01:相続は突然に

 私は非常に面白くない気分で、座り心地のいい椅子に座っていた。


 机を挟んだ目の前には、仕事が出来る雰囲気を漂わせた弁護士が座って私を眼鏡越しに見つめている。

「今日はわざわざご足労願い申し訳ありません、間宮まみや様」

「はあ。いえお気になさらずに」

 大人なので、とりあえずそう言っておく。本当は面倒で仕方が無いが、私に弁護士からの面会依頼を断る選択肢は無い。実に面白くない。


 弁護士は手元のファイルに目を落とした。

「細かい説明は後回しにしましょう。間宮菜月まみやなつき様、亡くなったお父上、間宮勇まみやいさむ様の遺言であなたが遺産を相続されることとなりました」

「お断りします。不要です。いりません」

 私は即答してから、思わず大きく息を吐いた。

「失礼しました。言い直します。遺産相続を拒否します」

 広くて明るい弁護士事務所はしばらく無音になった。

「まず遺産の内容を知ってから決断される事をお勧めします」

 弁護士の冷静な言葉に私はいらっとした。


「どうせ、ろくでもないコレクションや潰れかけたような倉庫でしょう。あの道楽者の父が立派な物を遺してくれたとはとても思えませんからね」

「まず、現金で1500万円あります」


 私はしばらく黙り、脳内に金額が染みこんでから返事をした。

「現金? 現金ですか?」

「1500万円です。この金額ならば相続税は発生しませんが、詳細は別件という事で。次に不動産があります」


 思わず身を乗り出してしまう自分が情けないが、仕方が無い。

 現在無職の私には非常に魅力的な話なのだ。頭の隅で、お礼に墓参りに行ってもいいかなと考えている私であったが、弁護士は少しばかり妙な表情を浮かべていた。

「不動産ですが、まず、土地と住宅があります」

 土地と家も! 手続きは面倒だろうけどいいじゃん! と浮かれた私は弁護士に打って変わって愛想よく話しかけた。

「他にまだ何かあるんですか? やっぱり潰れかけのボロ倉庫でしょう」


「……ダンジョンです」


 ――何かの聞き間違いだろうか。


「はい? 今なんと仰いましたか? 壇上ですか?」

 しかし弁護士は、開き直ったようにきっぱりと断言した。


「ダンジョンです。お父上が父親の間宮巌まみやいわお氏から相続したダンジョンを、唯一の血縁者であるあなた様に引き継がせると遺言されています」

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積ん読ダンジョン! 高橋志歩 @sasacat11

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