第3話 引退したい(3)
「ぐおおおおお! ここは俺が食い止める!」
S級オークの攻撃を、ロランが大盾でなんとかしのぐ。
その隙をついて、エリーが焔魔法を炸裂させる。
「喰らえ!
――ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
S級オークの顔面に、巨大な炎の塊が叩きつけられる。
しかし、さすがはS級だ。
S級オークは、それでも倒れない。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」
S級オークが反撃してくる。
その力はすさまじく、僕たちパーティー全員にぶち当たるくらいの攻撃範囲で――。
――ドカーン!!!!
S級オークは巨大な岩を投げつけて攻撃してきた!
ロランはそれを盾で防ぐ。
シュバールはかすり傷を負ったが、すぐにマリアが治療する。
エリーは得意の焔魔法をガードに使って、無傷だ。
そして僕は。
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
必死の思いで僕は逃げた。
なんとか岩がかすっただけで、傷はない。
だけど、このままじゃマジで死ぬ。
命がいくつあっても足りないと思った。
あと少しで、僕は本当に死ぬところだった。
「さすがは閃光のノエルだ! いい回避だぜリーダー!」
とロランが言ってくるけど、こいついかれてるのか?
僕は今死ぬところだったんだぞ……!?
僕にはみんなと違って屈強な防御力もないから、攻撃が当たればすぐに即死だ。
こんな戦場、生きたここちがしない。
「さあ、とどめよ!」
そしてエリーが最大火力で魔法を放つ。
「
なんとかS級オークは、炎の渦に飲み込まれて、倒れた。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」
――バタン。
「ふぅ……なんとかなったわね」
「楽勝だったな!」
あの、僕はあとちょっとで死ぬところだったんですけど……。
だけど、まあなんとか無事だ。
僕は戦ってないから、実質無傷だ。
ほこり一つかぶっていない。
「みんな、お疲れ様……」
いちおう、ねぎらいの言葉を言う。
だって、みんなはボロボロに傷ついているからだ。
傷はマリアの回復魔法ですぐに治せるけど、装備がボロボロだ。
「ああ、これか……街に戻ったらすぐに防具屋に預けないとだな」
とロランはいう。
「まあ、ノエルは心配すんな!」
「う、うん」
まあ、みんなのことはなにも心配していないんですけどね。
僕が心配なのは、僕自身の命だよ。
「ふぅ、さすがに疲れたな。依頼主のところにさっさと戻って報告しよう。さっさと酒が飲みたいぜ」
「そうだね」
僕たちは依頼主の商人さんのもとへ向かった。
◆
【商人視点】
私はAランクパーティー【霧雨の森羅】にS級オークの討伐を依頼していた。
なんと、彼らは優秀なことに、すぐに依頼をこなして帰ってきてくれた。
私も依頼主として、そんな彼らをねぎらってやりたい。
冷たい飲み物を用意して、彼らを出迎えた。
「これはこれはみなさん、お疲れ様です。見事、やってくれましたな!」
「こんなのは余裕ですよ!」
ロランさんはそういうが、やはりかなり苦戦したようで、疲れているようだ。
装備もボロボロだ。
かなり高級で堅牢な装備のはずなのだが……。
やはりそれほどS級オークは強かったということだろうか。
「私の焔魔法でやっつけてやりましたよ!」
そういうのは紅蓮のエカテリーナと名高き女魔法使いだ。
さすがは紅蓮のエカテリーナ。
しかし、彼女もまた強大な魔法を撃ったせいか、顔に疲れが出ている。
炎のせいで服装も焼けている部分が多い。
黒い煤が顔についたりもしている。
「まあ、俺が一番がんばりましたね」
そういう切り込み隊長のシュバールは、たしかに一番装備が傷ついていた。
大地の聖母マリアも後衛でありながら、かなり装備に汚れがついている。
だがそんな中――。
傷やほこりが一切ついてない人物がいたのだ。
なんだこの男は……仲間がこれだけ苦戦しているのに、涼しい顔で傷一つついていないだと……!? いったいどれほどの強者なんだ……!?
「た、たしかあなたは閃光のノエルさんでしたかな……リーダーの……。はは……さすがはリーダーですな。傷一つついていないとは……」
そう、この閃光のノエルという人物、恐るべきことに、あのS級オークと戦って、傷一つついていないのだ。
まるで新品のような装備品。
いったいどのような戦いかたをすれば、こうなるのだろうか……。
これほど優秀なメンバーがこれほどまでに苦戦の痕を残している中で、彼だけは唯一無傷なのだ。
閃光のノエル……その名前にヒントがあるのだろうか。
しかし、ノエルはまったくそれをおごることなく、私に謙遜して笑顔で対応した。
「いえいえ、僕はなにもやってませんから……」
「ははは……さすがはリーダー、器も大きいのですな……」
これだけのチームを束ねる人物だ。
傷一つつかないだけでなく、それでいてなお謙遜する人格まで持ち合わせているとは……。
恐ろしい……。
この閃光のノエルという人物、いったいどれほどの強者なのだろうか。
計り知れない。
「いえ、僕は本当になにも……僕は場違いなほど弱いので……」
「ははは、またまた。閃光のノエル殿はお上手だなぁ」
「いや……その名前やめてくださいよ……」
どうやら、認識を改めなくてはいけないな。
この【霧雨の森羅】というパーティー、一番すごいのはこの閃光のノエルという人物のようだ。
彼はいわば、能ある鷹は爪を隠すというやつなのだろう。
実力は最後まで見せないというわけか。
おもしろい。
閃光のノエル、その活躍を今後の楽しみにしよう。
彼は、きっとなにかとんでもないことをやる、とてつもない大人物だぞ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます