第14話 最弱のSランク(4)


「フェンちゃん、案内ありがとう」


 フェンちゃんを追いかけていくと、そこには小さな入り口の洞窟があった。

 洞窟の中を覗くと、そこには冒険者パーティー【精霊の心象】のメンバーと思しき5人組がいた。


「あなたたちが、【精霊の心象】ですか?」

「そ、そうだが……君は……。さっきのフェンリルはいったい……大丈夫なのか……?」

「ああ、僕は【霧雨の森羅】のノエルです。さっきのはフェンちゃん、さっきそこで仲間になりました」

「は、はぁ……?」


 とりあえず、安全だと言い、彼らには洞窟から出てきてもらった。

 洞窟から出てくるときに、どうやら脚を痛めているのか、一人の女性が苦しそうに引きずって出てきた。


「あの……? 大丈夫ですか?」


 【精霊の心象】のリーダーらしき人物が答える。

 

「彼女は脚を毒蛇にやられたんだ……」

「なるほど……」


 そのせいで、ここから動けなかったわけか。

 だけど、毒蛇くらいなら、うちのマリアに任せておけば大丈夫だ。

 なんたって、マリアは大地の聖母と言われているくらいのヒーラーなんだからね。


「マリア……!」

「はい、ノエルさん! えい! 毒治療キュアリー――!」


 マリアが魔法をとなえる。

 すると、すぐに女性の脚はよくなった。


「おお……! すごい! ありがとうございます。あの、あなたは……?」

「私はマリアといいます。このパーティーのヒーラーです」

「マリア……まさか……大地の聖母……!?」

「あら、ご存じだったのですね」

「ご存じもなにも……超有名人じゃないですか……! すごい……! さすがですね。あの毒を一瞬で……」


 助けられた女性は、マリアのことを崇拝するような目でみつめた。

 とりあえず、女性の脚も治ったことだし、まずはリーダーから事情をきこうか。


「それで、どうして遭難したんですか?」


 僕はリーダーらしき人物に尋ねる。


「ああ、まずは自己紹介がまだだったな。俺は【精霊の心象】のリーダー、シンゴだ。それで、俺たちが遭難した理由だが……あのフェンリルが原因だ。俺たちはあのフェンリルに追いかけられたんだ……」


 シンゴは、若干忌々しそうな目つきで、フェンちゃんを見た。

 そんな目で見ないでやってよ……フェンちゃんがかわいそうだ。

 僕はフェンちゃんに事実確認をするため、フェンちゃんに尋ねた。


「それはほんと? フェンちゃん」


 すると、フェンちゃんはすごい勢いで首を横にふった。


「う、嘘だ……! あのフェンリルは俺たちに近づいてきて……!」

「フェンちゃんはどうして彼らに近づいたの?」


 僕が尋ねると、フェンちゃんは【精霊の心象】の女性メンバーに近づいていった。

 先ほど足を怪我していたのとは別の女性だ。


「ひ……!? な、なに……!?」


 そして、女性のもっていた毒蛇の死体を前足で指さす。


「なるほど……ね」

「なにがなるほどなんだ……?」

「ねえ、その毒蛇に咬まれたときの状況を教えてもらえる?」


 僕が言うと、毒蛇を持っていた女性が答える。


「この子の脚に、毒蛇が絡みついていたんです……! いつからかはわからないけど……。気づいたときには咬まれていて……。それで咄嗟に、私がそれを引きはがして、こうやって殺したんです」


 おそらく、こういうことだろう――。


「フェンちゃん、フェンちゃんはこの女性の脚に毒蛇が絡みついているのに気付いた。そしてそれを知らせてあげるために近づいた。ちがう……?」


 だけど、フェンリルにいきなり近づかれたものだから、彼らは逃げてしまった……。

 ということだろう。

 フェンちゃんは、大きくうなずくと「ワン!」と吠えた。


「そうだったのか……」


 シンゴも納得したみたいだ。少し申し訳なさそうにしている。

 だけど、無理もない話だ。

 僕だっていきなりフェンリルに追いかけられたら、死んだとしか思えない。


「フェンちゃんは、知らせてくれようとしたんだよね。優しい子だ」


 僕はフェンちゃんを優しく撫でる。

 フェンちゃんは嬉しそうにそれに応える。


「くぅーん」

「……と、いうわけで一件落着だ。【精霊の心象】がなんで遭難したかはわかったし、その原因であるフェンちゃんにも敵意はなかった。そして彼女の毒も治療できたし、これでみんなで街に帰れるね! フェンちゃんもいっしょに帰ろう!」

「ワン!」

 


 ◆



【シンゴの視点】



 俺は、現実を見ているのか……?

 信じられないという気分だった。

 俺たち【精霊の心象】を助けにきてくれたのは、Sランクパーティーの【霧雨の森羅】だった。

 そして、驚いたことに、彼らのリーダー、ノエルは、あのフェンリルを手なずけていたのだ。

 まさか、信じられない……。


 あれほど獰猛で、人に懐かないフェンリルが、まるで子犬のように懐いている。

 フェンリルは弱いものを嫌う。

 決して自分より弱いものには付き従わない。

 つまり、あのノエルとかいう男は、フェンリルを倒したということだ。

 もしくは、なんらかの方法で自分がフェンリルよりも強いと証明したのだろう。


 あのノエルとかいうリーダー……どれだけ強いんだ……。

 だが、Sランクパーティーのリーダーだ、そりゃあ、強いに決まっているか。

 なんたって、あの大地の聖母を率いる【霧雨の森羅】のリーダーなんだからな。


 驚いたのは、大地の聖母の魔法にもだった。

 彼女は、一瞬でフィエンネの毒を癒した。

 あんな魔法が使えるのは、Sランクパーティーとはいえども、ごく限られた一部だろう。

 

 そして【霧雨の森羅】といえば、やはり紅蓮のエカテリーナだろう。

 クオーツク大森林を抜ける際に、ともに何度かモンスターと戦ったが、彼女の焔魔法は噂以上だった。

 やはりSランクパーティーは俺たちとは全然違うな……怪物ばかりだ。


 そんな中で、戦闘中、ほぼ動かない人物がいた。

 あのノエルだ。

 ノエルは戦場でも、眉一つ動かさずに、落ち着いている。

 あれは、やはりノエルがそれだけ強いということなのだろう。


 もはや、ここまでくると、ノエルが自分で手を下すまでもないということなのだろう。

 フェンリルを従え、大地の聖母や紅蓮のエカテリーナから尊敬され慕われる人物。

 ノエル、彼はとんでもない人物なのかもしれない。


 俺も、彼のようにならねば、Sランクパーティーのリーダーは務まらないということだろう。

 ますます頑張らねばな……。

 俺は、今回救助に来てもらったことで、彼らにものすごく感謝した。

 それと同時に、俺の中に憧れの感情も芽生えた。

 こんなすごいパーティーに、俺たちもなりたい。


 特に、俺はノエルという人物に興味が湧いた。

 帰り道、俺はロランにノエルのことをきいてみる。


「なあ、やはりリーダーのノエルは、強いのか?」

「ああ、そりゃあもう! 俺たちのリーダーだからな。ノエルは最強だ……! 閃光のノエルの名はきいたことあるだろ?」

「閃光のノエル……」


 はじめて聞く名だった。

 しかし、これは覚えなくてはならないな。

 閃光のノエル……いったいどんな戦い方をするのだろうか。

 興味深い。

 閃光のノエルについては、街に帰ったらみんなに広めないといけないな。

 彼はすごい人物だったぞと……!

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