第16話 勘違い(2)


「はぁ……それにしても、大変なことだな……」


 まさかあのSランクパーティー【氷上の輪廻】が、ここまでやられるなんて。

 彼女たちは、いったいどれほどの危険な目にあったのだろうか。

 おそらくイレギュラーモンスターにでもやられたのだろうけれど……。

 それにしても、酷い怪我だった。

 命があるのが奇跡のようなものだ。


 そこは、フェンちゃんとマリアに感謝だね。

 僕としても、人を助けることができてよかったと思う。

 たしかに、彼女たちは昼間僕に酷いことを言ってきた、嫌なやつらだ。

 だけど、だからと言って命まで見捨てるような僕じゃない。

 どんなに嫌なやつでも、死にかけていたら、こうして助けずにはいられないよね。

 いや、別に彼女たちが美少女だからっていうわけじゃない。

 もし仮にこれが男でも、同じように助けたさ。


 僕たちの借りているホテルの一室。

 そこにとりあえず彼女たちを寝かせる。

 そして、僕たちは隣の部屋に移ることにした。

 ちょうど隣の部屋が空いていて助かった。


「それで……こいつら拾ってきたけどどうすんだ……? こいつらって、あれだろ。【氷上の輪廻】俺、こいつらに一回めちゃくちゃ酷いこと言われて、いまだに根に持ってんだよ。俺は嫌だぜ、こんなやつらの看病なんか」


 とロランが愚痴をこぼす。

 どうやら、ロランも彼女たちにいろいろ言われたらしい。

 ほんと、こいつら口悪いんだな……。

 おそらく、いろんなところで敵を作っているんだろうね……。

 比較的街から近い荒野に倒れていたにも関わらず、彼女たちが放置されていたのは、そういう理由からかもしれない。

 彼女たちを発見しておきながらも、見捨てる判断をしたものがいてもおかしくはない。

 なおさら、僕が発見できてよかったな。


「大丈夫だよ。看病は僕がするから」


 彼女たちを拾う判断をしたのは僕だ。

 途中で投げ出したりなんかはしない。

 彼女たちが目覚めるまで、ここでしっかり看病するつもりだ。


「まったく、ノエルはほんとお人よしなんだから」

「でも、そういうところが素敵です」


 僕は、それから薬草やポーションをつかって、彼女たちの看病を始めた。

 二日ほどたっても、彼女たちは目覚めなかった。

 よほど傷が深かったのだろう。

 ただ傷が深かっただけじゃない、なにかバッドステータスのような魔法も受けたのかもしれない。

 とにかく、まだまだ目覚める気配はなかった。


 それから、一週間ほどが経った。

 お医者さんにも来てもらったりして、最善をつくしたけど、彼女たちはまだ目覚めない。


「もう、無理なんじゃねえのか……? 大地の聖母マリアがいても、目覚めないんだから……」

「こら、ロラン! 縁起でもないこというんじゃないの……!」

「だいたいなんでこんな酷えやつらのためにノエルが毎日つきっきりで看病しなきゃならねえ?」

「それはまあ……そうだけど……」


 ロランはこういうが、僕は彼女たちが目覚めるのを信じていた。

 そして必死に看病した。

 別に、このくらいは苦でもなんでもない。

 どのみち僕はなんにも役に立たない身だ。

 みんなと一緒にクエストにいって、僕の身を危険にさらすより、こうしてホテルで看病していたほうが、いくらか社会貢献しているだろう。


 僕が看病している間のこの一週間は、みんなには僕抜きでクエストにいってもらっていた。

 どうせ、僕がいってもやることはないからね。

 僕抜きでも全然クエストはこなせる。

 こうしている間にも、クエストをこなしてお金を稼がないと、僕たち冒険者は基本その日暮らしだからね。

 ホテルの代金も二倍かかるわけだし。

 それに、薬代とかも馬鹿にならない。


「ノエルがいなきゃ、俺たち全然だめなんだぜ?」

「そんなことないでしょ……」


 ロランはそういって、僕がはやく戻ってくるのを切望している。

 どうやら僕抜きでSランクのクエストはまだ怖いらしく、Aランクのクエストを中心に受けているらしい。

 僕がいてもいなくてもかわらないだろうに……。


「そういや、ギルドでも噂になってるぜ。あの閃光のノエルが【氷上の輪廻】を看病しているってな」

「そうなんだ……」


 どうやら、僕たちが【氷上の輪廻】の面々をホテルに連れ帰るところを見ていた人がたくさんいるらしい。

 それで、状況を察したのだろう。

 まあ、あのときはフェンちゃんを街中走らせたりして、かなり目立ってしまったからね。


「みんな言ってるぜ、よくあの【氷上の輪廻】のために働こうなんて思えるってな。こいつら、かなり評判が悪いらしい」

「ああまあ……あの性格じゃね……」


 【氷上の輪廻】は、普段からいろんな冒険者に喧嘩を売るような真似をしていたようだ。

 そりゃあ、悪名が轟くのも無理はない。

 だけど、僕はどんな人たちだって、死にかけているのなら手を差し伸べたいと思う。

 彼女たちだって、口は悪いけど、悪人ってわけじゃないんだし。

 それに、病人を悪く言うのは好きじゃない。


「中には【氷上の輪廻】が消えてくれて喜んでいるやつらもいる。目障りなやつらが消えたってな」

「そうなんだ……」


 別に冒険者ランクは、上から順番にランキングになっているわけではない。

 だけれど、やはり上のランクのものはねたまれたりもするものだ。

 目の上のたんこぶ……じゃないけれど。

 自分より上のものが消えると、自分のランクがあがったような気にもなる。


「ま、俺もできることは手伝うからさ。俺はノエルを全面的に支持するぜ」

「ありがとう。ロラン。みんなは引き続きクエストをこなしてくれればいいよ。それが、薬代にもなるしね。ひいては彼女たちの回復にもつながる」

「おうよ! 任せとけ、リーダー!」


 やっぱり、ちょっと変だけど、ロランたちは僕の大事な仲間だ。

 こういうとき、本当に頼りになる。


 それから、一か月が過ぎた――。

 彼女たちはまだ、目覚めない。


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