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「私の数えた所、撃ち込んだ魔力弾は四〇発。四丁で魔力カートリッジを全部使いきるくらいの弾数です。実は途中で空になった魔力カートリッジを交換していましたが、お気づきになられましたか?」

 将軍たちの答えを待たず、タリヴァスは説明を続ける。

「初代ラグニアの交換時間は約一〇秒。お使いの方には説明不要でしょうが、固定金具の取り外しや魔力伝達の遮断などいくつかの手間がありました。それが二秒にまで短縮されています。取り外し用の金具を操作しながら押し込むと、それで排出。胸や腰のポケットから速やかに新しいカートリッジを手に取って押し込む。それだけです。面倒な手間の一切を省きました」

 タリヴァスは岩場を一歩前に進み、サンドシャークに杖を向けた。

「これまでのラグニアは矢と魔力弾の代替でした。しかし、ラグニア二号はその先を行く。高い貫通力がもたらす非凡な殺傷能力。これがモンスターとの戦いを変えるのです!」

 少し口調を強め、タリヴァスは将軍たちに振り返り言葉を続ける。

「私は常々思っていました。攻略者たちは身を危険にさらし過ぎていると。重装兵が敵を押しとどめ、弓使いが間隙を突き、戦士が剣で戦い、魔術師がそれを支援する。戦いにおいて彼我の距離は極めて近接しており、必然、その危険性も高くなります。私自身は攻略者ではありませんが、このサイブルダンジョンの管理者であり、多くの悲劇にも立ち会ってきました。攻略者だけではない。被害を受けたのはわが社の社員も同様です。ダンジョンには命を懸ける価値がある。それは同意します。カルバ王国はダンジョンの誕生と共にその恩恵を受けて発展してきた。それも事実です。ダンジョンの価値は変わらない。しかし、その戦い方には変わるべき時が来ているのではないでしょうか?」

 ハネル将軍達に訴えかけるように、タリヴァスは強く拳を握りしめて言う。

「ラグニア二号の力をもってしても深層のモンスターには対抗できません。単純な魔力弾ですから、魔術耐性を生得しているモンスターには効き目が薄い。また単純に防御力が高くラグニア二号の貫通力をもってしても倒せないモンスターもいる。しかし、五階までなら、ラグニア二号の力は十分に通用します。カルバ王国でのダンジョン到達深度の中央値は四階と聞き及んでおります。軍の任務でも五階前後がもっとも頻度が多い。つまりそれらの攻略において、ラグニア二号は十分に力を発揮するのです!」

 将軍たちは頷きながらタリヴァスの言葉に聞き入る。そして自分の監督する部隊の攻略任務に思いを馳せた。軍の本来の目的は王国の防衛だが、ダンジョンの調査任務も同様に重要な目的だ。ダンジョンを攻略し財宝を修得し国庫の財源とする。また、貴重なマジックアイテムやモンスター資源を獲得し産業に役立てることも出来る。ダンジョン拾得物が無ければ現在の繁栄はなく、維持することも出来ない。それはカルバ王国に限らず、どの国も同じことだ。

 その攻略の過程で兵士たちは時に命を落とす。モンスターとの戦いで傷を負い、食われ、死霊に取り憑かれることもある。死体が残れば蘇生は可能だがそれはダンジョン内に限られ、激しい戦闘の中では繊細な蘇生魔術を実行できないことも少なくない。

 攻略者や兵士にとって武勲を立てる事は誉れだが、英雄の足元には無数の死体が転がっている。地上での安寧の裏には、攻略者たちの犠牲が常に存在しているのだ。

「私は攻略者の犠牲をこの世から無くしたい……そう考えています。人が豊かに生きる事は、もはや当然の権利だ。その為にダンジョンがある。その恩恵を得るための犠牲は、もはやあってはならない。麦を刈るのに命をかけますか? 井戸から水を汲み上げるのに死を覚悟しますか? しませんよね? それと同じことです。我々は長い年月の間に、ダンジョンでの犠牲を必要悪だと考えてしまっている。それを受け入れてしまっている。それを変えたい、変えなければならない! ダンジョンを安全に攻略し、一人の犠牲も出さない。それはけして高望みなことではありません」

 タリヴァスはダンジョンの奥の方を指し示しながら言った。

「ダンジョンは広い。そして深い。ですがどうですか? 今の私達は何も失っていない。もしいつもと同じように任務で来ていたならどうですか? 前衛の代わりにラグニア二号を持った兵士が前に立ち、道を切り開く。ここまでは無傷です。サンドシャークの生息する砂漠地帯は敬遠されがちですが、今なら進むことが出来ます。そしてこの先も、きっといつもよりも安全に進んでいけるでしょう。五階まで進んで余裕があれば、さらに六階を攻める事が出来る。より多くの拾得物を手に入れられる。これが、新しい世界なんです。わが社が提供したいものなんですよ!」

 タリヴァスの言葉に異を唱える者はいなかった。代わりに、ハネル将軍は拍手で答えた。革張りの手の平が硬い音を立てる。それを聞いて周りの将軍たち、付き添いの者達も拍手する。それにタリヴァスは満足げな笑みで答えた。

「ご賛同いただけたようで何よりです。普段からダンジョンの最前線に挑んでいる皆さん方にご理解いただき、私も嬉しい限りです。ここまでご説明にお付き合いいただきまことにありがとうございます。さて……」

 タリヴァスは下で待機していた四人の警備員に手で合図を送る。警備隊長が手を振り返し、そして四人は岩場を登ってくる。

「ラグニア二号の魔力カートリッジはまだ残っておりますが、本日の説明はここで終了させていただきます。地上に戻りしばし少しご休憩ください。軽食もご用意しておりますし、ラグニア二号を試射できるよう用意しております。ご希望される方は是非実際にお使いになってください。購入を希望される方は、本社に移動してから改めて製品のご説明をさせていただきます」

 四人の警備員がタリヴァスの下に戻り、タリヴァスは頷く。

「では行きましょう。来た道を戻ります。化けきのこがまた出てくるかもしれませんのでご注意を」

「あのモンスターはどうするのかね?」

 ハネル将軍がサンドシャークに視線を向けながら尋ねる。あれだけの大型モンスターだ。皮や骨、それに牙も資源になる。肉も食用や肥料に使えるし、その量も多い。体内に魔力が結晶化した宝石をため込んでいる可能性も高い。放っておけないのは攻略者の性だった。

「ああ、ご心配なく。ダンジョンの恵みを無駄にするようなことはしません。後で別の担当者が来て回収します。先ほどのゴブリンは残念ながらさほど価値はありませんが、サンドシャークは希少モンスターですからね。弊社としても久しぶりの戦果ですから、嬉しく思っております」

「そうか、それはいい。あれだけの大型モンスター、生きているのを見るのは久しぶりだった。ラグニア二号……実に大したものだ」

 警備隊長達の持つラグニア二号を見ながらハネル将軍が羨ましそうに言った。

「それはありがとうございます。将軍にそう言っていただけるなら、作った甲斐があるというものです。上に戻って早速実物を試してみてください」

「そうさせてもらおう」

 警備隊長が先行し、集団は来た道を戻っていく。タリヴァスは義足の滑らかな動きを感じながら、今日の成功を確信した。

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