第20話 ソフィーとシン
森の中とは思えないスピードで疾走するソフィーの腕の中には、シンが抱えられている。
さらにソフィーを追っている影が5。
今のままでは、追いつかれそうにないが、体力勝負になっている。
「ねえ、なんで、みなみおねえちゃんたちからはなれたの?」
「シン様は命を狙われています。それは、ネイマル王国にいる限りです。ですから、逃げています。」
「どこいってるの?」
「安全なところです」
「どうして?」
「今、追いかけてきているものがいるのです。捕まったら、シン様は殺されてしまいます」
「なんで?」
「それはお話しできません」
「こわいよ」
「大丈夫です。このソフィーが必ずシン様をお守りします」
「ありがとう」
「……。」
(シン様はこんな時にまでお礼を。守りたい。いえ、守り抜きます。しかし、このままでは合流場所に敵を引き込んでしまいますね。なんとか巻かなくては)
ソフィーは進路を変えた。
魔物からは身を隠すようにした。
ソフィーはこの辺りの魔物なら、簡単に倒せるのだが、倒すと、足がついてしまうからだ。
(合流地点まであと1日というところ。しかし、追っ手に気づかれていないとはいえ、撒けたともいえないこの状況。
どうするのが最善でしょうか)
聖女一行が襲撃にあった地点から半日ほど、森を進んだ地点にいた。
ソフィーが襲撃地点からシンを連れ出して、追手に気付いてから、それを撒こうと画策しているのだが、いまだに撒けている気配がない。
(早くしないと、シン様の体力も心配です)
ソフィーはシンを抱えていると言う不利な状況の中、追手に気づかれないように、進んでいた。
夜になって、しばらく休憩が必要になったソフィーはシンの体温を逃さないように自らのライトアーマーを外し、シンを抱いた。携行食もそのままの姿勢で食べさせ、寝る時もそのまま木にもたれて寝た。
幸い、マジックバッグがあるので、食料と水の心配はない。
「シン様、火を焚いて差し上げたいのですが、追手に見つかる恐れがあるので、これで我慢してください」
「ソフィー、あったかくて、ママみたい。だいじょうぶだよ。しんぱいしないでね」
(ああ、この子は本当に天使みたいです)
ソフィーも微笑みを浮かべてシンを見つめる。
シンは心配そうに言う。
「ソフィーはつかれてるでしょ。ちゃんとねないとおねつでちゃうよ」
「はい、心配していただいてありがとうございます。そのお言葉だけで元気になれるのですが、私も休みますね」
「うん。よかった。ソフィーがげんきなら、ぼくも、うれしい、よ」
シンは電池が切れたように眠ってしまった。
やはり抱き抱えられていても疲れは出るのだろう。
国境付近の村に住んでいたソフィーには歳の離れた弟がいた。
忙しい父母に代わって、弟の面倒はソフィーが見ていた。
その頃のソフィーにとって、弟は全てだった。
しかし、続く戦禍の中で、弟は父母諸共、敵兵に殺されてしまった。
ソフィーは薬草を採りに村から離れていた時の出来事だった。
すでに剣術を収めていたソフィーは怒り狂い、敵兵の大半を殺した。
敵兵を退けたあと、死ぬつもりだったソフィーを援軍に来た騎士団長に見出された。
その後、エクレールに出会い、側近として仕えることになった。
ソフィーはいつしかシンに弟を重ねるようになっていた。
この数日間で、シンを溺愛するようになった。
シンの寝顔はいつまでも見ていられる。
シンのおでこにそっとキスをした。
(ああ、愛しい。この子は誰にも手を出させない。守り切ってみせる)
ソフィーは己に課せられた使命以外の気持ちで、シンを守ろうと思っていた。
まだ、静まり返っている深夜。
ソフィーは起き出して、シンが起きないように、そっと地面に置いてから、ライトアーマーを着て、再びシンを抱き抱える。
真っ暗闇の中、ソフィーは歩き出した。
合流地点には、エクレールが用意した、シンを匿うためのエクレール直属の部隊がいる。
シンの殺害を命じられたエクレールの当初の計画はこうだった。
イタミュエット王国に入って馬車で1日ほどの地点で、ソフィーがシンを連れ去る。
そして、適当なところで魔法爆弾で爆発をさせる。その時にシンのきていた服も巻き込ませて、それを殺害の証拠とする。
ソフィーはエクレール直属の部隊と合流し、イタミュエット中部のエクレールの息のかかった村に潜伏させる。
そして、折を見て聖女美波たちにそれを伝え、シンに会いに行ってもらう。
そういう予定だったのだが、途中で傭兵団に襲われ、その背後にネイマルからの刺客が潜んでいることに気づいて、計画を変更した。襲撃のどさくさに紛れて、シンと脱出したのだ。
刺客を引き離せたのは、聖女美波の度を超した強さに警戒して、シンから目を逸らしていたためだ。
ソフィーは脱出する時、気配遮断の魔道具を使っていたために刺客達がシンが逃げたのに気づくのが遅れ、美波が探知しようとした時も阻害されたのだ。
その魔道具の効果も今は切れているので、神経を集中させないといけないが。
夜が明け、日が登り始めた頃にシンが目覚める。
シンはニコッとソフィーに笑いかける。
ソフィーも思わず笑顔になる。
「シン様、お目覚めですか?」
「ふあああ、おはよう、ソフィー」
「ふふ、おはようございます」
シンは少し考えたそぶりをすると、ソフィーを咎めるような目をした。
「ソフィー、ちゃんとねてないでしょ」
「いいえ、ちゃんと寝れましたよ」
「ほんと? つかれてない?」
「はい、大丈夫です。」
「なーんだ、よかった」
再びニコッと笑う。
(ふふ、かわいい)
思わず、シンの頬にキスをする。
「はっ!申し訳ありません、シン様」
「うふふ、うれしかったよ。ママもよくしてくれたの。ありがとう」
「も、もう一度してもいいですか?」
「うん!」
ソフィーはもう一度シンの頬に優しくキスをした。
シンは、嬉しそうに身を捩った。
「ねえねえ、ソフィー」
シンが手招きをする。
ソフィーがシンを抱えたまま、顔を近くに寄せると。
チュッ
シンが、ソフィーの頬にキスをしてきた。
ソフィーは思わず赤くなる。
「おかえし。ソフィー」
シンがやさしくはにかんだ。
ソフィーは、口元がだらしなく緩むのを止められなかった。
(えへへ、私は今とても幸せです。
エクレール様、シン様の護衛の任を与えてくださりありがとうございます)
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