第11話 最弱のSランク(1)


 僕だって、なにも自分が弱いままでいいなんて、思っちゃいない。

 みんなについていくために、それなりに努力はしてきたつもりだ。

 だけど、努力だけではどうしようもなく、埋められない才能ってものがある。

 僕はいくら鍛えても、みんなみたいな怪物にはなれない。


 荷物持ちとはいっても、せめてマッピングスキルだとか、アイテムボックスだとか、転移スキルだとかそういうのがあればよかったんだけど……。

 だいたいのSランクパーティーなんかの荷物持ちには、そういった特殊なスキルがあるか、荷物持ちでありながら、戦闘能力にもすぐれているような化物ばかりだ。

 だけど、僕にはこれといって、なんのスキルも目覚めなかった。

 魔法だって覚えようとはしてみたけど、からっきしだめだった。


 だから、せめてみんなの迷惑になる前に、そっと消えようと思うんだけど……。

 みんななかなか追放してくれないんだよね……。

 そうだ、僕がクエストで飛んでもない失敗をすれば、さすがにみんな僕に愛想つかすんじゃないかな?

 ということで、僕たちはクエストを受けることにした。

 冒険者ギルドにやってくる。

 受付嬢に話しかける。


「なにか、いいクエストはありませんか……?」

「あ、【霧雨の森羅】のみなさん! ちょうどよかったです。今、緊急で受けてもらいたいクエストがあって、ちょうど腕のいいパーティーを探していたところなんですよ! みなさんになら安心してお任せできます!」

「どんなクエストですか……?」


 受付嬢から受け取ったクエストシートには、こう書かれていた。


 【クオーツク大森林にて遭難したAランクパーティー5人の救出】


 どうやら、遭難した冒険者パーティーを救えという任務らしい。

 こういった依頼は、よくあることだ。

 冒険者たちは当然、自分たちのランクに応じて、ちょうどいい難易度のクエストを受ける。

 だがしかし、ランクやクエストの難易度はあくまで目安なのだ。

 少しの油断が命取りになって、帰らぬ人となることもありえる。

 冒険者パーティーが遭難した場合は、基本的には1ランク以上上のパーティーが救難を引き受けることになっている。

 今回遭難したのはAランクパーティーだから、このクエストを受けられるのはSランク以上に限られる。

 つまり、なかなかクエストの受け手が見つからないということだ。

 そこにちょうど僕らがきたものだから、受付嬢からすればうってつけの相手ってわけだ。


「受けてもらえますよね……?」

「も、もちろんです」


 美人の受付嬢に、上目遣いでそう言われると、断る気がなくなる。

 それに、やはりこれは人命がかかった、急をようする依頼だ。

 なるべく、こちらとしても真剣に受けたいと思うのが人情だ。

 くそ、僕としては、クエストでへまをして、追放されるつもりだったんだけど……。

 これじゃあ、失敗するに失敗できないじゃないか。

 さすがの僕も、人命がかかったクエストでわざと失敗するようなことはできない。


 さて、というわけで、僕たちはクオーツク大森林にやってきた。

 パーティーの先頭を歩くのは、盾役のロランだ。

 もし急に敵が前から襲い掛かってきても、ロランが守ってくれる。

 以前なら切り込み隊長のシュバールが一番前だったんだけどね。

 けど、そのシュバールはもういない。

 

 僕はロランの後ろを歩く。

 そして僕の後ろにはマリアがついて歩く。

 マリア曰く、もし僕になにかあったときにすぐに回復できるように、この位置なのだそうだ。

 まったく、あいかわらずこの人たちはどんだけ僕のことが好きなんだろう。

 まあ、ありがたい話だけど。


 そして最後尾を歩くのはエカテリーナだ。

 エリーの魔法攻撃は、遠距離でも問題なく届くので、最後尾ということになっている。


 今更だけど、シュバールがいなくて、僕たちは大丈夫なのだろうか。

 シュバールはあんな性格だったけど、腕だけは確かだった。

 一人戦力が抜けて、僕たちはうまくやっていけるのだろうか。


 しばらく森の中を歩いていると、急に前から、ゴブリンの集団が現れた。

 しかも、あれはただのゴブリンじゃない、A級魔物のゴブリンエリート率いる群れだ。

 先頭を率いているのはA級のゴブリンエリート。

 そしてその周りにいるのはB級指定のゴブリンソルジャーたち。

 C級のゴブリンアーチャーなんかも後ろに控えている。


 全部で15体くらいかな。

 ゴブリンの群れは、かなり強力だ。

 なにより、あのゴブリンエリートが厄介だ。

 全体に指示を出し、他のゴブリンたちをバフ強化する。

 統率のとれた動きは、人間の戦略をも凌駕する。

 いきなりこんな強敵に出くわして……僕たちは勝てるのだろうか。


「ゴブゴブ……!」


 ゴブリンエリートが命令を下す。

 後ろに控えていたゴブリンアーチャーたちが、一斉に火のついた矢を放つ。

 だが、その矢は僕たちに届くことなく、空中で、別の炎にかき消され、消えてしまった。

 ――ゴオオオォッ!

 

「他愛もないわね」


 その犯人はエリーだった。

 エリーは、炎魔法を放ち、空中でゴブリンたちの矢を消し炭にしたのだ。


「さすがはエリーだ……!」


 ゴブリンエリートは悔しそうな表情を見せると、今度はゴブリンソルジャーに命令を下した。

 ゴブリンソルジャーが剣を持ってこちらに襲い掛かってくる。

 しかしそれをロランが盾ですべて防いだ。


「今だ! エリー!」

「わかったわロラン……! 火炎烈フレア・ヒート――!」


 ――ゴオオオッォオオ!!!!


 ゴブリンたちは火の海に包まれた。

 なんら危なげなく、ゴブリンの群れを蹴散らした【霧雨の森羅】の面々。

 うん、やっぱこいつら強えわ。

 ぜんぜんシュバールがいなくても、やっていけそうだった。

 シュバールがいないから、ろくに戦闘できなくて、それで解散……みたいな線もあり得るかとか期待した僕が馬鹿だった。

 そもそも、彼らは一人ですら化物クラスなのだ。

 僕が引退できる日はまだまだ遠そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る