第38話 SSSクラス(2)
【受付嬢視点】
「実は、数か月前まではうちでも従来型の測定器を使っていたんですけどね。どうやら不調があったようで、取り換えたんですよ。新しいものに」
「ふぅん」
ディルグシュは興味なさそうに相槌をうつ。
私はなんでだか、もっと彼と話したい、なんて思ってしまって、場をつなぐために、他愛もない世間話を繰り出した。
「それがですね、きいてくださいよ。ノエルさんっていう冒険者さんなんですけど、彼、S級なのに魔力は100しかないみたいなんですよね」
「へぇ。それは、変わっているね……初めてきく名前だ」
少しディルグシュの表情が変わる。どうやら話に喰いついたみたいだ。
私は話を続ける。
「いえね、なかなかに評判な方なんですよ。実績も十分です。閃光のノエルという二つ名まであります。だからこそ、不思議だったんですよね。強いと噂されるほどの、ノエルさんでさえ、魔力が100しかないなんて、おかしな話じゃないですか」
「まあ、そうだね。不思議な話だ。魔力の量は、特に後衛職においては強さに直結するからね」
「それで、担当の受付嬢は、測定器の故障を疑ったんですよ」
「まあ、当然の帰結だね」
「ノエルさんが最初に測ったとき、従来型の測定機でしたから、100万までしか測れません。もしノエルさんがそれより多くの魔力を持っていたのだとしたら……。当然、従来型の測定機ではおかしな数値になってしまいます。それで、王都から取り寄せたのがこちらの新型の測定機っていうわけなんですよ」
「ほう。じゃあ、僕はそのノエルくんとやらに感謝だね。彼のおかげで、王都までわざわざいかなくても、新型の測定機が使えるってわけだ。……えーっと、それで……。話のオチをまだきいてないな。その新型の測定機で彼を測ったら、次はどうなったの?」
「それがですね。新型の測定機でも、ノエルさんの魔力は100だったんですよ! つまり、最初の測定機も壊れてたわけじゃなくって、ただノエルさんの魔力が極端に低いってだけの話だったんです。まあ、その勘違いのおかげで、うちは新型測定機を導入する予算を得ましたけどね~」
「それにしても、不思議な話だね。じゃあ彼は、本当に100ぽっちの魔力でS級冒険者までなり上がったってことになる。そんな人物、きいたことないな。ちょっと興味がわいてきた。いったいどういうからくりなんだろうね」
「さあ。でもノエルさんの噂はすごいですよ。伝説の剣を抜いたとか、ドラゴンを一刀両断したとか。最年少でレベル8の冒険者になったっていいますし」
「ふぅん。伝説の剣……ね」
何気なく、話の流れで出したノエルさんの話題だったが、思った以上にディルグシュの食いつきがいい。
やはり今噂のノエルさん、ただものじゃないんだろうな……。
ディルグシュほどのオーラはないけれど、彼もまた話題の中心だ。
ノエルさんに興味をしめすディルグシュの一方で、ヴィエナはそんな話には興味がないといった感じだ。
「ふん。なによ、そんな男。とどのつまり、ただの雑魚じゃない。魔力100だなんて、男として情けないわ。そんな男、人権ないわよ。男はやっぱ、魔力は1万6千はないと人権ないわよね~」
ヴィエナはそんなふうに、ノエルさんのことを貶してみせた。
それに対して、もう一人のパーティーメンバーの女性、コトコさんが同調する。
「そうですよね~。そんなの、男として全然見れないです。それに、おかしな話ですよ。魔力100でどうやって戦うんです? そんな人がS級になれるなんて、ありえません。きっとなにか不正を働いたにちがいありませんよ。最年少でレベル8なんて、ありえない。だって最年少でレベル8になったのはディルグシュ様のはずでしょう? それを魔力100っぽちの人が塗り替えるなんて、おかしいですよ」
「まあ、確かに……とっても不思議な話だねぇ」
ディルグシュはコトコに同意する感じで受け流す。
女の扱いには慣れているといった感じだ。
「あ、えっと。話が逸れてしまいましたね。それより、魔力測定でしたよね。はい、こちらの測定機に、手をかざして魔力を込めてください」
「そうだね、そうだったね。本命は魔力の測定だった。つい、君の話に夢中になってしまったよ」
ディルグシュははにかみながら、新型の魔力測定機に手をかざした。
そしてディルグシュは魔力を込める。
しかし、魔力測定機の針は――0のままだった。
ディルグシュは困ったような顔をして、言った。
「うーん、どうやらこの測定機、壊れているみたいだね……?」
「え。ええええ……!? おっかしいなぁ……。先月導入したばっかなんですけどねぇ……」
私も困ってしまって、魔力測定機を叩いてみたりする。
しかし、測定機はうんともすんとも言わなくなってしまった。
「ディルグシュさんの魔力が多すぎて、壊れてしまったんですかねぇ……?」
「いや……どうやら、この測定機は僕が手を触れる前から壊れていたみたいだ」
「えーっとじゃあ……」
「ねえ、この測定機を最後に使った人物は誰だい?」
「ちょっと待ってくださいね……。今、記録を見てみます」
私は、資料を確認して、最後に測定した人物を調べた。
ディルグシュは、最後に使った人物が故障の原因だって思ってるようだけど……。
新型の魔力測定機が故障することなんて、あり得るの……?
だってこの新型の測定機は魔力1000万まで測れるしろものだときいている。
それが壊れるようなことって、ありえるとしたら……。
「あった! ありました」
すると、その人物はあの人だった。
「ノエルさん……ですね……」
「ノエル……か。ふふ……閃光のノエル……面白そうな男だ……」
ディルグシュは不敵な笑みを浮かべた。
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