はい王様、たしかにこの人物は閃光のノエルで間違いありません。資料にある顔と一致しています。それに、今これほどまでに強い冒険者は、閃光のノエルくらいなものでしょう」

「やはりそうであったか。よし、閃光のノエルよ、褒美をとらせよう。なんでもいうといい」


 くそう……やっぱりバレたか……。

 そしてその名前はやめてほしい。


「いや……僕は本当に何もしていないので……」

「いや、そうはいかん。あとで大臣になんでも言っておきなさい」

「は、はい……」


 なんでもというのなら、冒険者を引退したいんですけど。

 それはまあ、だめなんだろうなぁ……。

 僕が冒険者を引退したいとか言ったら、国の損失だとか騒がれるに違いない。


「ふむ、せっかく閃光のノエル殿と会うことができたのだ。ここはひとつ、おぬしの実力が見たい」

「はぁ……僕の実力ですか……」


 実際の僕の実力なんて大したことないんだけど。

 ここでもし僕の実力がしょぼいってことがばれたら、解放してもらえるのだろうか。

 それか、手を抜いたとか思われて処刑されたり……!?

 どうすればいいんだ……。


「そこにいる勇者ラインハルトと模擬戦を行ってもらう。それでおぬしの実力を確かめたい」

「は、はいぃ……!?」


 なんかとんでもない話になってきたんですけど……!?

 勇者と模擬戦なんかしたら、いくら模擬戦でも僕死んじゃうよ……!?

 それにここには、エリーもマリアもいないし……。

 だけど、あの剣の光線を使うわけにもいかないし……。

 光線なんか出したら勇者が死んでしまうかもしれない。

 それに模擬戦は木刀で行うものだしね。


「いいじゃないか。僕も君と戦ってみたいよ……!」


 ラインハルトはどうやらやる気のようだ。

 木刀を手に取って、僕にも一本渡してくる。

 はぁ……やるしかないか……。

 まあ、木刀だからさすがの僕も死んだりしないだろう。

 適当に受け流して負けて終わるか……。


「よし、それでは模擬戦はじめ……!」


 大臣の一声で、戦いが始まった。

 ラインハルトは僕に斬りかかってくる。

 僕はまともに剣なんか使えないから、逃げるしかない。

 幸い、僕は逃げ足だけは得意なんでね。

 僕はラインハルトの攻撃を、よけまくった。


「逃げてばかりでははじまらないよ……!」


 ――シュン。

 ――シュン。


 しばらくラインハルトと剣を打ち合っていると、あることに気づいた。

 あれ……?

 なんだか、ラインハルトの動きは思ったよりも遅いぞ……。

 簡単に避けれるし、これなら今までに戦ってきたモンスターや、僕のパーティーメンバーたちの方が強い気がする。

 それに、どこかラインハルトの動きには隙も多い。


 なるほど、僕の弱さを見抜いて、僕に恥をかかせないように、手加減してくれているのだな。

 きっとそうに違いない。

 ラインハルトは優しいなぁ……。

 僕もそれに応えないとな。

 このくらいの攻撃なら、僕でもなんとか受け止められそうだ。

 僕はためしに、ラインハルトの剣を受けてみることにした。


 ――キン。


 僕がラインハルトの剣を受け止めたときだ。

 ラインハルトの剣は、弾かれて宙を舞った。

 あれぇ……?


「っく……すさまじい防御力だ……! 僕では全然かなわない……!」

「えぇ……!?」


 ど、どういうことなんだ……!?

 ラインハルト、勇者のくせに弱すぎないか……!?

 どうやらラインハルトは僕に恥をかかせないために、わざと負けてくれたようだ。

 だって、どう考えても勇者ラインハルトの実力が、こんなにしょぼいはずがないもんね……。

 ロランやエリーと比べても、ラインハルトの動きはおそまつすぎる。

 勇者というくらいだし、彼のパーティーランクはおそらくSSかSSS級だろうし……。

 個人の冒険者レベルも、少なくとも僕よりは上だろうからね。


「勝者……ノエル……!」


 それにしても、これはまた面倒なことに……。

 王様の前で勇者を打ちのめしちゃったよ……。

 なんで勇者さんもこんな面倒なことするんだよぉ……。

 こんなことだったら、僕のほうももっと手を抜いて、先にわざと負ければよかった。

 王様は満足げな表情で僕を見る。


「ふむ……さすがは閃光のノエルだ。それで、どうだろうか、君に魔王軍と戦うための力を貸してほしい。これはまだ国民には漏らせん極秘の情報なんだがな……。まあおおよその察しはついているとはおもうが……。我々の情報によると、近々魔王が復活するのだ。君が出会った魔族も、その魔王軍の先行部隊というわけだな」

「えぇ……!? 僕にですか……!? そ、それは無理ですよ……」

「いや、これほどの人材を寝かしておくわけにはいかないのだ。頼む……!」

「うえええええ……!?」


 引退するどころか、なぜだか魔王と戦うことになってしまったんですが……!?

 ていうかラインハルトさん、そのためにわざと負けたんでは……!?

 くそおおお図ったなああああ!!!!

 これ、みんなになんて説明しようか……。

 

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