第36話 クラン(7)


「そこをノエル、お前が剣でぶった切ってくれ」

「うん……って……ええ……!?!?!?」


 ちょっとロラン!

 それ作戦って言わないよ!

 それ、この前サイクロプス倒したときとほぼ一緒じゃないか……。


 そんな単純な作戦、そう何度も上手いこといくわけないと思うんだけど……。

 でも、それしか方法はないのか……?

 たしかに、火力の要であるエリーの攻撃が通用しないとなれば、あとは僕のこの伝説の剣くらいしかないけど……。

 でも、この伝説の剣にしたってエリーが使ったほうがまだましなんじゃないのか……?


「ねえエリー、試しにエリーがこの剣使ってみない……?」

「え、無理よ。私剣なんて。それに、伝説の剣に選ばれたのはノエルでしょう?」

「そうだけどぉ……」


 やっぱりダメか……。

 そうこうしているうちに、ドラゴンが僕たちのことを補足した。


「ガルルルルル……!!!!」

「やばい……! 逃げろ……! よしノエル、あとは作戦通りにだ……!」


 そんな無茶なぁ……!

 でも、やるしかない……!

 僕は死にたくないからね……!


 まず、フェンちゃんが空中にいるドラゴンにとびかかる。

 さすがはフェンリル種のモンスターだ。

 ドラゴンにも全然負けていない。

 フェンちゃんはみごと、ドラゴンを地面に引きずり落とすことに成功した。


「ガルルゥ……!」

「ワンワン……!」


 よし、今がチャンスだ……!

 ロランが大盾を持って、ドラゴンに駆け寄る。

 そして盾でドラゴンをプレスして、抑え込む……!


「よしノエル、今だ……! いけええええええ……!!!!」

「うおおおおおおおおお!!!!」


 僕はドラゴンに向かって剣を振りかざす……!

 そして僕の大振りの剣は……見事に空振りした……。


 ――スカ!


「うえぇえ……!?」


 あかん……剣が重すぎる……!

 ひ弱な僕がこの剣でドラゴンを斬るのは無理がある……!

 サイクロプスを倒したときだって、あんなのまぐれでたまたまうまくいっただけだ。

 剣は見事に空振りし、地面にずどんと落ちた。

 その隙をドラゴンは見逃してくれない。


「ガルルルルル!!!!」


 ドラゴンはロランを跳ねのけて起き上がると、今度は僕のほうへ一直線に向かってきた。


「うわああああああああああああああ!!!!」

「ガルルルルル!!!!」


 ドラゴンは僕に向かって突進してくる!


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」

 

 僕は闇雲に、目の前で剣をぶんぶん振り回した。

 ドラゴン、あっちいけええええ!!!!

 やめてえええええ!!!!


 そのときだった。

 なにか、身体の中からエネルギーが湧いてくる……!

 これは……!?


 そして、次の瞬間。

 僕の伝説の剣【月闇の輪舞】から、なんか光線が出た。


「なんか出たぁ……!?!?!?」


 その光線は、ドラゴンの目に直撃した。

 しかし、ドラゴンはひるんだだけで、まだ生きている。

 視力を失い、混乱したドラゴンはあちこち歩きまわって、混乱している。

 危ない……!


「にげろ……! よし、今のうちになんとかしよう……」

「私に任せて……!」


 すると、エリーはなにやら魔法を唱えだした。


「エリー……! どうするんだ……!」

「今ので時間稼ぎになった! 今のうちに、特大魔法を唱えるわ……!」

「なるほど……!」


 エリーの前でロランが盾を構えて守る。

 エリーは今のうちに、特大魔法を唱えている。

 特大魔法は、その強力な威力の分、唱えるのにも時間がかかる。


「グオオオオオオオ!!!!」


 ドラゴンは混乱し、壁にあたまをぶつけている。

 よし、これならなんとか特大魔法が間に合いそうだ!


「エリー! いける……!?」

「うん……! 食らええええええ!!!! 隕石爆破メテオストライク――!!!!」


 ――ズドーン!!!!


 エリーの特大魔法が炸裂する……!

 魔法はドラゴンに直撃すると、ドラゴンを完全に仕留めた!

 ドラゴンの巨体はその場に倒れる。


「やったぁ……!」


 僕は大喜びで振り向いた。

 なんとか死なずに勝てたぞ……!

 しかし、僕が振り向いたそこには――。


「うーん……」


 なんと、ロランとマリアはさきほどの特大魔法の衝撃波で、気絶していた。

 僕だけマリアの魔法障壁のおかげで無事だったようだ。

 って……マリア僕だけじゃなくて自分にも張りなよ……。

 特大魔法を撃ったとうの本人、エリーも、魔力切れを起こして気絶していた。

 まあ、さすがにあれほどの威力の魔法を撃てば、無理もないか……。

 だけど、無事なのが僕だけって……。


「はぁ……みんなを抱えて帰るか……」


 僕は気絶したみんなを背負って、ダンジョンを出るのだった。


 そして――。


「なんでこうなった……」


「いやぁ……さすがはノエルだ……! 一人でドラゴンを倒してしまうなんてな……!」


 僕はみんなに、胴上げされていた。

 そう、僕以外のみんな気絶していたせいで、みんなは勘違いをしていた。


「さすがよね、ノエルは。私たちは気絶してなんにも覚えてないからねぇ」

「気絶した私たちを守って、ドラゴンを一人でたおすなんてすごいです……!」


 みんな、気絶していて、その前後の記憶をなにも覚えていないらしい。

 そして、僕一人がドラゴンを倒したのだと思っているようだ。

 もちろん、説明したけど無駄だった。

 この人たちは人の話をきかない。


「いやだから、僕じゃなくてエリーの特大魔法なんだって……!」

「またまたぁ! 謙遜はいいから……!」


 もう、どうにでもしてくれ……。

 そのあと、僕は王様にも褒められたし、褒美をもらった。

 王様にまで僕一人で倒したと思われたみたいだ。

 そして僕には閃光のノエルという名前だけでなく、ドラゴンスレイヤーの異名もついた。

 僕の意図しない形で、どんどんと僕の名声が上がっていく……。


 こうしてまた、僕は一歩引退から遠ざかった。


「はぁ……いったいいつになれば僕は引退できるんだ……?」


 引退までの道のりは、まだまだ遠そうだ。

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