第10話 追放(5)


 新しいギルドカードには、それぞれレベルが書かれている。

 レベルというのは、冒険者レベルのことだ。

 冒険者パーティーにつくFからSSSの冒険者ランクとは違い、冒険者レベルとは個人につけられる評価のようなものだ。

 冒険者レベルは1から13まであり、高ければ高いほど、優秀な冒険者だと言える。

 僕たちはギルドから出ると、すぐさまギルドカードの冒険者レベルを確認した。


「お、俺は6に上がってるぜ……!」


 とロランが興奮して言う。

 冒険者レベルは、6もあれば立派な猛者といった評価だ。

 ロランに与えられた評価としては妥当だと思う。


「私は7ね」

「私もです。7です」


 エリーとマリアは、さすがは二つ名もち。

 レベル7の冒険者なんて、めったにお目に書かれるものじゃない。

 それが一つのパーティーに2人もいるなんて、さすがはSランクパーティーの【霧雨の森羅】といったところか――なんて自画自賛してみる。

 それで肝心の僕なんだけど……。


「……で、なんで僕がレベル8なんだろうね……?」


 そういえばさっき、受付嬢さんに「すごいですね! ノエルさんはこのギルドでは最年少でのレベル8ですよ!」と言われてしまったっけ。

 いやいや、どう考えてもおかしいでしょ……。

 冒険者レベルはギルドが査定して決めるものらしいけど、これ査定間違ってるって……。

 もしかしてこのギルドは節穴なのかな……?

 登録しているギルドを変えたほうがいいのだろうか。


「そりゃあまあ、ノエルはリーダーだからな。なにもおかしなことはないさ! よ、閃光のノエル!」

「そうよね。ノエルだもの。さすがは私たちのリーダー」


 ダメだ……こいつらも節穴だ。

 だいたい、なんで魔力100しかなくて、ただの荷物持ちの僕がレベル8なんだよ……。

 どう考えても間違っている。

 はぁ……さっさと引退したい……。


「やっぱこれ、おかしいでしょ……なにか間違ってませんか? っていいに行こうかな……」

「いやいや、おかしくねえって! ノエルの実力を正しく評価した結果だろ!」

「そうかなぁ……」


 いったい僕のどこを評価してこうなったのか、ギルドマスターに小一時間問い詰めたい。



 ◆



【シュバール視点】



「くそ……! なんで俺がパーティーを追い出されなきゃいけねえんだ!」


 俺は【霧雨の森羅】を追い出されたあと、酒場で飲んだくれていた。

 まったく、あいつら腹が立つぜ。

 みんなしてノエルノエルってよぉ……。


 今に見てろ……。

 俺がいなくなったら、あんな奴らSランクパーティーどころか、破滅するに決まってる。

 だって、普通に考えてみろよ。

 【霧雨の森羅】の攻撃の要は、俺だったんだぜ?

 切り込み隊長の俺が、真っ先に敵陣に斬りこんで、そして荒らす。

 そこを後ろからエカテリーナが攻撃魔法で殲滅。

 ロランは敵の攻撃を盾で受け止める係だ。

 そしてマリアはバフ支援と回復。

 もちろん、ノエルのやろうは逃げ回ってるだけで、ろくな戦力にはなっていない。


 そんなパーティーから、俺が抜けたら破滅だろ。

 はっはっは、いい気味だぜ。

 最近、パーティー追放っていうのは、珍しい話でもなんでもない。

 だがきくところによると、こういった場合、たいてい、仲間を追放するようなパーティーは、落ちぶれて破滅するってのがお決まりだ。

 仲間を裏切るような奴らが落ちぶれていくのは、あたりまえだよなぁ?


