第2話

万馬券当てたんや!何でもおごったるで。」

 人生何がやでやでかわからない。おじさん、やったな。

 次の仕事の休みの日に、少しおめかしをして、なんば駅でおじさんと会った。

「まずな、おねえちゃんに貸してもらった電車代580円な。先に返すで。ほんと助かったありがとうやで。」

 おじさんの、黒くささくれだった不器用そうな手で100円玉5枚と10円玉8枚を、1枚1枚手渡した。

「そら、全部返した。借りたものを全部返すとほんと気持ちいい。おねえちゃん、おじさんはお金持ちになった。何か欲しいものはあるか。」

 ふと足元を見た。擦り切れたパンプス。古い財布。壊れかけの腕時計。

「おじさん、百貨店に行きましょう。」

 おじさんの手を取って歩き出す。

 まず、2階の婦人靴売り場で、黒のエナメルの少しヒールのある金の飾りがついた靴を買った。

 それから、ピンクの長財布を買ってもらった。ずっと欲しかったものだ。エスカレーターに、乗って階を移動して、腕時計も買ってもらった。腕に付けたらぴったりだった。

「おじさん、ほんとありがとうな。切符代貸してあげてほんとうによかった。万馬券当てるような強運の人についていきたい。」

 思いきって言ってみた。

 おじさんは、空を見上げてから、わたしに目を落とし、

「ついてくるか。」

 と、少し控え目だが力強く聞いた。

「ついていきます。」

 返事は案外あっさり出た。

 困った人は助けるものだ。

 人生何が起こるか神のみぞ知る。


おわり  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おじさんの恩返し @busukou-ai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る