第4話
場所は再び郵便局内の受付カウンター。裏の発着広場にさっきの竜は繋いで、3人でお茶休憩を兼ねた配達物の引き渡しをしようという算段らしい。セムさんは郵便局に入ると勝手知ったるという感じで肩にかけていた大きなメッセンジャーバッグをその辺りの床に降ろし、ダイニングチェアの背もたれを掴んで料金表の前辺りの開けた場所まで引っ張ってきてドンと座った。あまり気にしていなかったが、床に置く時の重い音を聞くにかなり重い鞄を背負ってのフライトのようだ。さっきチラリと見た竜の鞍も、シートの後ろ部分に何か荷物を固定できそうな金具と台のようなスペースがあったから、やはりそこそこの重量物も扱う仕事らしい。
「フライトお疲れ様です。」
「え、あぁ、だらしない所を見せてしまって申し訳ない。」
「いいえ、私のお手紙を取りに来て下さったんですもの。できるだけお休みになってほしいくらいですわ。」
「ありがとう。たしかベルタさんと言いましたね。どうやらユナと同じくらいの年齢とお見受けする。どうかユナとは仲良くやってほしいんだ。」
「はい。私もここに越してから少し心寂しかったので、ユナさんみたいな明るい子と知り合えてとても嬉しいんです。ところで、セムさんも、私たちよりは年上でしょうけれど・・・」
「あぁ、俺は今年で19だな。ユナと俺は同じ訓練所で14歳まで訓練やら教育やらを受けて、そのまま郵便局で働いているんだ。実は去年ユナがこの郵便局に赴任してくるまでの3年くらいは俺がここで住み込んでいたもんでね。」
「あぁ、なるほど。だから、その、なんだか勝手が分かっている、って感じだなぁと、思っていたんです。」
「ハハハ!確かに!私にとってもここは、なんだかまだ自分の家みたいな感じかもしれないね。」
「今は私の家なんですけどね~。」
受付カウンターの奥の扉がゆっくりと開いて、まずはユナの頭より先にお尻が顔を出した。小さなお盆の上にマグカップが3つ置かれ、そこからモクモクと白い湯気が立つ。
「はい、これベルタの分ね。」
「ありがとう。・・・いい香り。」
「そうでしょ~!」
受付カウンターに置かれたお盆から可愛らしい丸いシルエットのマグを渡され、軽く鼻を湯気に近付けると、赤茶色い液体の見た目からは想像もできない爽やかな香りがする。まるで、そう、まさにこのハイランドの草原地帯を凝縮したような香りだ。爽やかな草の香り、草の香りを乗せて野を駆ける風の香り。甘い果実臭。実際に乾燥させた実が入っているのかもしれない。干し花を入れた花茶や果実茶の類は東洋産のものを父親宛てのプレゼントで飲んだ事があるし、実際このお茶の色が少し紫がかった赤味を帯びている事からも、恐らくそうなのだろう。
「山向こうのお茶農園で作ってるものなの。」
「なるほどね~。お花みたいないい香りがするわ。」
「そうそう。お花も混ざってる。ピクニックに行くと楽しいのよ!」
「あら素敵。ユナも行くの。」
「偶の休みにね。でも私の場合は、配達の仕事でよく上を飛んだりするから。」
「いいわね。」
「えぇ。あっ!今度シエルに乗せて・・・」
「ユナ・・・お前・・・。」
「あっ・・・」
紅茶の香りに乗せられてすっかり話にも花を咲かせてしまっていた。私たちの後ろでお茶を啜っていたセムが机代わりの小棚の天板に飲みかけのマグを置いて一度軽く咳払いをした。
「さぁ、仕事を済ませよう。」
「で、その説明が必要だっていうモノは?」
「あぁ・・・、え~と、そう。これだ。」
セムは先程床に置いていた大きなメッセンジャーバッグの分厚いボタンを外して蓋を開き、中身をゴソゴソとひと時腕で探ってから、その”例の”荷物を引っ張り出した。
「え・・・ヒェッ!え~~、なにそれ~~!?」
セムの元に寄って一緒に荷物を覗き込んでいたユナの背中が如何にも恐ろしいものを目撃したと言わんばかりにブルルと震えた。えっ、一体なにが・・・。
「よいしょっと・・・重!え、これって古い本かなにか・・・?それとも、いやぁ・・・。」
「ユナ?大丈夫・・・?」
「あ、うん。大丈夫・・・だけど・・・。」
鞄に向かって腰を折り屈んでいたユナがゆっくりと腰を上げる。そしてその手には例の荷物が・・・
「イヤぁ・・・なにそれ・・・。」
「・・・取り敢えず、曰く付きっぽいのは、確かかな。」
彼女に抱えられた大き目な、百科事典か何かだろうか、すっかり年季の入った布でグルグル巻きにされ、さらにその上に無数の、お札・・・らしき文字の書かれた細長い紙が何枚も貼られた箱状の包みは、誰が見たってただならぬイキサツを孕んでいるのは明白だった。
「・・・全く、何なんだろうな、これは。」
この郵便局にコレを持ち込んだ当人のセムが困ったように一息吐いた。
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