第17話 勘違い(3)
【アヤネ視点】
「ん……ここは……?」
私の名前はアヤネ・グレイトフォクス。
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
どうやら、どこかのホテルの一室らしいが……。
「私……生きているの……?」
自分の手を目の前に持ってきて、実感する。
身体が動く。
どうやら、無事なようだ。
あれだけの酷い戦闘のあとだ。
死を一度は覚悟した。
私たちは、S級ドラゴンの討伐に向かい、そこで全滅した。
そして、命からがら、逃げ帰ってきたのだ。
なんとかたどりついたのが、あの荒野だった。
そこから、誰かが助けてくれたのだろうか。
「よいしょ……」
とりあえず、身体を起き上がらせてみる。
どこも痛みはなかった。
身体をじっと見渡してみても、目立った傷などはない。
よほど腕のいい治療師がなんとかしてくれたのだろう。
「私……どのくらい眠っていたんだろう……」
ふと隣のベッドを見ると、そこにはパーティーメンバーたちがまだ眠っていた。
どうやら私が一番に目覚めたらしい。
パーティーメンバーの、ユリ、モエナ、ランファが眠っている。
「とりあえず……誰かいないの……?」
あたりを見渡してみても、誰もいないようだった。
おそらくどこかに私たちを助けてくれた人がいるはずだが、今は席を外しているようだ。
私は起き上がり、部屋の中を見渡す。
「なによ……これ……」
そこには、とんでもない量の医療に関する本が積まれていた。
そして、大量にポーションの空きビンが転がっている。
おびただしい数の薬草がストックされていて、どれだけ私たちがひどい状態だったかがよくわかる。
そして、どれほど私たちを根気強く看病してくれたのかがよくわかる。
他にも、タオルや下の世話をした後など、丁寧な看病のあとがうかがえる。
「私……こんなにも助けられたのね……」
感謝の念とともに、自分が情けなくなってくる。
私たちは、思い上がっていた。
【氷上の輪廻】は、破竹の勢いでSランクになった新進気鋭のパーティーだ。
私たちは若くて見た目もいいから、みんなからアイドル視されて、すぐに人気ものになった。
その人気もあいまって、国からもいろいろ仕事を振ってもらえた。
私たちは、天狗になっていた。
私たち以外はみんな雑魚。みんな、私たちを引き立てるための道具だ。
そんなふうに考えるようになっていた。
そして、あの日、私たちはS級ドラゴンの討伐に挑んだ。
ドラゴン討伐は、複数のパーティーで行われる。
私たち以外にも、5つのパーティーが参加していた。
私たちは、しょせんは他のパーティーなんか、あてにしていなかった。
みんな、私たちにとっては邪魔だと思ってしまっていた。
そのせいで、連携は崩れ、酷い戦場だった。
私たちは他のパーティーを見捨てるような真似をした。
私たちは単独で突っ走って、みんなを危険にさらした。
おかげで、あっけなく他のパーティーたちは全滅した。
唯一生き残った私たちも、ごらんのありさまだ。
「っく…………」
悔しい。
自分たちの未熟さが、悔やまれる。
私たちはとんだ思い違いをしていた。
それは今になって、ようやくわかることだ。
目の前で、たくさんの命が吹き飛んだ。
そして自分たちも瀕死の状態に追い込まれた。
そうまでしないと自分たちの未熟さに気づかなかったことが今となっては恥ずかしい。
「でも……とりあえず、命だけは助かったんだ……」
今は、そのことを感謝しよう。
そうだ……お礼を言わないと。
私たちを助けてくれた人は、今どこにいるのだろう。
私たちは、ここからもう一度始めよう。
今まで周りを馬鹿にして、見下してきたことを反省しよう。
そして、今度はまっとうに、誰かを守れるような冒険者になるんだ……!
とりあえず今は、他のメンバーが目覚めるのを待とう。
◆
しばらくして、ユリ、モエナ、ランファの三人も目覚めた。
「ここは……?」
「誰かが助けてくれたみたいね……」
「はやくお礼を言いたいわ……」
私たちは、しばらくそのまま部屋で、恩人の帰りを待った。
そして、私たちの目の前に現れたのは、なんと意外な人物だった。
部屋に入ってきたのは、身長160センチほどの、中性的な見た目の美少年だった。
そして私たちは、その少年に見覚えがあった。
「あ……あなたは……!」
そう、この前、ギルドでぶつかったひ弱そうな少年だった。
あのときは急いでいたのもあって、私たちはこの少年に、ひどい言葉を浴びせてしまった。
そのことを、私たちは一瞬のうちに激しく後悔した。
「あ……! みなさん、目覚めたんですね……! よかった……!」
少年は心底嬉しそうに顔をぱあっと輝かせた。
なんで……なんで……そんな表情ができるんだろう。
私たちは、彼にあんなひどいことをしてしまったのに……。
なぜ、彼は助けてくれたのだろう。
「な、なんで……! なんであんたなのよ……! あんた……! 私たち、あんたに酷いこと言ったのに……! なんで助けてくれたのよ……!」
ユリが震えた声で叫ぶ。
「え……だって……。そんなの関係ないですよ。目の前に死にそうな人がいたら、そりゃあ放っておけませんって」
「…………!」
少年は、ごく当たり前のことのように言った。
そうか……この少年は、私たちとは違って、本当にいい人なんだな……。
なんの打算もなく、当たり前のように人助けをする。
それがたとえ、嫌なことを言われた相手であってもだ。
それは普通にできるようなことじゃない。
以前までの私たちなら、死にそうな冒険者なんか見つけても、何もできずにその場を去っていただろう。
だからこそ、彼のしたことの偉大さ、尊さを思い知る。
「でも、本当によかったです。皆さん目覚められて……。皆さん、一月ほども眠っていたんですよ?」
「うそ……そんなに……!?」
ということは、この少年は、一月の間も、付きっ切りで私たちの看病を……!?
それは、どれほど大変だっただろうか。
私たちは、自分たちのことを心底恥ずかしく思った。
こんな清き心を持った少年に、私たちはとんでもないことをしてしまった。
私たちは互いに顔を見合わせた。
「ねえ、私たち……彼に酷いこといっちゃったよね……。私たち、なんていった……?」
「うん、取り返しのつかないことをしちゃったよね……」
「私も、自分が恥ずかしい……」
「みんな、ちゃんと謝ろう……」
謝っても、やったことは消えない。
無駄かもしれない。
だけれど、謝らないではいられなかった。
「うん、謝ろう。私たち、最低だった」
「一生かけて償おう。もうそれしかないよ……」
「許してもらえなくても、一生彼に尽くそうよ」
「賛成……」
みんなで、深々と頭を下げて声をそろえる。
「「「「ごめんなさい……!」」」」
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