第13話 最弱のSランク(3)


 てなわけで、フェンリルが仲間になった。

 なんか、後ろからついてくるし、すっかり僕から離れる気はないらしい。

 せっかくなので、名前を付けようか。

 フェンリルだから、フェンちゃん……でどうかな。


「あの、フェンちゃん。僕たちは遭難した人たちを助けるために、ここに来たんだけど……。なにか知らないかな?」


 フェンリルは非常に知能が高いという。

 だから、こういったことも理解できるみたいだから、一応きいてみる。

 すると、フェンちゃんは「わん!」と鳴いて、走りだした。


「お、おい……!」


 僕たちはいそいでフェンちゃんのあとを追う。



 ◆



【遭難したパーティー視点】



 俺の名前はシンゴ。シンゴ・ザ・ジャックネル。

 Aランクパーティー【精霊の心象】のリーダーだ。

 俺たちはこのクオーツク大森林に、A級オーク討伐の依頼でやってきた。

 だが、そこに現れたのがあいつだった。


 そう、フェンリル――銀色の獣だ。

 A級オークを倒し、帰還しようとしていたところに、奴は現れた。

 俺たちは戦おうとすら思わなかった。

 だって相手はSSS級だ。

 敵うはずなんてなかった。

 フェンリルに睨まれた俺たちは、まるで蛇に睨まれた蛙だった。


 なすすべもなく、その場から逃げるしかなかった。

 しかしフェンリルは俺たちを追いかけてきたのだ。

 そして、俺たちは洞窟の中に逃げ込んだ。

 フェンリルの巨体では、洞窟の中にまでは入ってこれず、やつはのそのそと去っていった。

 しかし、いつまた現れるかわからない。

 無事にここから逃げ出せるのか……?


 洞窟の中に逃げ込み、一安心だが、問題はいつここから出るかということだった。


「くそ……大変なことになったな……」

「なあ、リーダー。これからどうする?」


 パーティーメンバーのルールフが尋ねる。


「そうだな……しばらくはここでやり過ごそう……」


 そのときだった。


「きゃぁ……!」

「どうした……!?」


 急に、パーティーメンバーの女子、フィエンネが声を上げた。

 みると、フィエンネは自分の脚をおさえてうずくまっていた。


「フィエンネ! どうしたんだ……!」

「それが……! 毒蛇に咬まれたの……!」


 横でフィエンネを支えていたクレアが答える。


「なに……!?」


 見ると、クレアがすぐに毒蛇を引きはがして殺したようで、彼女は手に毒蛇の死骸を持っていた。


「どういうことなんだ……」

「それが、さっきからずっと、フィエンネの脚に毒蛇が絡みついていたみたいなの……」

「なんだって……!?」

「気づいたときには……もう遅かったわ……」

「くそ……こんなときに……なんだってんだ……!」


 俺たちはここから動けない。

 その上、フィエンネが毒蛇に咬まれたとなれば、くそ……。

 この毒蛇の毒は遅効性だが、これじゃあフィエンネはろくに歩けない。

 こんな状態のフィエンネを抱えて、フェンリルをやり過ごしてここから抜け出すなんて……不可能だ。


「とりあえず、簡単な治療をしよう……!」


 この毒蛇の毒は、毒消し草では解毒できない。

 街に戻って、医者に見せないと、脚が使い物にならなくなるぞ……!

 ヒーラーのリエルが、必死にヒールをかける。

 俺たちも、あまりのポーションを袋から出して、患部にかける。

 しかし、リエルの魔法でもこれは対処できないだろう。

 ここまでの厄介な毒を完治させようと思ったら、それこそS級パーティー以上じゃないと難しい。

 くそ……どうすればいいんだ。


 俺たちは必死にフィエンネを看病しながら、助けがくるのを待った。

 このまま無理に外に出てフェンリルとかちあうくらいなら、救助を待ったほうが得策だと考えたのだ。

 冒険者は、クエスト終了期限の時間までに戻らなければ、救援が出される。

 救援に来るのはS級パーティーだから、なんとかこの毒を治せるはずだ。

 しかし、問題はあのフェンリルだ。

 S級パーティーがあのフェンリルにやられなければいいのだが……。

 いや、S級パーティーは俺たちの想像を絶するつわものぞろいだ。

 なんとかしてくれると、信じよう。


 そのときだった。

 洞窟の外から、あのフェンリルの声がきこえてくる。


「ワンワン!」


 くそ……、また来やがったのか……!

 これじゃあ、救助に来てもらっても、外に出られないじゃないか……!

 そして、洞窟の中を覗くようにして、フェンリルが顔を出した。


「ひぃ……!? もうおしまいだ……!」


 しかし、フェンリルがいったん顔をひっこめ、次に顔をのぞかせたのは、なんと人間だった。


「フェンちゃん、案内ありがとう」


 そこにいたのは、中性的な顔をした優しそうな美少年だった。


「ど、どういうことだ……?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る