第37話 SSSクラス(1)


【受付嬢視点】


 私がいつものように、冒険者ギルドの受付をしていると……。

 冒険者ギルドの重たい扉を、軽々と開け、そこに入ってきたのは、マントを身にまとった謎の男だった。

 男の目は鋭く、どこまでも深い深海の色をしていた。

 髪の毛はイケメンにしか似合わないような綺麗にセットされたヘアースタイルで、紺色。

 そしてなにより特筆すべきがその整った端正な顔立ち。

 

 男は一目見ただけで、ただものじゃないことがわかる、それほどまでに異質なオーラをまとっていた。

 たんに魔力が多いというだけじゃない。

 空間そのものを支配するような、そんなオーラがあふれ出ていた。

 英雄や勇者というのを実際に見たことはないが、彼のような人がそうなのだろう。


 実際にはただの太陽光なのだが、彼の後ろには後光が差していて、とても神々しい。

 豪快な男らしさの中に、どこか気品もあるような彼の姿は、一瞬でギルド内にいた人々の目線を惹きつけた。

 男はまっすぐに受付カウンターへと向かって歩いてくる。

 男の後ろには、見目麗しい美少女が二人ついて歩いている。

 彼女たちはおそらく、男のパーティーメンバーだろう。


 男のパーティーメンバーにふさわしく、彼女たちもまた、自身に満ち溢れた目つきで、周りとは明らかに違っていた。

 ただ美しいというだけでなく、威圧感すら感じさせるほどのまばゆいオーラだ。

 私は彼らのあまりにもすさまじいオーラに気圧されて、ぼーっとほうけてしまった。

 気が付くと、男は私のカウンターの目の前に立っていた。

 目の前に立たれると、一層迫力がすごい。

 取って食われるのではないかというほどの目線に、私は委縮してしまう。

 圧倒的に強い雄を前にして、私の心は屈服せざるを得なかった。

 思わず、初対面にもかかわらず、無意識に無条件に彼の子を孕む想像までしてしまうほどだった。


 いったい何秒、私は彼の目を見つめていたのだろう。

 あまりにぼーっとしていたので、隣のカウンターにいる同僚から、注意される。


「ちょっと! ハンナ! しっかりしなさいよ! ディルグシュ様がお待ちよ!」

「ディルグシュ様……」 


 それが、彼の名前なのだろう。

 私は今年入ったばかりの新人で、まだ冒険者の名前には疎い。

 だけど、その名前に聞き覚えがあった。

 ディルグシュ・アインシュタイン――史上最年少でSS級冒険者になった伝説の英雄だ。

 

「いいかな……?」


 ディルグシュの声はとても深く低く、脳から子宮まで一直線に響き渡るような声だった。

 私はほうけてしまって、間抜けな声で反応する。


「は、はい…………」

「僕たち、今月でようやくSSS級冒険者になったんだけど、魔力の測定をしたくてね。決まりだろ? パーティーランクが上がったら、ギルドカードの情報を書き換えるために、更新が必要だ。久しぶりの昇進だけど、忘れちゃいないよ」


 そういえば、朝礼で通達があったな。

 今月、SSS級にあがるパーティーがあるから、魔力測定の用意をしておけと。

 それがまさか、ディルグシュのパーティーだったとは。

 彼らは最年少でSS級になった記録を持っている。

 ってことは、SSS級になるのも、彼らが最年少ってこと……?


「お、おめでとうございます。それでは魔力測定器をお持ちいたしますので、しばらくお待ちください」

「ああ、頼むよ」


 私はなんとか緊張を隠しながら、仕事をする。

 間近で見るディルグシュは本当にかっこよかった。

 私が奥に引っ込んで、魔力測定器を持ってこようとしていると、ディルグシュのパーティーメンバーの一人が、彼に耳打ちした。

 私の耳がいいのか、彼女の声が大きいのかはわからないが、その内容は私の耳にまで届いた。

 

「ねえ、ディル。あの受付嬢、きっとあんたで濡れてるわよ? 今晩あたり、抱いてやったらどう?」


 その言葉をきいて、私は思わずどきっとしてしまう。

 少なからず、ディルグシュのことをいいと思っていたのは本当だからだ。

 だけど、彼女のいいぐさは気にかかる。

 その言い方だと、ディルグシュが言えば私がほいほいついていく軽い女みたいじゃないか。

 さすがの私もいくら相手がSSS級冒険者だからって、初対面でナンパされて、ほいほいついていって股を開くようなアバズレじゃない。


「ふん、必要ないさ。僕には君たちがいるからね。ヴィエナ。コトコ」

「ふふん。そうよね~! やっぱあんな田舎の芋女じゃなくて、私たちを選ぶわよね~」


 ヴィエナと呼ばれた女性は、そう言われて上機嫌だ。

 なんだ、自分が気持ちよくなるために、私を引き合いにだしたのか。

 直接なにか言われたわけじゃないとはいえ、気分が悪いな……。

 そうこうしているうちに、私は魔力測定器をもって、カウンターへ戻った。


「こちら、王都から取り寄せた、新型の魔力測定器になります。以前の測定機よりも多くの魔力を、正確にはかることができる優れものでございます」


 私は説明をしながら、魔力測定器をカウンターの上へ置いた。

 ディルグシュは少し興味深そうに、それを眺めた。


「ふぅん。新型の魔力測定器ねぇ。王都にはあるときいてはいたけど、こんな田舎ギルドにもあるなんてね。でもよかったよ。僕の魔力は以前からだいぶパワーアップしているだろうからね。前の魔力測定器でギリギリだった。ここで測れないようなら、王都までいこうかと思ってたけど、なんとかなりそうだね」


 たしかにディルグシュの言うとおり、彼の今使っているギルドカードに記されている彼の魔力量は、通常の魔力測定器で測れるギリギリの値だった。

 従来型の魔力測定器では、100万までの魔力しか測れない。

 ディルグシュが2年前SS級に上がった時点での魔力量は、およそ80万と記されていた。

 そこから2年経って、SSS級にまで上がった彼の魔力量であれば、100万を超えていてもなんらおかしくはない。


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