第32話 クラン(3)


 クランを設立して、一週間が経った。

 クランを設立したことで、さっそく僕たちのクランに、国からいくつものクエスト依頼があったよ。

 クランリーダーである僕の役目は、それらのクエストを、それぞれのパーティーに割り当てることだ。

 難しすぎるクエストを受けさせてしまうと、パーティーが全滅してしまう恐れがある。

 だが、簡単すぎるクエストばかりでも、パーティーの実力を遊ばせてしまうことになるから、効率が悪い。

 適宜、適切なクエストを割り振ることが重要だ。

 ここはまさに、管理職って感じだよね。


 僕は事務員のクラリスさんと共に、受けたクエストをそれぞれのパーティーに割り振る。

 もちろんこの際に、僕たちのパーティー【霧雨の森羅】にも当然、クエストを割り当てることになる。

 ここで僕は考えた。

 そうだ、クランメンバーに難しいクエストを割り当てて、僕たちには簡単なクエストを割り当てよう……!

 そうすれば、限りなく僕が死ぬ可能性を低くできるんじゃないか……!?

 そう、なにも引退しなくても、このクランリーダーという立場を利用すれば、そのくらいたやすい。


 僕以外のパーティーはみんな、適切なランクにいるから、まあそのランクのクエストを受けさせておけば、死ぬことはそうそうないだろう。

 だけど僕は違う。

 なにせ僕は最弱のSランク冒険者なのだ。

 このまま僕がSランクのクエストを受け続ければ、いずれ必ず死ぬことになる。


 ちょうど最近、【精霊の心象】と【氷上の輪廻】がSランクパーティーに昇進した。

 なので、難しいSランクのクエストは、この二つのパーティーに回すことにしよう。

 Sランクの討伐クエストは、すべて【精霊の心象】と【氷上の輪廻】に回すことにした。

 そして余った簡単なクエストを、僕たち【霧雨の森羅】の担当に割り当てる。

 こうすることで、僕は戦わなくて済むというわけだ……!

 職権乱用というなかれ。これは僕の命がかかってることだからね。


 ロランたちにはこのことがバレないようにしないと……。

 ロランたちは簡単なクエストばかり受けてるなんて知ったら、もっと難しいクエストをよこせと言いかねないからな……。

 ロランたちにはあくまで、僕たちが率先して一番難しいクエストを受けているということにしておこう。


 それからしばらく、そうやってクランを運営していた。

 すると、これがなんとかなりうまくいったのだ。

 難しいクエストは、【精霊の心象】と【氷上の輪廻】がこなしてくれる。

 そしてその一部の報酬はクランの収益になるから、不労所得さまさまだ。

 前みたいに必死になって毎日クエストに出かける必要もなくなった。

 今や収入もアップして悠々自適な生活を送れている。


 しかも、僕たち自身は余り物のSランク採集クエストとかを受けているから、ほとんど死ぬ危険もない。

 ロランたちの実力を考えれば、非常に楽な仕事ばかりだ。

 僕は死ぬ危険なくクエストをやり過ごせるし、クランの収益はちゃんと上がり続けている。

 まさに理想の生活って感じ。

 いやーやっぱりクランを設立して正解だったな。

 やっぱ、危険なクエストなんて自分で身を削ってやるもんじゃないよ。

 こうやって他人に押し付けて、のんびりしてるほうが性に合っている。

 僕は管理職が向いていたのかもしれないなぁ。


 うん、だってやっぱり、僕のような戦闘能力のない人間が、前線で戦うべきじゃないのだ。

 こうやって他人にクエストを割り振って、そのマージンをもらうほうがいいに決まってる。

 アヤネたちも、高難易度のクエストをこなして、やりがいを感じてくれているようだし。


「このクランに入って本当によかった! ノエルくんはさすが! 私たちの成長にぴったりな難易度のクエストを振ってくれるね!」

「そう? それはよかったよ……。あはは……」


 まあ、とりあえず高難易度のクエストを割り振ってるだけなんですけどね。

 反対に、ロランたちは僕に不満を漏らしていた。


「なあ、ノエル。なんか最近のクエスト全部ぬるくねえか? Sランクになったってのに、Aランクのときより簡単な気がするんだが……?」

「いやぁ……? 気のせいじゃない……? きっとロランがすごく強くなったからだよ!」

「そうかなぁ……?」


 まあ、さすがにちょっと怪しまれてきてるか……。

 いったいいつまでこの作戦も通用するだろうか。

 でも、クランを設立したことは本当によかった。

 今までみたいにギルドでクエストを受けていると、受けるクエストはみんなで決めていたからね。

 だけど今は僕がクランマスターだから、誰よりも先にクエストを確認できる。

 だから僕は、あらかじめ死にそうなキツいクエストは抜いておいて、そしてその中からロランに選ばせていた。

 そうすると、一見ロランからすれば、自分でクエストを選んでいるように思えるだろう。


 だけどその実、僕が厳選した危険度の少ないクエストから選んでいるだけにすぎない、というからくりなのさ。

 そして弾いておいた危険度の高いクエストは、他のパーティーに選ばせる。

 これもクランマスターの特権というわけだ。

 あくまでクエストを選ぶのは、僕たちのパーティーが最初に選ぶことにしている。

 とはいっても、僕が選んだ簡単なクエストの中からだけど。


 そしてあらかじめ弾いておいた危険度の高いクエストを、あまりものとして他のパーティーに渡すのさ。

 そうすればはたから見れば、僕たちが率先して危険度の高いクエストを受けているように見えるだろ?

 あくまでさぼってるようには見られないようにしているのだ。

 これで誰も傷つかないし、完璧な方法ってわけ。

 いやぁ、我ながら天才だ。


 これは引退も近いかなぁ。

 かなりクランの収益も評判もあがってきているし、このまま順調にいけばギルドを設立するのもそう遠くない。

 ギルドを設立して、僕はギルドマスターになって、隠居するのが夢だ。

 はぁ……はやく引退したい……!

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