第25話 別れ

「うぎゃあああああああ」


 股間に剣が刺さったままのたうち回るグレン。

呆気に取られている、勇者パーティー。


「ソフィー!」


 シンは力の限り叫ぶ。

それに呼応したように、ソフィーは立ち上がり、衛の腰から剣を引き抜き、そのまま盾を持った左腕に一閃。断ち切った。


「ぐあああああ」


 後ろに倒れる衛。

ソフィーはそのまま隣の京太郎に袈裟斬りをしたが、ギリギリ結界魔法が間に合う。

しかし、練度の低い結界魔法のため、ソフィーの斬撃を耐えることはできず、結界ごと切られる。


(切れたけど、浅い。でも、今はいい。あとは勇者)


 それを見たシンは、隠れようと、森に向かって走った。


 ソフィーは、蓮の姿を探すがいなかった。


 まさかと思い、シンの方を見ると、シンに向かっている蓮を発見。

ソフィーが全力で追いかけた。


 シンがあともう少しで森に入るところで、シンの横に蓮が現れた。


「逃がさないよ。 死ね」


 蓮が渾身の力を込めて、剣を振り下ろしてきた。

 

 もう逃げられない。

シンが目を瞑った。

それと同時に何かに抱きつかれてそのまま倒れた。


 シンが目を開けると、ソフィーの顔があった。


「ソフィー?」

「シ、ン、無事、で、良かった」

「だいじょうぶ? ソフィ?」


 ソフィーの背中に回した手がぬるっとしたものに触れた。

手を見てみると、手のひらが血で真っ赤になっていた。

ソフィーはシンを庇って背中をバッサリと切られていた。


「ソフィー! たいへんだ。いまなおすね」

「シン、私は、いいから、逃げて」

「ダメだよ。すぐになおすから」


 シンは、ソフィーが乗ったままの体勢でソフィーの背中に手を当てて、治癒魔法を使った。


『なおれ』


 ソフィーの傷が少しずつ治っていくが、傷が深すぎる。簡単には治るようには見えない。

 

 そこに蓮が近づいてくる。


「治癒もさせないし、逃しもしないよ。君たちはここで死ぬんだ」


 蓮が剣を逆手にして両手で持って、剣を下に向ける。


「2人仲良く、串刺しにしてあげるよ」


 蓮が勢いをつけようと、剣を上に持ち上げたその時、ソフィーがバネのように跳ね起きて、剣を蓮の喉に向かって下から突き上げた。

蓮は咄嗟に頭を引くことで喉への直撃を交わしたが、剣は右の顎から右目を含め頭まで切り裂いた。


「痛いー。僕の目がー!」


 蓮は痛みで無茶苦茶に剣を振るったが、それを避ける力が残っていなかったソフィーは、腹を深々と切られて、そのまま後ろに倒れた。


 「ソフィー!」


 シンが慌てて、治癒魔法をかけようとする。


 それをソフィーが力のない手で止めさせる。


「なんで? ソフィー。なおさないと」

「シン、聞、いて。私はもう助からないの。死んじゃうのよ」

「いやだ。ソフィーがしぬなんていやだよぉ」

「シンはここから逃げて欲しいの」

「ぼくとずっといっしょにいてくれるっていったじゃない」

「ごめんね」

「ごはんをつくってくれるっていったでしょ」

「ごめんね。もう作れないの」

「おべんきょうおしえてくれるっていったでしょ。つよくしてくれるっていったよ」

「ごめんね、シン。もうおしえられないの」

「やだ、やだ、やだ。ソフィーしんじゃやだ」


 ソフィーは優しい顔でシンに話しかける。


「聞いて、シン。ネイマル王国はあなたを殺そうとするわ。

だから、とにかく逃げて欲しいの

あの山は見える?」


 シンが泣きながら答える。


「うん、みえる」

「あの山の下には大きな森があってね。そこの周りを道があるの。その道を右の方に進んでいけば、サンタン王国まで行けるわ。そこのクリラドという街に孤児院があるの。そこの院長先生はとてもいい人だから、大人になるまで、お世話になって。ソフィーって名前を出せばわかるはずよ」

「ソフィー……」

「そんな、顔、しないで。笑った、顔が、見たいわ。」

 

 ソフィーは苦しげな息遣いで、しかし、シンを安心させるように笑顔で話しかけてくる。

シンはソフィーがもう死ぬという事を悟った。

シンは涙を腕で拭って、無理やり笑顔を作る。

しかし、涙は止まらないで、次から次へと溢れてくる。


「シ、ン、とても、可愛、いわ。キス、してくれる?」


 シンはソフィーのおでこにキスをした。血の味がした。


「あ、りが、とう。うれ、しいわ」


 ソフィーが、シンの頬に手を触れてきた。

その手をシンが手で上から重ねて支える。


「ソフィー、ありがとうね。だいすきだよ」

「わた、しも、好き、よ。あ、い、して、る、わ、シン。さ、よう、な、ら」


 ソフィーは目を閉じ、シンの頬に触れていた手は力が抜けて、落ちた。

シンの顔には血の跡がついた。


 シンは、ソフィーが死んだということを理解した。

深い深い悲しみに襲われた。


「ソフィーーーーーーーーーーー」


 ソフィーに縋り付いてわんわん泣いた。

いくら泣いても涙は枯れない。

ソフィーの優しい顔が頭に浮かぶたびに悲しみに襲われた。

もう、2度とソフィーと話せないことが悲しかった。

悔しかった。

ソフィーが苦しんでいたのが辛かった。

助けてあげたかった。

でも、助けられなかった。

幼いシンには思いを言葉にすることもできずにただ泣いた。

ソフィーの体温が失われていく感じが怖かった。

ソフィーから離れる気は全く起きなかった。

ソフィーとこのまま一緒にここにいようと思った。


 しかし、それを許さない外道がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る