第22話 オリオ側

 引き絞られた矢がヒュンと風切り音を出して、ソフィーに向かってまっすぐ飛んでいった。


「!」


 ソフィーは、間一髪でかわし同時にシンを抱き抱える。

そして、矢が飛んできた方角を睨む。

そのソフィーの後ろから、剣を振りかぶって振り下ろしてくるものがいた。


「ソフィー」


 シンの悲鳴で、咄嗟に避けると、今いた場所に剣が刺さっていた。


「チッ、逃しちまったか」

(まずい、とにかく逃げる!)


 ソフィーが逃げようとすると、すでに包囲されていた。


(最初にグレンが集団の奥にいたのは包囲網を素早く作るためね。しくじったわ)


 こうなったら、とにかく包囲を突破して逃げるしかないが、考える時間が欲しい。

時間稼ぎを試みる。


「あなた、エクレール様を裏切ったの?」

「はっはっは、最初から、俺はオリオ様側よ。エクレール様についていたやつらはここにくる前に処分したさ」

「なっ! エクレール様がよこした部隊は15人はいたはずよ。それを簡単になんて」

「オリオ様に着いたのはなあ、俺たちだけじゃないんだよ。もう出てきてもいいですよ」


 森の奥から、3人の人影が出てきた。

その3人をみてソフィーは驚愕した。


「なっ、勇者レン殿。それに聖騎士マモル殿に魔法士キョウタロウ殿」


 グレンが得意になって話す。


「エクレール様の部隊なんて、勇者様方の手にかかれば、あっという間だったなあ」

「勇者様! なぜ、裏切ったのですか?」


 蓮は、いやらしい顔で笑う。


「エクレールは、僕が誘っても見向きもしないし生意気なんだよ。それに、美波は教皇と同程度の権力だというのに、僕は侯爵だよ。信じられないよ。でも、オリオ様は王になったら一段上の公爵を約束してくれたからねえ。そうだ、オリオ様が王になったら、エクレールを僕の妻にしようかな。そうしたら、あの生意気な顔もおとなしくなるかな」


 衛が嬉しそうに続く。


「俺なんて、騎士爵と同じだったんだぜ。信じられねえよな。オリオ様が侯爵と同程度にしてくれるって言ってたんだぜ。

一気に権力者だろ。それを聞いてエクレールについているはずがねえよな」


 今度は京太郎が話し出す。


「僕なんて分隊長なんだよ。ありえないよ。この僕が。オリオ様は子爵と同程度にしてくれるっていうんだけどね。子爵じゃ、ちょっと不満だけど、おりを見て爵位を上げてくれるっていうからね」

(エクレール様から聞いたことがある。召喚術で能力を持ったものは、攻撃性を持ったり、性格が歪んだりするものがいるって。聖女様の苛烈さもその表れだというけれど、この人たちのいやらしさはそうなのかしら)


 蓮が再び口を開く


「だからね、その子を渡してくれないか? そうしたら、君の命は助けてあげるよ。ソフィー」

「そうだ、お前は俺の妻にしてやってもいいぜ。結構好みだ」

「それを言うなら、僕の方が合うよ。きみ僕の妻にしてあげる」


 寒気がした。言葉よりも、彼らの顔の下に隠れた下劣さに。


「断る。私はシンを生涯守ると誓った身。貴様らのような下劣な人間とは相容れない」


 すると、3人の顔が怒りで歪む。

蓮が叫ぶ。


「どいつもこいつもシンシン言って、その無能のどこがいいんだ! しょうがない、君は殺してあげるよ」

「お前は綺麗に殺してやる。殺してから犯す」

「僕の魔法で消し炭になっちゃえばいいんだ」


 グレンが前に出る。


「勇者様方、どうやら交渉は決裂のようですね。

それではこれより狩を始めましょう。

なあに、小鳥1羽とネズミ1匹すぐに住むでしょう。かかれ」


 9人の騎士が一気に襲いかかってきた。

しかし、ソフィーもただ話していただけではなかった。

相手の力量を測って、どこが一番抜けやすいか調べていたのだ。


 幸い、逃げやすいのは勇者たちの反対側であった。


 ソフィーは片手でシンを抱え、勇者たちに顔を向けたまま、後ろから迫ってくる騎士のすぐ横に後ろ向きに飛んだ。


 意表をついた動きに後ろの騎士は驚いて、対応できずソフィーとすれ違ってしまう。

ソフィーはすれ違いざま、その騎士の脛を切断した。


「ぐわー」


 ソフィーは身を翻して、逃げようとしたが、そこに矢が飛んできて足が止まってしまう。


「チッ!」


 すぐ後ろに迫った騎士に後ろに振り向きざま、足を切り付ける。

片足がなくなった騎士はもんどりうって倒れる。

すぐさま右前にいる切り掛かってくる騎士の剣を弾き斜めに切り下ろし、右腕を切断する。


「3人」


 そう呟き、後ろに飛ぶ。

シンを抱えて戦うのは圧倒的に不利だ。しかし、ソフィーにはシンを下す選択肢はない。

シンは、怖いのを必死で耐えてソフィーにしがみついている。


(これが、シンを守る重み。乗り越えてみせる)


 ソフィーが大きく後ろに飛んだことによって、残り6人の騎士は一列に近い状態になっている。

一番前の騎士がおおきく振りかぶってくる。

振り下ろした剣を右に体をずらして、避ける。強さよりも速さを選んだソフィーの斬撃は騎士の両の目を切り裂く。


 仰け反った騎士が後ろから追ってきていた別の騎士にぶつかり、倒れる。


「4人」


 倒れた騎士を避けて進もうとする騎士の一瞬の隙をつき、電光石火の突きを放つ。

騎士の胸にソフィーの剣が刺さる。

ソフィーは騎士の胸に足を置き蹴り飛びながら剣を抜き、そのまま後方宙返りをする。


「5人」


 精鋭である9人の騎士たちのうち5人が倒されてしまった。

痺れを切らした、グレンが叫ぶ。


「貴様ら、何をやってるんだ! これ以上の醜態を晒すようなら、死罪にするぞ」


 4人の動きが一瞬止まる。

その隙を逃さずにソフィーは落ちた剣を拾って、1人の騎士に向けて投げる。

剣は吸い込まれるように、騎士の顔に刺さる。


「6人」


 残り3人になった騎士たちは恐慌をきたした。

グレンとソフィーを交互に見て集中を欠いているものを確認すると、一瞬で迫って左足を切断する。


「7人」


 そのままもう1人の騎士に迫ろうとした時、森から矢が飛んできた。

後ろに大きく飛ぶことで避ける。


(やはり、森の中の弓士をなんとかしないといけないけど……)


 残りの騎士2人は信じられないような顔をしている。


 そこにグレンが出てくる。


「貴様ら、左右に回れ」


 グレンが、正面に来て騎士2人がソフィーの左右に立つ。


(この男、生半可な相手ではないわ。でも、やりようはある)


「ソフィーよ、その無能と一緒に真っ二つにしてやる。」


 グレンが幅広の大剣を振り下ろしてくると同時に左右の騎士からも斬撃がきた。

グレンの剣を受ければ左右の騎士に斬りかかられ、左右の騎士を相手にすると、グレンの剣で真っ二つにされる。


 ソフィーに逃げ場がない中、グレンの剣が振り下ろされた。


 

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