第24話 人質

 衛が盾を構えて突っ込んでくる。

それをソフィーは左右にかわしながら、腕を切りに行く。

そこに蓮の斬撃が襲いかかってくる。

避けたところに、火魔法のファイアボールが飛んでくる。


 その状況がしばらく続いていた。


「どうしたどうした! 避けてるだけじゃあ、誰かにやられるぞ」


 衛が嗜虐的に笑う。


「これで、聖騎士だって言うんだから笑ってしまうわね」

「何を!」

「聖騎士なら、おとなしく聖女様を守っていなさい」

「あの女は俺の言うことを聞きやがらねえから、いらねえんだよ」

「言うことを聞かないんじゃなくて、相手にされてないんじゃないの?」

「テメェ」


 蓮が斬撃を浴びせてくる。


「君はそろそろ疲れてきたみたいだね。もう、かわすので精一杯じゃないか。

どうせなら、勇者の僕に切られてくれないか?

君みたいなのを切ってこそ、経験になるからね」

「あなたが勇者なんて、世の中終わってるわね」

「どう言う意味かな?」

「勇者らしい品性も知性も欠片もないって言ってるの」

「言ってくれるじゃないか。避けるだけしか能がないくせに。

じゃあ、望み通り君の人生を終わらせてあげるよ」


 ファイアーボールが飛んでくるがソフィーにかすりもしない。


「ああ、惜しい」

「全然惜しくないわ。全く明後日の方角に撃ってるわよ。

これだったら、分隊長どころか一兵卒でも荷が重いわね」

「ふ、ふ、ふざけんなー」


(3人の動きが怒りで、荒っぽく雑になってきたわ。

そろそろいいところね)


 今まで単調に同じ動きをしていた、ソフィーが衛の剣を受け流したところで、突然動きを変えて、京太郎の方に走り出した。


 京太郎は、ジグザグに走るソフィーに魔法の狙いをつけられない。

ソフィーが京太郎に肉薄した。


 ソフィーの剣が京太郎を切り裂くかに見えた瞬間、蓮が現れた。


「おっと、僕もスピードには自信があるんでね」


 蓮が、ソフィーの首筋に向け剣を振り下ろすが、ソフィーの剣は京太郎を狙っていたために戻らない。

蓮は勝利を確信した時、顔の側面を踵で蹴り抜かれた。


「がっ!」


 蓮が、宙を舞い前方の立木にぶつかる。


 ソフィーが前転宙返りをして、剣を避けつつ蓮にかかと蹴りを喰らわせたのだ。


 ソフィーは素早く立ち上がり、京太郎の杖を持っている右手首を切る。


「うぎゃー」


 京太郎は血飛沫を撒き散らしながら、のたうち回る。


 ソフィーはすぐに振り返って、衛に走って行く。


「チクショー」


 衛が盾を前に出して突っ込んでくる。


 しかし、そんな見え見えの攻撃はソフィーには通じない。

ソフィーは深く屈んで、踏み込むと衛の左足首を切る。

が、切断には至らなかった。


(浅かった。)

「グオー、いてー」


 倒れた衛に、素早く近寄って、剣を振り上げる。


(とどめ)


 ソフィーが剣を振り下ろそうとしたその時だった。


「このガキがどうなってもいいのかぁ!」


 ソフィーの動きがぴたりと止まる。

振り返ると、シンの首に剣を突き立てようとしているグレンがいた。


「シン!」

「ソフィー!」


 シンの悲痛の声がこだまする。

その声を聞くだけで、ソフィーは胸が張り裂けそうだった。


「動くんじゃねえぞ。動いたら、こうだ」


 グレンがシンの右腕を切り裂く。

シンが悲鳴を上げる。

右腕からは鮮血が飛び散る。


「うわああ」

「貴様ぁー」


 ソフィーはグレンに怒鳴るも効果はない。

 ソフィーは怒りでどうにかなりそうなくらい頭に血が上った。


「動くんじゃあねえぞ。ソフィー。聖騎士マモルに魔法士京太郎よ。傷口にポーションをかけろ。止血はできる」


 衛と京太郎が痛みに耐えながら、傷口にポーションをかける。


 傷口が塞がった衛が声を荒げる。


「よくもやりやがったなぁ」


 ガン!


 ソフィーの顔面を縦で殴る。


 ソフィーは殴られた勢いで、地面に叩きつけられる。


「ソフィー」

「わ、私は大丈夫! シン。心配しないで」

「君はあんなガキのことを気にしている余裕があるのかな?」


 いつの間にか戻ってきている蓮がソフィーの腹を蹴り上げる。


 ボコ!


「ガハッ。ゲホ、ゲホ」


「お前、僕の右手どうしてくれるんだよぉぉぉ」


 京太郎がソフィーの腹に杖を突き立てた。


「きゃあああ」

「ソフィー」


 シンがボロボロ泣いている。

それを見てソフィーは心を痛めた。


(シンを泣かせてしまっている。なんとかしないと)


 ソフィーが3人に袋叩きにされる。

ただ蹴るだけでも3級勇者と4級聖騎士の力だ。

並の人間ならとっくに死んでいる。


「やめてぇー。やめてよぉ、ソフィーをたすけてよぉ。なんでもゆうこときくから、ソフィーだけはたすけてよー」


 シンがグレンに縋り付く。

グレンが下品に笑う


「ぐわっはっはっは。勇者様、無能がこんなこと言ってますけどどうしますか?」

「そうだなぁ、どうしよっかなぁ。なあ、衛」

「……シン、だめ」

「クソガキが死ぬとこを早いとこ見たいんだけどなぁ」

「僕も早く見たいねぇ。じゃないと僕の右手が可哀想だよ」

「そうだね」


 蓮は小剣を抜くと、シンの足元に投げた。


「シン。君自分で死になよ。首を切ってね。そうしたら、ソフィーは助けてあげるよ」

「シン、聞いちゃダメ」

「ソフィー……。わかった。やくそくだよ」


 シンは力強く蓮を見る。


「ああ、約束は守るよ。だから、面白く死んでね」


 シンは鞘から剣を抜く。

4人がニタニタしながら見ている。

ソフィーが青い顔をしながら、シンに思いとどまるよう説得する。


「シン、お願いだから私のために死ぬなんて言わないで」

「ソフィー、こうしないと」


 ソフィーの目から涙が溢れ出してくる。

それを見て、シンは悲しくなる。


(ソフィーごめんね)


 シンは右手が斬られて使えないので、左手で剣を首に当てる。

幼児とはいえ、強くなったシンの力があればこれで十分に切ることができる。


 勇者パーティーは囃し立てる。


「「「はっやく死ね。はっやく死ね。はっやく死ね」」」


 ソフィーが悲痛の表情でシンを見ている


 シンは最後の別れの言葉を言う。


「さようなら……」


 勇者パーティーは今か今かと見つめる。

シンの後ろにいたグレンはニタリと笑った。


「……グレン」


 シンは幼児とは思えないスピードで、右回りに回転しながら、グレンの股間に向かって剣を突き出した。

剣は股間に深々と突き立った。




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