第33話 クラン(4)


 高難易度のクエストは他のパーティーに押し付けて、楽なクエストだけ自分でこなしていた。

 それなのに……なんでこうなった……?


「いやぁ、いつもノエルさんは無傷で帰還していてすごいです……! さすがです……! 尊敬しちゃいます!」


 クランメンバーのCランク冒険者が、僕のことをしきりに褒めちぎる。

 うん、いやぁ……?

 まあ僕たち、簡単なクエスト受けてて楽してるからね。

 それに、僕はそもそも戦闘しないし……。

 だから僕が無傷なのはあたり前なのだった。


「ま、まあね……それほどでもないよ……。あはは……」

「さすがはクランリーダーだ……!」


 なんか変な勘違いされてるみたいだけど、まあいいか。

 今までは変な勘違いで僕の手柄になるのは、すごく迷惑に思っていた。

 だって、僕の功績になって、僕の名声が上がると、危険なクエストにいかなくちゃいけなくなるからね。

 だけどまあ、今となっては、僕の名声が上がるということは、クランの評判にもつながる。

 クランの評判が上がれば、ギルド設立にも近づく。

 つまり不労所得に一歩近づくということだ。

 まあ、好きに勘違いさせておこう。


 そう、僕は最強のクランリーダーを演じてみせよう。

 そうしておけば、いずれ引退できるよね……?


「しかも、クエストから帰ってくるのも、ノエルさんのパーティーが一番乗りですもんね! すごいです……!」

「ま、まあね……」


 だって、簡単なクエスト受けてるからね。

 そりゃあ、アヤネたちのほうが時間がかかるのは当たり前だ。


 なんだかクランメンバーたちの間では、僕ら【霧雨の森羅】が一番難しいクエストに行ってると思われているみたいだ。

 まあ、そりゃあそうか。

 まさかクランのトップパーティーがわざわざ簡単なクエストばかり受けてるだなんて、誰も思わないか。

 そのせいで、僕たちはとんでもなく強いパーティーだと思われているみたいだ。

 まあ、僕以外はそれで間違いないんだけども。

 まあいいや、勝手に勘違いさせておこう。


 だが、このことがとんでもなく面倒なことに発展するのだった――。



 ◆


 

【王様視点】



「うーむ……困ったことになった……」


 私はこの国の王である、ファマス・フェルナンド。

 現在、かなり面倒なクエストを抱えていた。

 王の仕事の一つに、クエストの発行や許可というものがある。

 この国では、難易度の高すぎるSランククエストは、まず一度王のもとに集められることになっている。

 そして集められたクエストは、一度王のチェックを通す。


 王はクエストを、各ギルドやクランに振り分けるのだ。

 それが王の仕事のうちの一つだった。

 だが、今手元にあるクエスト……これはどこのギルド、クランに依頼すればいいか、悩んでいたのだ。

 そのクエストの内容とは、Sランクの【ファイナルドラゴン】の討伐というものだ。

 この国に、今こんな大物を仕留められるものが何人いるか……。


 あそこのクランはどうだ……?

 いや、あそこは魔法が少し不安だな……。

 さすがに死人が出るだろうか……?

 いったいどこに頼めばいいのやら……。


「はぁ…………」


 私はため息を吐くばかりだった。

 そこに、大臣が助言をしに現れた。


「王様、お言葉ですが。【霧雨の森羅】というパーティーはご存知でしょうか?」

「そのパーティーがどうかしたのか?」

「いえ、そこのパーティーには、なんと閃光のノエルという人物がおります」

「ほう……それは初耳だな……」

「私のきいた話によりますと、彼はなんとSランクのクエストをこなしているのに、いつも無傷だというのです。しかも、クランの中で一番難しいクエストを受けているにも関わらず、クランのパーティーの中でいつも一番に帰還するのだとか」

「ほう……それはすさまじいな……まるで英雄のようだ」

「はい、しかも彼は、先日伝説の剣を抜いています。まさに英雄と呼ぶにふさわしい男でしょう」

「なるほどな……。それはいい。ドラゴン退治は彼のパーティーに頼むとしよう」

「それがよろしいでしょうな」


 ということで、ドラゴン退治は【霧雨の森羅】に依頼することに決まった。

 それにしても閃光のノエルとは、まるで嘘のように優秀な男だな……。

 本当にそんなものがいるのか……?

 まあ、いずれにせよ、閃光のノエルの活躍が楽しみだな……!

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