第15話 勘違い(1)


 その日、僕は一人で冒険者ギルドにやってきていた。

 どうやらこの前の魔力測定に不備があったとかで、呼び出されていた。

 僕だけもう一度測り直しらしい。

 

「この前の測定機がどうやら壊れていたみたいなんですよぉ……。それで、もう一度お願いできますか?」

「はぁ……」

「王都から、新しい測定機を取り寄せたんです。これは最新型なんですよ? これなら、きっとしっかり測れるはずです。はい、手を載せて」


 受付嬢にいわれるまま、僕は測定機に手を載せる。

 こんなの、なんどやっても結果は同じだと思うんだけどな……。

 あれか? もしかして僕の魔力があまりにも低いから故障だと判断されたとか?

 だったら、申し訳ないような腹立たしいような……。


「うーん、100ですね」

「さいですか……」


 やはり、何度測っても僕の魔力は100しかないようだ。

 相変わらず、才能のなさを痛感させられて嫌になる。

 ある日突然、僕の魔力が100万になったりはしないみたいだ。


「やっぱり、前と変わらないみたいですね……。私の勘違いだったのかしら……」


 結局、とくにギルドカードを書き換えたりする必要もなく、僕は解放された。

 さて、これからどうしようか。

 お昼ご飯でも食べて、それからのんびり買い物でもしながらホテルに戻ろうかな。

 僕がギルドを出ようとしたときだった。


 ――ドン。


 突然、僕にぶつかってきた人たちがいた。

 前から現れたのは、女性4人組の冒険者パーティーだった。

 彼女たちは、まるでゴミでも見るかのような目つきで僕のことを一瞥したあと、こうつぶやいた。


「どきなさい、ゴミ。死にたいの?」

「邪魔よ。ウジ虫。私の前から消えてちょうだい」

「価値のないクズね。失せなさい」

「このカスが。存在だけで万死に値するわ」


 な、なんなんだこいつらは……!?

 め、めちゃくちゃ口悪いんですけども……!?

 あの……僕ちょっとぶつかっただけじゃないですか……。

 しかも、向こうからぶつかってきたし……。


 でも、よく見ると4人ともめちゃくちゃ美人だった。

 何者なんだいったい……。


「ご、ゴメンナサイ……」


 面倒ごとはごめんだ。

 とりあえずこの場から逃げたい。

 相手は美しい少女に見えても、こいつらだって冒険者だ。

 冒険者ってのは喧嘩っぱやいうえに、危険だ。

 僕なんかでは、とてもじゃないがかないっこない。

 冒険者となんかやりあうのはゴメンだからね。

 はぁ、これだから冒険者なんか、さっさと引退したい……。


「ふん、素直なバカ犬ね。飼ってやってもいいわ。弱そうだけど、囮くらいにはつかえそうだもの」

「え、遠慮しておきます……」

「何よ……! この私が言ってるのに……! まあいいわ。せいぜい底辺の暮らしを続けなさい」

「えぇ…………」


 それだけ言うと、彼女たちはクエストカウンターに向かって歩いていった。

 なんだったんだ今のは……。

 僕がその場で肩を落としていると、話しかけてくる冒険者がいた。


「あんたも災難だったな」

「ええ、まあ……」

「あいつらは、Sランクパーティーの【氷上の輪廻】だ。ああやって他人をすべて見下している、鼻持ちならないやつらさ。まあ、見た目だけはあの通り、抜群の美少女たちだから、ファンは多いがな」

「そうなんだ……」


 【氷上の輪廻】か……。

 たしかに、きいたことのある名だ。

 それにしても、いくらSランクで腕がたつからって、あの態度はないよね。

 ちょっとさすがの僕も、あれにはどうかと思うよ。

 まあ、ああいうのは一度痛い目に合わないと治らないんだろうけど……。


「まあ。どうでもいいか。行こうか、フェンちゃん」

「わう!」


 僕は肩の上に乗っているフェンちゃんに話しかけた。

 フェンリルのフェンちゃんは、どうやら魔力の操作によって、身体の大きさを変えることができるらしく……。

 町中にいる間は、邪魔にならないように、こうして手のひらサイズになって、僕の肩に乗っかってる。

 僕はギルドを出て、食堂にお昼ご飯を食べに向かった。



 ◆



 お昼を食べて、一日いろいろ買い物をしたりして過ごした。

 そして夕方、僕はホテルに戻る。

 ホテルに戻り、腰を落ち着けたそのときだった。


「ワンワン……!」


 急に、フェンちゃんが立ち上がり吠えだした。


「どうしたの……!?」


 フェンちゃんは元の大きさに戻り、扉に突進してぶち破ると、そのまま走り出してしまった。

 僕は慌ててフェンちゃんを追いかける。

 どうしてしまったのだろうか。


「フェンちゃん……!」

「あ、まってくださいノエルさん……!」


 僕の後ろから、マリアも追いかけてくる。


「俺もいくぜ……!」

「なんだかよくわからないけど、私も……!」


 ロランとエリーもついてきて、僕たちはみんなでフェンちゃんを追いかけた。

 フェンちゃんはホテルから出て、街の中へと走っていく。

 元の大きさに戻ったフェンちゃんはかなり大きく、街を走るとちょっとした騒ぎになった。


「いったいどうしたっていうんだあの犬っころは……」

「わからない……。でも、なにか様子がおかしい。きっとまた、なにか知らせようとしてくれているんだ……!」


 そのままフェンちゃんは街を抜けて、街外れの荒野へ。

 するとようやく立ち止まって、僕のほうを振り向いた。

 まるでこっちだといわんばかりに、僕の袖を口でひっぱって、フェンちゃんは誘導する。


「なに……? なんなの……?」


 フェンちゃんについていくと、なんとそこには血の川が出来ていた。

 血の川をたどっていくと、そこにはなんと、4人の女性が血まみれで倒れているではないか……!


「な……!? どういうことだ……!?」

「すごい怪我だ……!」


 どうやら、フェンちゃんはこのことを知らせてくれたみたいだね。

 血の川の上には、4人の女性が血まみれで倒れている。

 ものすごい出血量だ……。

 これは今すぐに治療しないと、危ないかもね……。


「マリア……! お願いできる……!?」

「もちろんです、ノエルさん……! 大全回復ヒーレスト――!」


 マリアは回復魔法を放った。

 すると、すぐに女性たちの傷は癒えた。

 だが、あまりにもひどい怪我だったせいか、意識はまだ戻らないようだ。

 とりあえず傷はふさがったが、まだ安静にしていないといけないだろう。

 

 傷が治まって、冷静になって、彼女たちの顔を見る。

 すると、倒れていた冒険者パーティーは、僕の知る人物たちだった。

 そう、昼間冒険者ギルドで絡まれた、あの【氷上の輪廻】の4人だ。

 いったい、彼女たちになにがあったのだろうか……。


「よし、とりあえずホテルに運ぼう……!」

「そうね……!」


 僕たちは、彼女たちをそれぞれ抱えて、ホテルまで戻ることにした。

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