楽しい会話

 みどりと裕次の周りが、ぱっと雲が引くよ


うに明るくなっていくのが分かって。


裕次は特に目立つといったタイプじゃない


けれど、広沃な大地のような大らかさと素朴


さ。そして五月の太陽の日溜まりのように、


みどりをそっと包み込む大きな人間としての


器を感じる。


 裕次と一緒にいると安心する。


 ずっといつでも一緒にいたくなる人だ。


「そろそろ授業、行こっか」


「え――っと」


裕次が日に灼けた太い左腕のダイバーズ・


ウオッチに目をやる。


「うわっ、もうこんな時間」


「勉強もしっかりと頑張らないと」


「お前に言われたくないけどな」


「あ~! みどり1年の後期のフランス語、


 5だったんぞ」


「ノート、貸して下さい」


 裕次が、声のトーンを落として。遠慮がち


に大きなごつごつした手を差し出す。


「はいっ」


カバンからこの間の授業分のルーズリーフ


を数枚抜き出して、すっと裕次の前に差し出


す。


「ありがたく、頂いておきます」


「速く写すこと」

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