第21話 シルバーウルフ
シンとソフィーは休憩して、食事をとる。
食事といっても携行食と干し肉、途中でソフィーが取った、野苺くらいしかない。
シンは硬い干し肉と悪戦苦闘しながら食べていた。
(夜中に歩き出してから、追手の気配がなくなりました。撒けたようですね)
「シン様、もう少し行ったところで、仲間と合流します。そうすればもう安全です」
「よかった。ソフィーがつかれなくてすむね」
「ありがとうございます。シン様。気を遣っていただいて」
「ねえ、ソフィー」
「なんでしょうか?」
「そのいいかた、さびしい」
「何が寂しいですか?」
「シンサマとか、ございますとか」
「敬語のことですか?」
「うん。けいご」
「私は任務ですから」
シンがじっと見てくる。
ソフィーの顔がこわばる。
「ソフィー」
「は、はい」
「だめなの?」
「だめ……じゃないよ」
「やったー」
(この子、分かってやってるのかしら? でも可愛いからもういいわ)
ソフィーは開き直った。
「じゃあ、シン。こうやって話すね」
「うん!」
シンが満面の笑みで喜ぶ。
「シンはもう、いい子なんだからー」
ソフィーがシンを抱きしめる
「えへへ、ソフィーにぎゅってしてもらうのすきだよ」
「私も好きよ。あと、シンのことも大好きよ」
「やった。ぼくもソフィーがだいすき」
ソフィーは顔が緩むのを止められない。
(もう、シンの可愛さが止まらない)
ソフィーはシンを抱え森の中を合流地点へと向かっている。
ふと、そばの茂みの奥から、気配を感じる。
ソフィーが覗いてみると、血まみれのシルバーウルフの家族が倒れていた。
親ウルフ一頭と子供ウルフ3頭。親ウルフのそばにブラッドレパードが倒れている。
「ソフィー、どうしたんだろう」
「ウルフの子がレパードに襲われて、親ウルフが守ろうとしたら、レパードと相打ちになったのね」
「わんわん、しんじゃったの?」
「この中ではあの親ウルフだけ生きているみたいよ」
「ソフィー、ちょっとおろして」
「危ないよ」
「うん、だいじょうぶだとおもう」
「気をつけてね」
(私が近くにいればだいじょうぶね)
シンがウルフの近くに寄る。
ウルフの腹に爪痕がついて、そこから夥しい血が流れている。
「わんわん、だいじょうぶ?」
「クウォン」
「いたいの? ちょっとだけいたいのへらすね」
シンが、傷口に手を当て、『なおって』という。
すると、光が出て、傷が塞がっていった。
傷は深かったので、完全には塞がっていないが、命の危険は無くなった。
シンは先ほど食べた残した干し肉の残りをウルフの鼻先に置いた。
「ぼくたちも、ごはんあんまりもってないから、これでがまんしてね。
ちっちゃいこ、しんじゃったけど、がんばってね。
ぼくたち、いかないといけないからもういくね」
シンはウルフの頭を撫でてあげる。
「クウォン」
ウルフはひと鳴きし、シンの手を少し舐めた。
シンは、立ち上がって、ソフィーのところに戻って来た。
ソフィーはそんなシンを見て思った。
シンはウルフを助けてとねだってくる事がない。
干し肉さえも、自分が持っていた分だけを出す。
もういかないといけないことも知っている。
(この子は、自分たちの置かれた状況を理解しているのね。文句ひとつ言わないなんてね)
ソフィーの胸はギュッと痛んだ。
(なんでこんないい子がこんな目に遭わないといけないのよ)
ソフィーは悔しかった。
我が祖国が、この子を殺そうとしていることが。
こんな状態で逃げなければならないことを。
シンはソフィーのところに来て、抱っこがしやすいように手をあげた。
「いこう、ソフィー」
「そうね、行こうシン」
再び、ソフィーは歩き出す。
「シン、もう少しで合流場所に着くからね」
「ほかのひととあったらどうするの?」
「エクレール様と仲のいい村に行くのよ。そこで、心配なく生きられるからね」
「みなみおねえちゃんたちとあえないのかな」
「聖女様方には連絡が行くから、きっとすぐに会いに来てくれるはずよ」
「よかった。おねえちゃんにもあいたいから」
「そうよね。大丈夫よ、シン」
「うん」
「シンは村に着いたら、どんな毎日を送るのかな?」
「ぼくはソフィーのおてつだいをして、ちゆまほうをもっとうまくなって、ソフィーとかおねえちゃんたちがけがしたときになおしてあげるんだ」
「シンが優しくて嬉しいわ」
「えへへ、ソフィーはなにをするの?」
「私は、シンを守って育てるのがお仕事なのよ。だから、どうしようかしら。まずは、シンのご飯をつくろうかしら」
「うん! ソフィーのご飯食べたい」
「うふふ。あとは、シンにお勉強教えようかな。シンはお勉強好き?」
「うん、ほんとかよむのすきだよ」
「いいわねぇ。あとは剣術もやりましょうか」
「ぼく、つよくなれるの?」
「なれるよ。シンはとても素直だもの」
「そっかー、じゃあ、つよくなってソフィーとおねえちゃんたちをまもるね」
「頼もしいわ。ありがとう」
「うん。……ママのところにかえれるようになるかな」
「ごめんね。それはわからないの」
ソフィーは苦しかった。シンがその母親に会える可能性はほぼないのだ。希望的観測で話せない。
「でも、みなみおねえちゃんはいっしょにかえろうねって、やくそくしてくれたんだ」
「聖女様ならできるかもしれないわね」
「うん、みなみおねえちゃんはすごいんだよ」
「へぇー、そうなの」
「うん。ソフィーはママにあいたいとおもわないの?」
「私のお父さんとお母さんと大切な弟は戦争で死んでしまったの」
「そうなの! ソフィーかわいそう」
シンがギュッと抱きしめてくる
「ありがとう、シン。もう随分前だから大丈夫だけど、シンにギュッてされるの好きだからもう少しやってて」
「うん、いいよ。じゃあ、もうおうちはないの?」
「もう、ないけど。綺麗なお花が咲く丘があるの。そこで毎日遊んでたわ。花輪を作ったり、走り回ったり。
とてもいい思い出で、また行きたいと思っているの。死んだ時はそういうところにお墓を立てて欲しいわ」
それから、ソフィーの子供の頃の話をシンは興味深そうに聞いた。
そうしているうちに、森から抜けた。
その先にはシルバーの鎧を着た一団が待っていた。
「シン、合流点に着いたよ。お疲れ様」
「ソフィー、ここまでつれてきてくれてありがとうね」
「うふふ、どういたしまして」
一団の中央が割れ左右に分かれていく。
その奥に見るからにリーダーらしき男がいた。
一団のリーダーと思しき者が声をかけてくる。
「ソフィー殿で間違いないか?」
「私はソフィー。こちらはシン様よ」
「そうか、よくぞ無事でいてくれた。私は第3騎士団特務部隊所属グレンだ。
ここにいるものは10名だが、ほかのものは哨戒に出ている」
「分かったわ。いつ出発できるかしら」
「哨戒に出ているものが戻ってき次第、出発できる。休憩は必要か?」
「ええ、シン様を休ませてあげたいわ。何か食べるものを頂戴」
「ああ、あちらのテントで、食事をとってもらおう」
「シン、じゃあ降りて頂戴」
ソフィーが屈んで、シンを下す。
そのソフィーを森の中から、弓を引き絞り狙い澄ます者がいた。
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