第4話 引退したい(4)


 パーティーの雑用などは、主に僕の仕事だった。

 それはまあ、当然だ。

 なにせ僕にはほとんど戦闘能力がないのだから、せめて雑用くらいはこなさないとね。

 ということで。


「じゃあ、僕はギルドに報告してくるから、みんなは先にホテルに戻って休んでてよ」


 依頼主の商人さんには報告したけど、一応はギルドを通さないといけない決まりになっている。

 だから、ギルドへも報告して、報酬金はギルドから受け取る仕組みだ。

 それに、倒したモンスターの死体も、ギルドに持って行かなくてはならない。


「おうそうか、ノエル。気が利くな。悪いな、いつも任せちまって」

「いやいや、このくらいさせてよ。僕なんにもしてないし」


 さすがに、戦ってないのに同じだけの報酬をもらうのは、気が引ける。

 ということで、僕は一人で、ギルドへ。

 倒したS級オークの死体を担いで、ギルドへ向かうのだった。


「よいしょ……結構重いな……」


 謙遜ではなく、僕にはできることなんてほとんどない。

 例えば、他のパーティーの有能な雑用係なら、アイテムボックスなんかが使えるだろう。

 だけど僕にはそういった便利スキルもないから、こうやっていちいち重たい思いをして、モンスターの死骸を運ばなければならない。

 僕にはなにもできないというのは、謙遜でもなんでもなく、ただの事実なのだった。

 

 僕は重たいオークを引きずって、冒険者ギルドの扉をこじ開ける。


「はぁ……しんどい……。えーっと、オーク一体換金できますか?」


 受付嬢に声をかけると、すぐに運搬係がやってくる。


「あ、はぁい」


 ギルドには、運搬の係のものがいて、モンスターを持って行くと、奥に運んでくれる。

 ギルドの奥に運ばれたモンスターの死骸は、あとで解体され、各種素材になるのだ。

 モンスターの死骸はダンジョンでその場に置いておくと、腐ってアンデッドモンスターになったりする。

 弱い低級モンスターの死骸ならそのままでもいいが、ボス級のモンスターの死骸は、なるべくギルドに持ちかえるようにと決まりになっているのだ。

 それに、ボス級のモンスターは持ち帰ったほうが、お金にもなるし、素材にもなるし、いいことずくめだ。

 まあ、僕らのようなアイテムボックスを持ってないパーティーからすると、かなり骨の折れる作業だけどね。


「これは……S級オークですか……? す、すごいですね……」


 受付嬢が、驚いた顔で近づいてくる。


「ああ、いや。僕が倒したわけじゃないんですけどね。倒したのはあくまでパーティーメンバーなんで」

「で、でも……すごいです……! なかなか大物を仕留めましたね」

「ええ、まあ。えーっとそれで、クエストの完了報告もしたいんですけど」

「あ、はい。ただいま」


 僕はクエストを報告して、それから、モンスターの買い取り料金と、クエスト報酬金を受け取った。

 合わせて、かなりの金額になった。



 ◆



【受付嬢視点】



 私は冒険者ギルドで受付嬢をしている。

 今日、ギルドにとんでもない獲物が運び込まれた。

 そのほっそりとした少年は、小さな体で、巨大なオークを引きずってもってきた。


 私は、驚きのあまり、声を失ってしまった。


(そんな……! Sランクのオークを戦闘後に軽々と運んでいる!? 普通なら戦闘で魔力もカラカラになって、動けないはず……! それなのに、この冒険者さん、傷一つついてないどころか、魔力もほぼ満タン状態だわ……! まさかこのオークを楽々……!? ありえない……!)


 そう、S級オークともなれば、倒すのにかなり時間もかかっただろうし、もうすでに戦闘後でへとへとなはずだ。

 それを、この冒険者さんは、戦闘後すぐに運び込んでいる。

 しかも、全然しんどそうに見えない。

 傷ひとつついていないし、楽々オークを運んでいるようにみえる。

 彼の体つきを考えると、とてもではないがこんなオークを運べるほどの力持ちには見えないし……。

 彼は、相当な手練れ……!


「これは……S級オークですか……? す、すごいですね……」

「ああ、いや。僕が倒したわけじゃないんですけどね。倒したのはあくまでパーティーメンバーなんで」


 冒険者さんは、謙遜したのか、そんなふうに言った。

 しかし、パーティーで倒したにしても、すごい。

 いくらパーティーで倒したにしても、彼も戦闘には参加したはずだろう。

 それなのに、彼はまったく傷を負っていないし、魔力もほぼ満タンだ。

 彼にとっては、あまり強敵ではなかったのだろう。

 それほど、彼はパーティーの中でも戦闘の要なのだろうと、予想できる。

 

「で、でも……すごいです……! なかなか大物を仕留めましたね」

「ええ、まあ。えーっとそれで、クエストの完了報告もしたいんですけど」

「あ、はい。ただいま」


 クエスト完了報告のときに、サインをしてもらった。

 彼は、ノエルとサインしていった。

 冒険者ノエル……もしかしたら私は、とんでもない逸材を見つけてしまったのかもしれない。

 涼しい顔してS級オークを運び入れた彼。

 今後の活躍には、要注目かもしれない。

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