第23話 勇者パーティー

 グレンの剣は地面を割ったが、ソフィーはグレンの剣を右側に避けながら、右から迫る騎士の剣を受け流し、騎士の首を切り裂いた。


「8人」


 この時点でソフィーは逃げに徹すれば、逃げおおせたはずだった。

しかし、ソフィーは考えてしまった。


(私が逃げたら、こいつらが陛下にエクレール様が裏切ったことを告げてしまうのではないだろうか?)


 今まではシンの身を守るだけに専念していたので、ここから逃げるのが、ゴールだった。

しかし、エクレールのことも考えるようになって、目標は変わってしまった。


(勇者を含めて、こいつらを全滅させないと。まずは……)


 森の茂みに向けて、ジグザグに走った。


 ヒュッと風切り音と共に矢が飛んでくるが、集中しているソフィーに当たるものではなかった。

一気に茂みの弓士に迫って、一撃の元に切り伏せてしまった。


「9人」


 そして、その場に身をおろす。


「シン、ここで隠れていてね。」

「ソフィー」

「大丈夫。私は強いから」

「うん。しなないでね」

「シン。大丈夫、死なないから。約束するね。終わったら、ずっと一緒にいようね。大好きよ」

「僕も大好きだよ」


 ソフィーはシンのおでこにキスをした。

そしてもう一度抱きしめてから、ソフィーは振り向いた。


(必ずあいつらを倒す。そして、シンと一緒に生きる)


 一歩一歩戻っていくと、グレンが驚いたような顔をしていた。


「まさか逃げないとはなあ、ソフィー」

「あなたたちを皆殺しにする必要があるからね」

「舐めやがって、素直に逃げりゃ、もう少し生きながらえたのになぁ。

まあいい、お前あのガキにご執心のようだなぁ。

まずはお前の手足を切り落としてから、あのガキをいたぶり殺してやる。

お前はなすすべもなく眺めているんだ。

これだけ被害を出してくれたんだからいいよなぁ」

「下劣な男。今日この場で死ぬのは世の中のためね」

「テメェ」


 グレンが正面から、騎士が左側から切り掛かってきた。

ソフィーが左に動く。


「その動きはもう見てんだよぉ」


 グレンは剣の軌道を途中で変え、横なぎにしてくる。

しかし、すでにそこにソフィーはいなかった。


 ソフィーは避けた瞬間、左手に持っていた小剣を左側の騎士の剣に当て、右手の剣で胸を貫き、その剣を支点にして体を上に回転させて、騎士の後ろに飛んでいた。その時に剣もしっかり抜いている。


「10人」


「テメェ」

「あなたはテメェしか言えないの? もう、騎士は全滅したわよ」

「テメ」


 グレンは口をつぐむ。血が頭にのぼってしまっては、戦えない。


「あら、冷静になったのね。でも、もうあなたは死ぬのよ。シンに手を出そうとしたのだから」

「確かにお前は強いが、こちらにはまだ勇者様方もいるんだぞ。勝てると思っているのか」

「心配しないで、私は死なないわ。約束したもの」

(ねっ、シン)

「大した自信だよ。こちらの仲間にならないか? お前なら大歓迎だ。オリオ様もお前を重用してくれるだろうよ」

「私、心根が顔に現れたようなブ男は嫌いなの。反吐が出るわ」

「そうかよ。交渉決裂だ……な」


 グレンが、言い終わる前に剣を振ってきた。

しかし、大剣はスピードに乗れば速いが、初速の段階では通常の剣に比べて遅いため軌道を読みやすい。

振り下ろす途中で軌道を変えるような先ほどの場合には、最初から全力では振らないから余計に遅い。

わずかな差だが、ソフィーほどの腕なら、容易に何がくるか読めてしまう。


 グレンの振り下ろしを左に避け、次に横なぎに来た剣をその軌道方向に移動することで避ける。

そのままグレンの後ろに回り込み、右肩を切り裂いた。


「ぐわあああ」


 グレンはたまらず大剣を落とした。


「終わりよ」


 ソフィーが剣を振り上げる。

グレンは悔しそうな顔で見上げている。

ソフィーは冷酷に剣を振り下ろし、グレンの頭を割ったかと思った瞬間、間に盾が入った。


 ガァーン


 と、音が響いた。


 盾の持ち主が、口を開いた。


「おっと、このおっさんには生きていて貰わないと、オリオ様に口利きしてもらえないんでね」

「聖騎士マモル」

「さあ、約束だぜ。ぶっ殺してから、犯してやるぜ」

「下劣ね。聖女様やシンと同じ世界から来たとは全く思えないんだけど」

「クソ女ぁ、俺を見下しやがったな」

「あなたなんかに騎士爵さえも勿体無いわ」

「ぶっ殺す」


 衛が片手剣を振り下ろしてきた。

それを左に避けるソフィー。

それを追いかけるように、横なぎにする衛。

一歩下がることで避けるソフィー。


(速いけど、それだけ。素人の剣ね。元々短期間ではあったけど訓練を真面目にしたようには思えないわ。

これなら、全員殺してしまえるわね)


 ソフィーは、衛の右腕に向かって剣を振り下ろす。

その瞬間、ソフィーに斬撃が襲いかかる。

間一髪転がることで避けた。


 蓮が切り掛かってきたのだ。


「僕のことを忘れてもらっては困るな」

「勇者レン」

(今のは危なかったわ。さすが3級勇者だけあって、剣速が尋常じゃないわ。でも、来るってわかっていれば、対応できるはず)

 

 探るように蓮を見ているソフィーに火の玉が襲いかかった。

これはバックステップで交わす。


 京太郎が魔法を放ったのだ。


「ああ、惜しい。もう少しで丸こげにできたのに」

「魔法士京太郎」

(勇者と聖騎士と魔法士か。パーティーとしてはバランスが取れていて、厄介ね。

やっぱり、簡単には殺せないかしら。それでも、私はシンと生きるためにもエクレール様のためにも、この者たちを切らなければ)


 戦いは終盤へと入っていった。

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