第7話 追放(2)


「おい! ノエル・グランローグ。荷物持ちしかできない無能め! 今日でお前は追放だ! もうこのパーティーにお前は必要ねえ。Sランクに上がるんだ。お前のようなお荷物を置いてはおけねえ、みんなも賛成だよなぁ……!?」


 その瞬間、僕はよろこんでいた。

 よかったぁああああああああああ。

 この瞬間を待ちわびていたんだよ。

 はあ。本当によかった。

 僕、前から追放してほしかったんだよねぇ……。


 シュバールは僕のこと嫌ってるみたいだったし、追放してくれないかなって思ってたけど、ようやく言ってくれたんだね。

 よし、シュバールナイスだ。

 よかった、ようやく僕も追放されるのか……。

 ふぅ、肩の荷が下りる。

 正直、ついていくのがやっとだからな。

 僕が足をひっぱって大変なことになる前にやめたほうがいいだろう。

 あとはこのまま、シュバールに賛成して、僕はここを去るだけだ。


「う、うん……そうだね。うん、そうだ。僕も、シュバールの言うことは正しいと思うよ。僕はこのパーティーにふさわしくない。だから、抜けるね……。みんなと離れるのは悲しいけど、仕方ないよね! うん、僕じゃSランクパーティーについていけないし。じゃあ、今までみんなありがとう……!」


 僕は早口でそう言い切って、さっさとその場から去ろうとする。

 しかし、そんなことまるで聴いていないかのように無視して、ロランが口を開く。


「馬鹿野郎! ノエルになんてことを言うんだ! てめぇ!」

「そうよそうよ!」


 ロランはすぐに頭に血がのぼって、シュバールに殴りかかった。

 シュバールがホテルの部屋のベッドの上に倒れる。

 エリーとマリアも後ろから、シュバールに避難の目線を浴びせかける。


「おい……! やめろ……! 俺は正論をいっただけだぜ。お前だって、本当はそう思ってるんじゃないのか?」

「てめぇ。ノエルを侮辱するんじゃねえ! ノエルは俺たちのリーダーだ。それを追放するって、どういうことだ! 許さねえ! 殺す!」


 ロランは、今しもシュバールを殺してしまいそうな剣幕で、シュバールに馬乗りになる。

 それを慌てて、僕は止める。

 まったく、これだから冒険者は……。

 みんな、どうしてこうも話をきかないんだ。


「いや、話きいてた……!? 僕、別に追放に反対してないんだけど……。僕が抜ければ丸く収まる。だから、ね? ロラン、落ち着いて……?」

「うるせえ! こいつはノエルを侮辱したんだ……! 許せねえよ! それに、ノエルは絶対にこのパーティーを抜けるわけねえだろ! ノエルだって俺たちのこと大好きなんだからな……!」

「いや、まあ……。僕もみんなのこと大好きだけど……。そうじゃなくって! 話きいてよ! 僕はこのパーティーを抜けたいんだって……!」


 ダメだこれ……全然話が通じない。

 ロランは、僕を馬鹿にされて、シュバールへの怒りで我を忘れている。

 ほんと、この人どんだけ僕のこと好きなんだ……?

 僕はロランを止めようとするも、僕の力なんかじゃロランは止まらない。

 ロランはひとしきりシュバールに制裁を加えると、扉のほうめがけて、シュバールの身体を投げ飛ばした。


「出て行くのはてめえだ! てめえは前からよぉ、ノエルに対する態度が気に食わなかったんだ。そこまでいうなら、てめえが出て行くんだな。俺たち【霧雨の森羅】は、ノエルがいてこそなんだわ。わかったか?」


 あれぇ……?

 なんか、シュバールが追い出されそうになってるんだけど……。


「そうよそうよ! あんたなんか、いてもいなくても同じよ」

「そうです! ノエルさんを侮辱する人はいりません!」


 エリーとマリアも同意見のようだ。

 投げつけられたシュバールは、扉によりかかりながら、立ち上がると、ふらふらと部屋から出て行った。

 

「っち、やってらんねー! お前ら全員どうかしてるぜ! せいぜいそのお荷物とよろしくやるんだな。俺はもっとまともなパーティーをさがすぜ」


 いや……シュバールほんとに出ていっちゃったよ……。

 まあ、ロランのキレ具合からしても、仲直りは無理だろうけど……。


「なんなのあいつ」


 エリーが去り行くシュバールに冷たい視線を送る。

 

「あの……僕的には別にシュバールの意見に異論はなかったんだけど……?」


 僕は小声で、そう手を挙げる。

 まあ、誰も僕の意見なんてきいちゃくれないよね……うん、知ってた。

 この人たち、僕のこと大好きだけど、それ故に盲目的というか。

 絶対、僕が抜けるなんて許してはくれないんだろうなぁ……。


「もう、ノエルは優しすぎるんだから、いいのよあんな奴、かばわないで」

「えぇ……」


 かばってるわけじゃなくて、本心なんだけどなぁ……。

 こうして、僕はパーティー追放されることに見事に失敗した。

 うーん、誰か、僕を追放してくれ……。


「そうだぜ、ノエル。お前はこのパーティーのかけがえないリーダーなんだからな。いなくなってもらっちゃあ困る。お前が役立たずなんて、そんなわけがないじゃないか。お前がいないと、俺たちどうしようもなくなっちゃうぜ?」


 ロランはそう言いながら、僕の肩に腕を回してくる。

 うーん、僕的には全然納得いかない……。

 シュバールの言う通り、僕なんか役立たずもいいところだと思うんだけどなぁ……。


「そうですよ、ノエルさん。私たちは、ノエルさんがいないとなにもできないんですから。ノエルさんはこのパーティーの要。かけがえのない存在なんですから。どこにもいかないでくださいね?」


 と、マリアが満面の笑みで言ってくるんだけど、なぜか恐怖を感じてしまうのは気のせいだろうか。

 なんというか、圧がすごい……。

 とにかく、みんな僕から離れたくないのはわかった。

 まあ、みんなきっと悪気があって言ってるわけじゃないってのは、わかっている。

 みんな、僕のことを本気で慕って、大事にしたいと思ってくれている。

 だからこそ、それだけに、僕も強くは言えないんだよなぁ……。

 本当なら、今すぐにでも無理やり逃げればいいわけだけれど。

 僕だって、みんなのことは大好きだから、裏切るような真似はしたくない。

 まあ、逃げてもみんなのことだから、追いつかれそうだけど……。

 とにかく、僕はまだ引退することはできなさそうだ。

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