第5話
「宛先は・・・」
「村長だ。」
「なるほどねぇ・・・あの人かぁ。」
「確かに古い物や骨董趣味のある人だが、これはなぁ・・・。」
「送り主は・・・?」
「・・・『極東の本屋』。」
「は?」
「だから、『極東の本屋』、だ。」
「普通もう少しあるでしょ。どこどこの誰って、さ?」
「俺も確認はしたんだぞ?ただどうも極東支部では一応問題無しで発送されたらしい。ほら、訓練所で先生から聞いたことあるだろう、極東の方はそういう細かい事は慣習的に曖昧でも良い地域があるみたいな事。きっとそういうナニカシカ、なんだろう。」
「でも流石に初めてよ。」
「あぁ、俺もここまでのは、統括センターでの仕分けも含めて初めてだよ。」
「・・・まぁ、宛先が村長で確かなら、私たちは届けるだけ、か。」
「そういうことだ。」
「それにしても、これ何よ?本?」
「かなぁ・・・。重さ的に中身は詰まってる。」
「古い紙でできてるのかなぁ。この文字、どこの文字・・・?」
「・・・あら!この文字、日本の文字じゃないかしら!」
「ベルタ読めるの!?」
「殆ど読めないけれど。さっき、東の国に友人がいるって話したでしょう?私、小さい頃水上都市に住んでいたの。それで、あの辺りは今でも極東文化で、日本の言葉が使われているから、なんとなく文字の雰囲気?みたいなのは分かるから。多分この周りに貼り付けてあるお札は日本文化の宗教的なおまじないか何か・・・じゃないかしら。」
「なるほど!詳しいんだね。」
「凄いわベルタ!・・・それで、その場合このオマジナイって、どんな奴?なんかお祭りで通例的に使われる、そう!クリスマスの飾りみたいな奴?それとも・・・。もっと”ちゃんとした”奴?」
「クリスマスの飾りって・・・お前・・・。」
「だって~!」
「・・・ごめんなさい。私も詳しくはないのだけれど・・・これは多分、いや確実に・・・特別な奴ね・・・。見た目の不気味さ通り・・・多分何かを封じ込めるような類の・・・ヤツよ・・・。」
「だよねぇ・・・。」「だよなぁ・・・。」
ユナとセムがハモった。息ピッタリ。なんとなく兄妹みたいな雰囲気はあったけれど。
「あっ!」
「今度はどうした。」
「宛先村長だよね?」
「そうだが。」
「今、山向こうの村に出張に行ってる。」
「そうか。そりゃ、”災難”、だな。」
「あ、でもメイド長さんに預ければいいから・・・」
「・・・いいや?」
「・・・え?」
「実はこの荷物には取扱いに特記事項がある。」
「そういうのは先に言ってよ!・・・で、なによ?」
「直接渡し。」
「・・・ねぇ、この郵便局に倉庫が無いの知ってるよね。」
「あぁ。元々住んでたからな。でもまぁ・・・、そんなに大きな荷物じゃあないし・・・。」
「怖い!ヤッ!」
「すまないって。まさか村長が不在なんて知らないじゃないか。」
「そうだけど!」
流石に、先程のすまないという言葉は幾分本心からだったらしく、セムもまたフン、と困ったような鼻息をついて下唇を親指と人差し指の脇で摘まんで小包みを眺めている。少し変な顔。
部屋の真ん中に吊るされた暖色の電球は木の家具を暖かく照らしているのにカウンターの包みだけはなぜかその光を煤汚れた布地に吸い込んで、一際暗い影を纏うように我々の視線の先に鎮座している。
「でも、まぁ・・・。これは少し強引かもしれないけれど、日本の神様って、結構見た目は怖い割に、案外性格は優しいみたいな事も多い、みたいな事は、東の国に住んでいた時に聞いたわね。」
「ほんと~?」
「東の国ってお祭りが多いのだけど、そういうお祭りも、元々は神様の怒りを鎮めたりお供え物をしてご機嫌を取ったりする儀式が進化したみたいなものが多くて、だから・・・。そう!丁寧に扱って失礼がないようにすればきっと何も起きないわ!」
「・・・怖い!」
「あ、あはは・・・そうよね。」
「・・・でも、わかった!私だって一人の配達員です!預かった荷物はきちんと最後まで送り届けます!」
「よく言った!その調子だよユナ!」
「もう!セム兄さんはさっさとセンターに戻って!折角お茶出してあげたのに!あんまりだよ!」
「すまんすまん。じゃあ、よろしく頼むよ。」
「はい。任されました。」
その後は、別に取り立てて驚くようなことも無く、3人で紅茶を飲みながら、しばらくするとこの村では野菜の収穫が始まるだとか、統括センターはここと違って人数も規模もうんと大きくて、セムはユナの配属と昇進も兼ねた転勤でセンター勤務になり、今はこの辺の地域の荷物仕分けや配送をしているという話を教えてくれてから、また竜に乗って帰って行った。そしてユナからもう一度郵便局の利用方法の簡単な説明や、裏の厩舎で休んでいるシエルの紹介をして貰った。セムの竜よりは小柄だが、やはり全身を覆う青い鱗が美しい。そして賢い落ち着いた表情の竜だった。挨拶も兼ねて切った林檎を1カケあげた。長い鼻の先で林檎を器用に摘まみ口の奥に投げ込む動作がとても可愛らしかった。
ユナは昼からの定時配達があるからとまたセカセカ仕事に戻っていったから、私はお茶のお礼を言って郵便局を後にした。
丘を降りる途中、少し向こうの緩やかな尾根をユナ達が飛ぶ姿を見た。これが、私がこれから住むハイランドの景色。素敵な景色だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます