第18話 勘違い(4)


【アヤネ視点】



「「「「ごめんなさい……!」」」」

 

 私たちが急に頭を下げたものだから、少年は驚いていた。


「私たち……大変なことをしてしまったわ……。本当に、許されないこと……。こんなふうに助けてくれたあなたに、酷いことを言って……。本当にごめんなさい。今は自分たちが恥ずかしい。そして……なによりもお礼を言わせて。ありがとう。助けてくれて、ありがとう」


 私たちは、伝わるかわからないけど、誠心誠意、心をこめて謝罪した。

 少年は、おろおろとうろたえながら、答えた。


「ちょ……ちょっと……頭を上げてください……! いいんですよ、もう。過去のことは水に流しましょう。それよりも、今はみなさんが無事に助かってよかったです」


 なんといい少年なのだろうか。

 その言葉に、私たちは救われた。


「ありがとう……。そうだ。名前……」

「えーっと、自己紹介がまだでしたね。僕はノエルです。【霧雨の森羅】のリーダーをしています」

「私はアヤネだ。【氷上の輪廻】のリーダーだ。そしてこっちがユリ、モエナ、ランファだ」

「よろしくお願いします」

「ノエルくん……君が、ずっと看病してくれていたんでしょう……?」


 私は、部屋中に散乱した看病のあとを見渡して、言った。


「ええ、まあ……。いろいろと」

「本当に、なんといったらいいか……。君はどうしてそこまで……私たちのために……」

「まあ、僕基本暇なんで。全然大丈夫ですよ。気にしないでください」

「そんな……気にしないでっていっても……」


 だけど、彼のしてくれたことはあまりにも大きすぎる。

 ただお礼を言っただけでは、こちらの気が済まないというものだ。

 彼は、私たちにもう一度人生を与えてくれた。

 私は、一生をかけて彼に償いをしようと思う。

 

 暇だというのも、私たちに気をつかわせないための嘘なのだろう。

 彼ほどの素晴らしい人物が、暇なわけがない。


 私たちの怪我は、そんじょそこらのポーションや回復魔法なんかでは治せないほど深かった。

 それを治療し、さらに根気強く看病してくれたノエルくんだ。

 彼はきっと、冒険者としても凄腕に違いない。

 その治療の能力はS級クラスをはるかに超えているだろう。


 そんな彼が、貴重な時間を一か月も費やして私たちのことを看病してくれた。

 この事実は、なにものにも代えられないほど、私たちにとって重要だ。

 私たちは、まだ許されたなんて思っていない。

 今後、許されるために……いや、許されなくても、彼に一生をささげよう。


「ノエルくん……私は一生君に尽くすつもりだ。この身体をささげたっていい。そうだ……! もしよかったら、お嫁さんにでもしてくれないか……? それが嫌なら、側室でもいい……!」

「えぇ……!? 一生って、いきなりなにをいってるんですか……!」


 私に続くように、いや私に負けじと、他のメンバーもノエルくんに群がる。


「ノエルさん……! 私もお嫁さんにしてください!」

「ノエル様……! 抱いてください……!」

「ノエル……! 私のすべてを君に……!」


 ノエルくんは困ったような表情を浮かべる。

 可愛い……。


「ちょ、ちょっと……待って……! なんでそうなるんですか……!? 僕は別に怒ってないですし、お礼もいりませんよ……!?」

「そうはいかない……! そこをなんとか……!」

「えぇ……!?」


 そのときだった、ホテルの扉がガチャっと開く。

 そして部屋に入ってきたのは、おそらくノエルくんのパーティーメンバーと思しき面々だった。

 【霧雨の森羅】のメンバーたち。

 真っ赤な髪の女性が、真っ先に入ってきて言う。


「ちょっと、アンタたち。私のノエルになにしてるのかしら? ノエルは私のものなんですけど?」

「いや、エリーのものでもないからね……!?」


 どうやら、彼女はエリーというらしかった。

 ノエルくんの仲間ということは、彼女だって恩人に違いない。

 私たちはエリーたち【霧雨の森羅】の他メンバーにも頭を下げた。

 

「あの……! 【霧雨の森羅】のみなさん、この度は本当にありがとうございました……! みなさんのおかげで助かりました……! それと、数々の無礼を、本当に失礼しました……!」

「お、おうよ……。まあいいってことよ。気にすんな!」


 からっとした元気な声でそう言ったのは、大盾持ちの男性だった。


「俺はロラン、よろしくな」

「私はエカテリーナ。エリーって呼んでちょうだい」

「私はマリアです」


 それぞれに自己紹介をする。


「ど、どうも……」

「それで、うちのノエルが求婚されていたみたいだが。どういうことなんだ?」


 とロランが言う。


「私たちは、ノエルくんに一生をささげようと誓ったのです……! 助けてくれたノエルくんに、どうにか恩返しがしたいんです……! ほら……その、私たちって、自分で言うのもアレですけど……見た目は抜群に美少女ですし……? ほら、胸もあります!」


 私は自分の胸を強調してみせた。

 ノエルくんがかあっと赤くなる。

 可愛い。


「あ、あの……! 僕は本当になにもしてないんで……! そんな大げさな。人生なんか捧げないでいいですよ! 僕はなにもしてません」


 ノエルくんがそう言うと、ロランが反応した。


「またノエルは謙遜して……。何もしてないどころか、お前毎日つきっきりでこの子たちの看病してただろ? 少しくらいはお礼してもらってもいいんじゃねえの?」

「毎日…………」


 私の中で、ますますノエルくんの好感度が上がる。

 ますます好きになる。


「いや、そもそも彼女たちを治療したのだって、マリアだしね……!?」


 私たちは思わずマリアのほうを見る。


「いえいえ、私はほんの少し手を加えただけです。そもそも彼女たちを助けにいったのはノエルさんですし、看病をずっと熱心にしていたのもノエルさんです。私こそ、なにもしていませんよ」

「えぇ……僕じゃないのにぃ……」


 やっぱり、ノエルくんはすごい。

 これほどまでに私たちにいろいろしてくれていながらも、こんなふうに謙遜して、仲間の手柄にしようとするなんて……。

 ノエルくんは人柄も素晴らしい……。

 そんなノエルくんのことを、私はますます好きになるのだった。

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