第1話

スーパーの2階にあるやや大きめの100均へ向かう。


ぐるりと一回りしていると、2、3歳ごろだろうか。

子どもがイヤイヤ言いながら寝そべっていた。

手にはしっかりと酢昆布が握られている。


チョイスがなかなか渋い子どもだな。

ふとほほえましい気持ちになって、同時に同じく年のわりに渋い趣味をしていた子ども時代を思い出した。


わたしはベージュやからし色のような茶系の落ち着いた色や黒なんかが好きな子供だった。

幼稚園時代のクレヨンもそれらが段違いに減るくらいの筋金入りだ。


それは小学生になっても変わらず。

その類いの色を好み、ランドセル選びにも服選びにもすべて反映されていた。


一番の憧れは漫画で見かけた茶色のランドセルだったが、完全に漫画の中の出来事のようで見かけたことはなかったし、当時、基本的に男の子は黒、女の子は赤で、良くてピンクが選択肢に入るかなという時代。

黒を希望したかったが、反対されるのが目に見えていたのでピンクを希望するも、悪目立ちするからと却下され、せめてもの足掻きにと好きだったキャラクターものの赤いランドセルに決まった。

そういう成り行きもあるせいか、よく覚えているエピソードだ。


それから、小学校高学年ぐらいのころにはからし色のツーピースを欲しがり、やはり親の反対を受けて買えなかったこともあった。

そのときの親の言い分はとにかく、そんな色の服は似合わないの一点張り。

成人のときも、黒い古典柄の着物を選ぶと、そんなものを敢えて今着る必要はないだろうと言われ、断念せざるを得なかった。


そんなことを思い出しつつ、それとなく見ていると、お母さんと思しき壮年の女性がしゃがんでぐっと両手を掴み、まっすぐと子どもを見て静かに語りかける。

すると、子供はわれに返ったのか泣きやみ、お母さんは酢昆布を握ったままの子の手を引き、レジのほうへと向かっていった。


「ひとつだけって約束だよ、それ以上は買わないからね」


聞くともなしに見ていると、そんな言葉が聞こえてきた。


際限なく欲しいものを欲しいままに買っていたらどうなるか、大人になればいずれ分かることだ。

わたしのあの一件だってそういう理由だったならば納得もいっただろう。

少なくとも恨み言が出るのは子どものうちだけで済んだはずだ。

しかし、客観的な根拠もエビデンスもなく、ただ頭ごなしに否定されて納得なんて到底できないし、恨めば恨むほどこの気持ちは膨らむ一方なんだろう。


そんなことを考えながら、お目当ての品を探して店員さんに声を掛ける。

すると、残念ながら廃番になってしまって店舗にはないことが分かった。


「仕方ない、別の店をあたるか……」


独り言ちると、わたしは近所にあるもう一つの100均へ向かうことにした。

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