国文学の先生

10時半から始まる2限目の授業が終わる


20分ほど前に、1番後ろのドアからそーっ


と古い講義室に忍びこむ。


 遠くに見える、高い教壇の上には老眼鏡を


掛けた白髪のいかにも気難しそうな国文学の


教授が「万葉集」の中の詩歌を黒板に丁寧に


写していた。


このくらいの年輩の教授は、1969年の


大学紛争を体験しているため、大きな物音が


すると思わず身構える習性がある。


クラブの先輩に聞いた話だけど、この前の


冬、広い講義室に石油ストーブを入れようと


大学職員がガタガタガタと大き


な音を立てて運び入れようとしたら。


「うぎゃ―――」


って凄い声出して。


 背中を黒板に当てて脅えきってたって。


後で、その教授。恥ずかしそうな顔で、


「いや――。僕達の世代は、大学紛争のトラ


ウマが未だに消えないんですよね」


だって。


 このくらいの年輩の教授、みんなちょっと


おっとりとしてて、単位も厳しくないし。


 ちょっとおっちょこちょいで。


 みどりは個人的に好きだな。

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