第4話

「ケーキの食べ放題にしてみたんですけど、どうですか?」

「でも、ここは私なんかが入れるお店じゃ……」


「大人二人で予約していた漣です」

「こちらの席にどうぞ」


「行きましょう九条さん」

「は、はい」

 店員さんには少し睨まれてしまったが、漣さんが手を引いてくれるから安心してしまった。


「女性は甘いものが好きだと仕事仲間から聞きまして。女性と交際したことがないので上手くエスコート出来てるか不安です」

「エスコートはバッチリだと思います!」


「ははっ。それは良かった」

「っ……」


 声を大にして伝えたから、漣さんに笑われた。

漣さんの笑顔はやっぱり綺麗だ。


「ケーキ以外にもチーズフォンデュやグラタンなどもありますので、九条さんが食べたいものをどうぞ」

「ありがとうございます」


 この店の支払いに関しては、自分が払いますと付け加えられた。やっぱり紳士だ。これで今まで彼女がいなかったとか嘘でしょ……。


 漣さんは何から何まで完璧だけど、オメガだったというのが障害になって恋人が出来なかったに違いない。それ以外に漣さんに不安要素なんてないのだから。


「いっぱいとってきちゃいました」

「そのわりに盛り付け方が綺麗ですよ」


「そう、ですかね?」

 といいつつ漣さんのお皿を見ると私よりも並べ方が綺麗。おかずとサラダを均等にとってきてるし、ケーキもたくさんじゃなくて一~二個。


 漣さんはオメガだけど、実は育ちは良いところのお坊ちゃまだったのでは?


「ん~! ここのケーキ、どれを食べても美味しいです」

「気に入ってもらえて嬉しいです。仕事仲間には感謝しないといけませんね」


「感謝するのはこっちですよ。こんな素敵なお店に連れてきてくれてありがとうございます。世界が変わってから私、こういうところは一人では来れなくて」

「これからは俺が九条さんをいろんな場所に連れて行ってあげます。だから、これからも俺から離れないでくださいね」


「……はい」

 私が仕事を見つけたら、漣さんの元を離れようとしていたことがバレた? ……そんなわけないよね。


「この後はどうしましょうか。九条さん、行きたい所はありますか?」

「えっと……雑貨屋とか。ぬいぐるみがたくさん置いてるとこがいいです」


「九条さん、ぬいぐるみが好きですもんね。それに可愛いマグカップとか」

「私がぬいぐるみ好きって話しましたっけ?」


「ぬいぐるみがないと寝れないって言ってませんでした? 寝室にもいくつか置いてたような……」


 その話をしたのはお手伝いさんにだったような? お手伝いさんから話を聞いて知ったのかな?


「雑貨屋って客層的に女性ばかりですよ?」

「九条さんといるので気になりませんよ。俺は九条さんとのデートを楽しみたいので」


「そ、それならいいのですが」

 そこまで私とのデートを楽しみにしてくれてた? 嬉しいけど、複雑な気持ち。


「俺はお腹いっぱいになりましたけど、九条さんは?」

「私はもう少しだけ食べたいです。いいですか?」

 食い意地が張ってると思われたかな。なんだか恥ずかしくて顔が熱くなった。


「九条さんが満足するまで食べてください。俺は隣で見てますから」

「退屈じゃないですか? スマホとかしてもいいんですよ」


「全然退屈じゃないです。九条さんが美味しそうに食事する姿を見てるだけで幸せなので」

「っ……」

 食べてる途中で思わずフォークを皿の上に落としてしまった。漣さんってば食事中に何言ってるの!? そんなこと言われたら逆に食べにくい。


「それに俺、休日は基本スマホを見ないので」

「珍しいですね」


「ネットの情報は頭を疲れさせますから。仕事が休みの日は身体と心を休息させるのも大事だと思って」


 漣さん、そんなことまで考えてるんだ。仕事熱心というか、私には思いつきもしない。


「漣さんのお仕事は話を聞くことですもんね。子供たちとお話って、どんなことを話したりするんですか?」

「たわいも無い話から雑談などです。学校に行けない子たちは理由がさまざまですが、他の子と変わらない普通の子供たちです。学校では話せないことを話してくれたり。俺は子供たちの心の支えになれるだけで幸せなんです」


「漣さんにはピッタリの仕事だと思います」

「そうですかね? そう言われると嬉しいです」


 アルファの私にも分け隔てなく接してくれる。そんな漣さんだからこそ、心に闇を抱えてる子供と会話が出来るんだ。きっと子供にも人気なんだろうなぁ。


☆   ☆   ☆


「待たせてしまってすみません。もう満足したので大丈夫です。ご馳走様でした」

「お腹いっぱい食べられたようで良かったです。いいんですよ。俺は九条さんのペースに合わせますから」


「は、はい」 

 逆に漣さんの行きたいところはないのだろうか。せっかくのお休みなのに。


「どうしました?」

「いえ、なんでもないです。お店を出る前にお手伝い行ってきます」


「では店を出たとこで待ってます」



(漣、さん……)

 

 お手伝いの洗面台。自分の顔を見ると、さっきよりも火照っている。漣さんのことを考えるたび、胸がザワつくのはなんでだろう。


 発情期だから? 私、誰にでも興奮する変態になっちゃった? って、そんなわけない。

 さっき、声をかけてきた男性に触れられたときは怖いって思ったから。でも、すぐに漣さんが助けてくれた。


 漣さんに聞けば、わたしが抱えてる問題も解決してくれるのかな?


「漣さん。終わりました」

「少し長かったですが、体調でも悪いんですか?」


「え?」

「言おうか迷っていたんですが、今日はなんだかずっと顔が赤いような気がして」


「風邪ですかね? あはは……」

「俺でよければ話を聞きましょうか? 近くに公園がありますから、そこで良かったら」


「お願いします」

 私が楽しそうにしてたから、黙ってくれてたのかな?


 食事をしてる最中はそこまで気にならなかったけど、だんだんと症状が悪化してる気がする。それこそ歩くたびに心臓がバクバクして、上手く呼吸ができない。


 今は普通に歩けるけど、気を抜いたら倒れそうになるくらいには体調がよくない。

 基本的に家で過ごしてるはずなのに、どこかで変な病気でももらってきたかな? 今まで発情期が来ても、ここまでひどいことはなかったのに。

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