第8話 追放(3)
S級オークを討伐して、月末。
月末になると、冒険者ギルドから、各パーティーへの査定が入る。
その月にこなしたクエストの功績から、ランクアップ、もしくはダウンを決めるのだ。
そして僕たち【霧雨の森羅】は、見事、Sランクパーティーへの昇進を決めた。
「やったぜ! 俺たちもついにSランクパーティーか……!」
ロランはもろ手を挙げて大喜びだった。
僕としては、素直に喜べないんだけどなぁ……。
Sランクパーティーになったら、ますますクエストは難化して、僕の生きる術がないじゃないか……。
今でさえ、戦場を生き延びるのに精いっぱいなのだ。
これ以上強敵になったら、僕もいったいいつ死ぬかわからない。
まあ、せいぜいこのパーティーで、死なないようにはあがいてみるつもりだけどね。
引退させてくれないのなら、せめて足を引っ張らないように、頑張るまでだ。
「いやぁ。これもノエルのおかげだぜ! やっぱノエルはすげえよな。さすがは俺たちのリーダーだ!」
ロランはそう言って、僕の背中を叩く。
いや、僕本当に何もしてないんだけど……?
なんでこれも僕の功績になるのかな……。
「いや、僕はただの荷物持ちだから……」
「そんなことないぜ! なあ。ノエルは最高のリーダーだよな!」
ロランはエリーとマリアに同意を求めた。
「そうよ、もっとノエルは自信を持っていいわ!」
「そうですよ! ノエルさんのおかげで、ここまでこれました!」
どうやら、そうらしい。
この人たちは、ほんとに認知が歪んでいる。
「じゃあ、さっそく、祝勝会といきますか!」
「お、いいわね!」
ということで、僕たちはSランクパーティー昇給祝いに、酒場にやってきた。
酒場の中は、まだ日も明るいというのに、酔っ払い冒険者でいっぱいだった。
僕たちが店の中に入っていくと――。
――そのときだった。
「ぎゃはははは……! お前、それはないって……おい!」
――ドン。
歩いていた僕のところに、一人の酔っ払い冒険者が倒れこんできた。
どうやらふざけていて、ぶつかってしまったみたいだ。
男はよろけて、グラスをこぼしてしまっていた。
僕は軽く、すみませんと避けて、そのまま席に着こうとした。
しかし、男は逆上し、怒りをぶつけてきた。
「おいおいおいぃいいい! なにぶつかっておきながら、平然と座ろうとしちゃってんの? グラス、こぼれたんだけどぉ? 俺のおニューの服に、ビールぶっかかっちゃってんだけどぉ!?」
「いや……ぶつかってきたのはそっちなんだけど……」
はぁ……これはまたしても、面倒なことになったな。
これだから酒場は嫌なんだ。
ただでさえ面倒な冒険者たちが、酔うとよけいに手がつけられない。
「この俺様が、Bランクパーティーの【雷雨の黎明】ゲッダ様だとわかっていての行いか?」
なんか、唐突に名乗りだした。
どうしたものかな、と僕が思っていると、僕のかわりに、先に口を開いたのはロランだった。
「おい、それはないだろ。俺たちはただ歩いていただけだ。ぶつかってきたのはあんたのほうだったぜ。それに、パーティーのランクでいうなら、俺たちはSランクパーティーなんだぜ?」
あぁ、ロランはまたいらんことを言う……。
「はぁ……? そこのヒョロガキがSランクだぁ? とてもそうは見えねえがなぁ」
「お前、今うちのリーダーを馬鹿にしたか……?」
「っち、俺は今気分が悪いぜ。おいお前ら、やっちまえ!」
まったく、冒険者はどいつもこいつも話をきかないし、喧嘩っぱやい。
ゲッダと名乗った男は、後ろに従えている仲間たちに命令を下した。
男たちは、一斉にロランに襲い掛かる。
だが、しょせんは相手はBランクの冒険者だ。
とてもじゃないが、束になっても、ロランに敵うわけはなく……。
「オラ……!」
「ぐわぁ……!?」
みんな、ロランの前に瞬殺だった。
一斉に襲い掛かった連中は、投げ飛ばされて、返り討ちだ。
「っく……なんて強いんだこいつら……! こいつでこれだけ強かったら、リーダーのアイツはどんだけ強いんだよ……!」
「だから言っただろ。俺たちはSランクだ。いいから、わかったならノエルに謝罪しろ」
そのときだった。
ノエルと、僕の名をきいたとたん、男たちは目の色を変えた。
「お、おい……今アンタ、ノエルって言ったか……!?」
「そ、そうだが……? うちのリーダー、ノエルだ」
「っく……アンタらがあの閃光のノエルだったとは……!」
ええええええええええええええええ。
なんか、こんなところでまで僕の二つ名が知られているんですが……。
まったく、勘弁してくれよ……。
「俺はきいたぜ、この前、冒険者ギルドで絡まれた相手を、無詠唱の魔法でわけもわからぬうちに瞬殺したってな」
あ、それ、全部エリーのせいです。
僕じゃないです。
ゲッダに続くように、後ろのチンピラたちも僕のあらぬ噂を口にする。
「他にもきいたことがある。眼光だけで、相手の腹に穴をあけたとかって」
いや、どこの誰なんだそいつは……。
「まさか、あんたがあの閃光のノエルだったとはな……。そうとも知らずに俺たちは……すまねえ! この通りだ! 許してくれ! 命だけは勘弁してくれぇ!」
そう言うと、ゲッダたちBランクパーティーは一斉に頭を下げてきた。
うーん、なんだか変な誤解がある気もするけど、まあいいか。
「いや、もういいから、頭を上げて」
「いや、そうはいかねえ! ここは今日は俺たちが、お詫びにおごらせてもらうぜ! 好きなだけ飲んでくれ!」
ゲッダは、そう言って許しを求めてきた。
「おお! 話のわかるやつじゃねえか! 悪いやつってわけでもなさそうだ!」
驕ってもらえるとわかるやいなや、ロランはゲッダの肩に手を回して、歓迎ムードだ。
そのまま、ゲッダ率いるBランクパーティーと、一緒に飲み会が始まった。
うーん、このノリ、ついていけねぇ……。
冒険者はいつもこうだ。
すぐに喧嘩しては、すぐに仲直りして、そして結局は酒。
みんな理由をつけて、なにかと暴れたいだけなんだよなぁ……。
僕としては、こういったノリも、冒険者が苦手な理由の一つだ。
はぁ……引退したい……。
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