第8話

 ユナと郵便局の面々と知り合ってから少し経った。最初は不安もあった新天地での生活も、日を追う毎に慣れていく事ができた。なによりも村の皆の優しさや温和な雰囲気に助けられたのは間違いない。そして私には、今までの引っ越しでは体験する事の無かった1人の”大きな”友人との生活がとても刺激的だった。

 ゴンゴン、と朝食も済ませた頃合いの月曜日の朝の玄関に重い音が2回刻みで響く。

 「は~い、今行きますよ~。」

 この客人に対応するのは私の役割になった。

 分厚い木の板を鉄のフレームで強化した玄関門をゆっくり開けると、そこには1匹の、青い鱗が美しい飛竜がチョコンと座って住人の出迎えを待っていた。

 「おはようシエル。今日も良い朝ね。」

 「おはようベルタ!」

 竜の頭から声が飛んできた!ではなくて、声の主はシエルの背中に乗っている一人の少女。

 「おはようユナ。配達ご苦労様。」

 「いえいえこちらこそ毎度ご利用ありがとうございます!ベルタのお父さん宛てに書類と、あとこれ!水上都市のお友達からお返事来てるよ!」

 「まぁ!ありがとう!待ってたの!」

 「はいどうぞ。他にそちらからのお荷物などはありますか?」

 「私は無いわ。・・・あっ、そういえばお隣のカーラおばさまがお手紙を出すって丘に出かけてたわ。今って郵便局は・・・」

 「あぁ、それなら多分大丈夫。クアラが対応してくれてる、筈・・・。」

 「クアラもお仕事手伝ってるの?」

 「なんか想像以上に飲み込みが早くて・・・。でもきっとカーラおばさんの事だからお菓子も持って行ってて、それを見たら、絶対に!お茶会してるわね。」

 「・・・本当にクアラってゴーストなのかしら。」

 「いやぁ・・・でもまぁ、危害とかそういうのは無いし。・・・でも寝てないっぽいんだよなぁ。椅子に座って目を閉じてるのはお昼寝なのか・・・。」

 「でも、なら良かった。今度またクッキーを焼いて遊びに行くから、クアラと一緒にお茶会したいわ。」

 「OK!時間開けておくね!それじゃあ私は、パン屋さんに寄ってから帰るから、またね!」

 「えぇ、気を付けてね~!お仕事頑張って!」

 「うん!」

 シエルに上昇の合図を送り、数秒と経たぬうちにベルタの家の屋根が香水の小瓶くらいの大きさになってしまった。今日も清々しいくらいの晴天だ。むしろ雲が少なすぎるくらい。風も薄い。ひょっとしてどこかに雲が流れてるのかな。しばらくしたら雨が来るかも。

 「統括センターにも確認しておかなくちゃ。」

 それよりも今は焼きたてのパンだ。郵便局はクアラに任せて、任せて・・・ちゃんとやってるかな・・・。あの摩訶不思議で派手な同居人は未だに掴み切れない部分があるけれど、仕方ない。

 「少し早めに戻ろう。」

 ハイランドの静かな空に、私とシエルにしか聞こえない位のボヤきを吐いた。

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