第39話 魔族(1)

 

 ファイナルドラゴンとの戦いを終え、僕はついに決意した。

 あかん……このままじゃ、ほんまに死ぬ。

 あのときはたまたま剣が僕を助けてくれたけど、このままだと命がいくつあっても足りない。

 僕はついに、逃げることにした。

 もうクランもパーティーもどうでもいいよ。

 僕は自分の命をまもるために、もう全部捨てて逃げることにしたのだ。


「はぁ……とはいっても、これからどうするかなぁ……」


 とりあえず着の身着のまま逃げ出してきたけど、ここから行く当てもない。

 まあとりあえず、実家にでも戻るか……?

 僕は森の中を当てもなくさまよう。

 しばらく一人で歩いていると――。

 突如、上空から雷のような音がした。

 上を見上げると、空がまるで毒の沼地のように、まがまがしくうなっている。

 そして空に切れ目が入り、なんとそこから悪魔の角と羽根、尻尾を持った人間が現れた。


 これって、もしかして……魔族……!?

 話にはきいたことがある。

 数百年に一度、魔王が復活するという伝説だ。

 魔王が復活する直前、空が割れて大量の魔族が現れるらしい。

 もしかして、それなのか……?

 でも、なんでこんなところに……!?

 しかも、その魔族はちょうど僕のところに向かってくるじゃないか……!

 なんで一人になった途端こんな目にあうんだよぉ。

 僕は結局、どうやっても死ぬ運命なのか……!?


「けけけけ……! これは弱そうな人間がいるなぁ。さっそく殺して、魔王様への手みあげとしよう」

「ひぃ……!?」


 魔族は僕をみつけると、襲い掛かってきた。

 ど、どうしよう……!?

 このままじゃ僕は殺される……!

 だけど僕だってただで殺されるわけにはいかない。

 僕は剣をさやから抜いた。


「うおおおおおお!」


 僕は剣で魔族に攻撃するけど、また空振りだ。

 やはりこの剣は僕には重すぎる。


「雑魚め……!」


 魔族は僕の攻撃をかわし、頭上から襲い掛かってきた。

 死ぬ……!

 そう思ったその瞬間。

 また、剣から謎の光線が出た……。


 ――ビイイイイイイ!!!!


「ぎゃあああああああああああああ!?」


 魔族は光線に焼かれ、地面に落ちた。


「今だ……!」


 僕は動かなくなった魔族にとどめをさす。

 ――グシャ!


「ふぅ……なんとかなったけど……」


 でもやっぱり、これってこの剣がすごいだけだよね……?

 もし剣が発動しなかったら僕はやっぱり殺されてたわけだから、うん、やっぱり引退するべきだ。

 剣が発動する条件もよくわからないしね……。

 はやく実家に帰りたい……。

 魔族を倒し、一息ついたときだった。

 急に、茂みの中から、なにやら荘厳な鎧を身に着けた騎士が現れた。

 騎士は僕と、倒れている魔族を交互に見ると、驚いた顔で近づいてきた。

 あれ……これやばい……?


「魔族の反応を追ってきてみたら……これは驚いた……」

「え……?」


 魔族の反応……てことは、ここに魔族が現れることをあらかじめ知っていたのか?

 この人はなにものだ……?

 もしかして、魔王や魔族を追ってるってことは、勇者……?

 いや、そんなまさかな……。


「これは君が一人で倒したのか……?」

「いや、まあ……一応そうですけど、でも、剣が倒した……みたいな……?」

「なにを言ってるかわらないが、まあいい。とにかく、君の話がききたい。少し私と来てもらえないだろうか……?」

「えっと、その前に……。まずあなたは?」

「ああ、私か。私は王国騎士のラインハルトだ。まあ、ちまたで言われてるところの勇者というやつだな」


 そのまさかでしたわ……。

 って、こんなところで勇者に会えるなんて……。

 それにしても、僕に話がききたいなんて、これはもしかして面倒なことになったか……?

 勇者の手柄横取りしちゃったもんなぁ……。


「あの、僕はノエルです」

「ノエルくん、一緒に城まで来てもらおうか」

「えぇ……城……!?」


 城ってことは、王様もいるってことだよね……。

 王様かぁ……僕にファイナルドラゴンの討伐を指名してきた人だよね。

 僕が閃光のノエルだってバレたら面倒なことになりそうだ。

 このままじゃ、クランに連れ戻されるんじゃないのか……?

 そうだ、逃げよう。

 僕はこっそりと、逃げようとしてみる。

 しかし、ラインハルトは僕の肩をがっしりつかんで離さない。


「ノエルくん、どこへいくんだい。さあ、城はこっちだ。いこうじゃないか」

「あ、はい……」


 逃げられそうにない。

 僕の力では、彼の手を振り払って逃げるなんてことは不可能だ。

 くそう……引退したいのに……。

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