記録6:グンマー・グンマー
前橋ICで高速道路を降りて僕達は一旦県庁に向かった。
爆撃の被害から復興した県庁は、真新しい建物で、人々も、心做しか元気に見えた。
バイクを駐車場に止めて、県庁の自動ドアを通り抜けると、依頼人の県職員が出迎えてくれた。
話によると、ここ最近、中国製武器の密輸が多発していて、近衛隊でも処理しきれず、いくつかは他のところまで流れているそうだ。そして、その武器は現在ハルが当たっている任務で敵が使ってくる武器と一致するという。
そこに繋がりがあるのは裏も取れているそうで、この事件を解決すれば、大阪でのテロ攻撃も幾分かはマシになるだろう。
しかし、これは近衛隊と警察が一緒になって解決しようとしているので、僕達には別の依頼があるのだそうだ。重要なことを言わなかった三十路を恨みながら、話を聞いた。
前回の武器輸送当日に、変死体が見つかったのだ。解剖の結果、死因は毒死とされた。しかし、周辺住民の話によると、その人はコンビニで買ったものをその場で飲み食いするような路上生活者であり、外傷一つもないため、外部から毒を入れられた可能性は低い。
さらに、被害者が立ち寄るコンビニエンスストアで買い物した他の客は、一切被害にあっていない。となると、コンビニ内での毒の注入も難しいのだ。
レジ打ちの店員が入れようものならすぐに気づくだろう。
ちなみに、使われた毒の種類はノビチョクで一般人が入手して自殺に使えるような代物ではない。となれば、武器を輸送した人達が犯人だろう。
『もしも見つかったらこれを使え』
とでも言われて渡されたのだろう。なら、わざわざ探偵を使う必要もないのではと思いたかったが、最大の理由は別にあった。
武器輸送の犯人は捕まえたには捕まえたのだが、なんとその全員が自分が殺したと言ったのだ。
これには百戦錬磨の警察官たちも困惑。嘘発見装置まで出てくるというような混乱具合だった。
実際、全員がそこを通ったので、できなくもない。となれば、一番最初に通ったやつがやったと思えるが、他の人間がそれをかばっているようにも見えなかったという。全員が詳細に殺人の方法を語れるのもおかしな点の一つだ。
同仕様もなくなったので、僕を呼んだらしい。
「僕の出番ですね。分かりました。やりましょう」
明日から僕が参戦するのだが、少し楽しみになってきた。さて、どんな人達だろうか...
◆
「じゃあ、まずは名前を」
「出海 馬菜々(ばなな)...」
二十代前半の面倒くさそうな女性、髪は金髪で長め、身長は低い。見た所訓練された様子もないので、闇バイトの類いかもしれない。
僕は質問を数問して、全てをメモして次の人に行った。
「じゃ、名前を言ってくれ」
「赤井 岐礼次(きれじ)です。ごめんなさい...ごめんなさい...」
十代後半の内気でか弱そうな男子。髪は黒く整えられている。経歴からして、優等生らしいが、数年前、親が会社を追われて貧乏になったらしい。
今の情勢じゃ、よくあることだ。特に何も思わないが、少年から、可哀想と思ってくれという視線が一切感じられない。こういう事を繰り返しているのだろう。
僕は数問質問をしてから次の人を呼んだ。
「名前は?」
「腰振 振胴(ぶどう)だ」
見た所、ガタイの良い色黒の金髪男。それ以外の特徴はない。
案の定、過去に性犯罪歴があった。それも何件も。そのたびに脱獄を繰り返しているようだ。
僕は鼻で笑って質問内容をメモした。
これで全員だ。
僕は取調室から出て、一旦捜査にあたっている刑事さんたちを集めた。
全員集合したのを確認して、僕はバレないようにとある装置を起動した。
「この中に、犯人がいます」
全員がざわめいた。お互いに顔を見合わせるもの、そんな訳無いというもの、全員を何とか諌めようとするもの。僕は全員が黙るのを待って、口を開いた。
「先ほど、容疑者三名の口から、とある警察官の名前が出てきました。所に寄ると、その警官は家族持ちで、実家ぐらし、妻をも持っており、子どもも居る。群馬県内に両親も住んでいて、現在、近衛隊が向かっています。まあ、犯人が見つかるまで、ご両親は拘束されたままでしょうが...スパイなら関係ありませんよね?」
不意に、ポケット内が振動した。装置に反応あり、という事だ。スマホの形状をした装置を取り出し、僕の肩に取り付けられた極小カメラの映像をみた。
体温、心拍、呼吸の速さ。全てがグラフ化されている。
その中で、たった一つ他の人と少し違う感情を抱いているものがいた。
「そうですね、犯人は分かっているのですが...」
僕の言葉に、その男の心拍が少し早くなる。他の警官も、多少早くなったものの、そいつだけは段違いだ。
僕は彼を指さして言った。
「犯人(スパイ)は、あなたですね」
僕の言葉に、その男はとっさに否定の言葉を並べた。他の警官も、彼がそんな事をするわけがないと言ってかばっていたが、じきに男が冷静さを失い始めた所で、周りの警察官も疑い始めた。
すると、男が苦しみ出したかと思えば、すぐに大量の血液をはいて地面に倒れ込み、動かなくなった。
今回もビンゴだ。またスパイを一人排除できた。
他の警官が応援を呼んでいるうちに、僕は手袋をはめて男のスマホと身分証、それから個人情報の乗った諸々の物品を回収した。
これは、のちの捜査で分かったことなのだが、結局あの男がスパイで間違いなかったらしい。
県職員に、トリックをどうやって暴いたのかと聞かれたので、僕は笑って言った。
「最初っから警察官が犯人なことくらい分かっていましたよ。容疑者の取り調べなんて、単なる偽装ですよ。誰があの浮浪者を殺したかなんて、僕達、近衛隊にとっちゃどうでもいいことなんです。だから、あの場にいた警察官全員に当てはまることを適当に言って、変に心拍数が動いたやつに言いがかりをつけるつもりだったんですが、その前に向こう側に盗聴されていましたね」
県職員が驚いて口を開いているのを横目に、これから、僕達は大台ヶ原に向かうための輸送機に乗り込むため、習志野駐屯地に向うのだ。
ちなみに、なぜあの男がスパイなのかは、結構簡単にわかるのだ。
あの容疑者たち三人、実は暗号を送っていたのだ。恐らく、武器の場所を伝えるための暗号で、取調室の机を、バレないように何度か叩く素振りを見せていた。それが合図だったのだろう。全員に暗号を送っていて、僕にも送っていた。まあ、一人に送るより、そっちのほうが堅実だろうな。
これも近衛隊の尋問で分かったことなのだが、スパイに暗号を伝えることに成功すれば、警察内部の他のスパイが上手く逃がしてくれると約束してくれていたのだそう。
まあ、結果的に全員、外患誘致罪で即刻処刑したわけなんだが...まあ、悪は身を滅ぼすな。
僕が仕事をしている間に、ムルは他の任務を与えられていたようで、ホテルで合流したときには血まみれだった。あの時は普通に声を出して驚いたものだ。
報酬を口座に送った後、僕達はバイクに乗って習志野駐屯地に向かった。
❖
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『EMP RPG』
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