第9話 追放(4)


 僕たち【霧雨の森羅】は、今月から晴れてSランクパーティーとなる。

 はぁ……先が思いやられる。

 Sランクパーティーとなったことで、新たにギルドカードを更新しないといけないらしい。

 ということで、僕たちは冒険者ギルドへやってきていた。


「また魔力を測り直すのかぁ。めんどうだな」


 とロランがぼやく。

 ギルドカードの更新には、魔力測定が必要だった。


「でも、決まりだからね」

「前からどのくらい成長したのかも図りたいしね!」


 エリーはきっと、かなり成長しているだろうな。

 まあ、成長したのは、胸のほうもだけど……。

 おっと、これは余計なことだ。

 

 しばらく待っていると、奥から受付嬢が、魔力測定機を手にして現れた。

 魔力を測るのに使用する、特殊な魔力測定機だ。


「それではみなさん、この魔力測定機に手を当てて、魔力を念じてください」

「はい」


 まずは、マリアからだ。

 マリアの魔力量は、58万。

 とんでもない魔力量だ。

 普通の人間なら、あり得ないくらいだ。

 さすがは、大地の聖母。

 神の癒し手とまで言われた聖女だ。


 そしてお次はエリー。

 エリーの魔力量は49万。

 これまたすさまじい記録だ。


「いやぁ……お二人とも、すごいですね。ギルド始まって以来の記録ですよ……!?」

「いやぁ……えへへ」


 エリーは褒められて上機嫌だ。

 そして次に、ロラン。

 ロランの魔力量は、6万だった。


「っち、俺はこれっぽっちかよ……」

「まあまあ、落ち込まないでよ。これでも十分すごいんだから」


 ロランの魔力量も、普通の冒険者と比べれば、十分にすごい量だ。

 ただ、魔法職の二人と比べると、少なく見えるだけだ。

 そして、ついに僕の番がやってきた。

 はぁ……いやだな。憂鬱だ。

 どうせ僕の魔力量なんか、大したことがない。

 僕なんて、普通の冒険者と比べたって、見劣りするくらいだろう。

 僕はしぶしぶ、魔力測定機に手を載せた。


「100…………ですね」


 受付嬢が、乾いた声で告げる。

 はぁ、やっぱりな。

 僕のことだから、どうせ大したことはないとは思っていたけど……。

 前に測ったときから全然伸びてもいない。

 みんなについていくのは、つくづく大変だなぁ。

 改めて、才能の違いを実感させられる。


 僕も、なにも好き好んで凡人をやっているわけではない。

 僕だって、できることならみんなについていきたかったさ。

 だけど、悲しいかな、僕には才能がない。

 それは、わかりきったことだった。


「まあ、ノエルは魔力なんかなくても、すごいからな! 気にすんな!」


 ロランが謎のフォローを入れてくる。

 だけど、僕にすごいことなんかないだろう……。

 

「さて、では手続きは以上です。お疲れさまでした」

「ありがとうございました」


 僕たちは新しいギルドカードを受け取ると、そのまま冒険者ギルドを出た。

 さて、今日もどうやって引退しようか、考えなくちゃ。



 ◆



【受付嬢視点】



 冒険者パーティー【霧雨の森羅】が、今日Sランクに昇進した。

 私は、そのギルドカード更新を手続きした。

 それは、誇りに思う。

 そのくらい、Sランクパーティーはめったに出ない。

 さすがは、Sランクパーティーだ。


 【霧雨の森羅】のメンバーは、みんなとんでもない魔力量だった。

 ただ一人を除いては――。

 そう、あのノエルという少年、Sランクパーティーのリーダーだというのに、魔力がたったの100しかない。

 あんなので、この先やっていけるのかしら……と、少し心配だ。


 私は魔力測定機を片付けながら、彼らの行く末を思った。

 そのときだった。

 ふと、魔力測定機の針に目を落とすと、まだ針が動いていた。


「え…………?」


 そしてその直後、ぷるぷると震えた針が、一気にグンと動いたのだ。

 もしかして、さっきの測定は間違いだった……?

 ただ、反応が鈍くて、測定機が遅延していただけ……?

 

 針はぐるぐると測定機を一周し、そしてまた一周。

 6周ほど回転すると、ぴたりと100の位置で止まった。


「おかしいわね……。この測定器は、100万までしか測れないはずなんだけど……」


 だとすると、6周したってことは、600万。

 これじゃあ、ノエルさんの魔力が600万と100ってことになってしまう。


「そんな……まさかね……。そんな人間、いるわけないし……」


 私は、この件をただの測定機の故障として片付けた。

 だって、まさか……ね。

 そんなわけはないもの。


「ただの故障……よね。まあ一応、ギルド長に報告だけはしておこうかしらね……」

 

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