「あいつらはもう終わりだ! 俺がいなきゃ終わりなんだよクソ!」


 俺は酒を一気に流し込んだ。

 そうだ、せっかくだから、ノエルがいかに酷いやつか、みんなに知ってもらおう。

 どうせ俺がなにもしなくても、あいつらは落ちぶれていくだろうけどな。

 だが、このままじゃ気が治まらねえ。

 ノエル、あいつだけは許せない。

 俺は適当に、隣の席で酒を飲んでいた冒険者パーティーに話しかけた。


「なあなあ兄ちゃんたち、きいてくれよぉ」


 俺が話しかけながら、彼らの席に座ると、迷惑そうにしながらも、長椅子の座る位置を少し横にずらしてくれた。


「あんたら、ノエルって知ってるか? 【霧雨の森羅】っていうパーティーのリーダーだ」

「ああ、名前はきいているよ。閃光のノエルだろ?」


 どうやら、ノエルの名はそこそこ知れているようだ。

 まあ、俺たち【霧雨の森羅】はSランクパーティーだからな。

 このくらい、珍しくもなんともないだろう。

 Aランク以上のパーティーのメンバーは、顔こそわからなくても、名前くらいなら、冒険者をやっていればみんなそれなりに耳にするものだ。


「そのノエルがよぉ実はひでえやつでさ」

「どうしたんだ?」

「あいつは口だけは達者だが、めちゃくちゃ弱くて足でまといなんだよ。態度は最悪だし、ほんとうに酷いやつでさ。雑魚も雑魚、ほんとうにクソ雑魚野郎なんだよ。あのパーティーはもう終わりだね。あいつらはいずれ崩壊するだろうよ。ノエルのクソのせいでな。あいつは無能のくせに、リーダーなんかやってる、嘘つきの詐欺野郎なんだぜ!」


 俺は、自分の思いをぶつけるように、ノエルの悪口を言いまくった。

 すると、しばらく大人しくきいていた冒険者たちは、一斉に笑いだした。

 話をきいていたのか、別のテーブルにいた冒険者たちまで笑っている。


「な、なんだ……!? 笑うんじゃねえ……! なにがおかしい……!」

「ははは……だってさ。それ、全部嘘だろ……?」

「な……!? 違う、本当だ! あいつは最低なんだ……!」

「いやいや、だって、有名な話だぜ? 閃光のノエルはパーティーでも最強だってな。なんと、あのS級オークと戦って、傷ひとつなかったらしい」

「はぁ……!? そりゃそうだろ、あいつ戦ってないんだからよぉ!」

「それに、大変な人格者で、パーティーメンバーからの信頼も厚いってきくぜ? 受付嬢たちからの評判もいいしな。中世的で可愛らしい見た目の美少年だっていうじゃないか」

「っく……それはあいつは……。パーティーメンバーがみんな見る目がないだけだ……!」

「絡んできた冒険者を一瞬で倒したりしたっていうしな。閃光のノエルはすげえって、みんな噂してるよ。最近では、最年少でレベル8になったらしい」

「だから、そんなの全部嘘なんだって! あいつは詐欺師だ! ただの荷物持ちなんだよ!」


 俺は必死にそう訴えた。

 しかし、誰もまともにとりあってはくれない。

 みんな、また一斉に笑いだした。

 なんでだ……なんで……!


 そのときだった、後ろのテーブルにいた奴が、口を挟んできやがった。


「あ、おい! あんた知ってるぜ。【霧雨の森羅】のシュバールだろ? パーティーを追い出されたんだってなぁ?」

「なに……?」


 どうやら、俺の顔を知っているやつがいたらしい。


「ははぁ、なるほど。それでさっきからノエルの悪口を言っていたのか。あんた、パーティーを追い出されたからって、元仲間のことを貶めようとしてるだけなんだろ。かわいそうなひとだねぇ……。いけないよ、そんな嘘いっちゃ」

「な……!? ちがう……! 俺はそんなこと……! 嘘じゃないんだ……! 信じてくれ……!」


 俺はその場で、暴れまくった。

 そしたら、酒場のムキムキのオーナーに店を追い出されてしまった。


「お客さん? あんまりふざけた真似するんなら、出ていってもらおうか?」

「俺は事実を言っただけだ! こいつらが信じないのが悪いんだー!」


 くそ……なんで俺がこんな目に……。

 それここれも、全部ノエルのせいだ……!

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