第19話 紅炎傭兵団
「シンくんが連れ攫われたわ」
玲奈の言葉に美波が取り乱した。
青い顔をしながらも、状況を聞いた。
そして、団長を見て魔法を放った。
魔法は手足を焼く。
「ぎゃああああ」
団長は再びのたうち回った。
玲奈が青い顔で美波を見ている。
美波が水魔法を団長にかけるとまた火傷が元に戻った。
美波が無表情で言う。
「よくも、シンくんを攫ってくれたわね。ただでは死ねないと思いなさい」
「聖女様! 俺たちではありません。攫うようには言われていませんし、その護衛のことも知りません」
「そんなことを信じるとでも」
美波の怒気に団長がガタガタ震えている。
完全に心が折れている。
「本当です。もし許していただけるなら、シン様を探すのをお手伝いさせていただきます」
「黙りなさい!」
美波の一喝に団長がビクッと震える。
そこに玲奈が声をかける。
「美波、この人嘘をついてないと思う。完全に心が折れてる」
「玲奈」
「シンくんを探すのに人手が必要。こいつらを使えばいいよ」
「でも、裏切るかもしれないよ」
「これを使う」
玲奈が小瓶を出した。
「何それ?」
「遅効性の魔法毒。3日間何もないけど、ちょうど3日で死ぬ」
「どう使うの?」
「シンくんを探しに行かせて、3日目には必ず帰って来させる。シンくんがいない場合は自白剤を使って、本当か自白させる。本当の場合だけ、解毒薬を飲ませる。」
「なるほど、一理あるわ。他の襲撃者はどうしているかしら」
「急いで来たから、ちらっとしか見てないけど、みんな凍りついてる。生きてるのもいる」
「分かったわ。桐花と合流しよう」
「分かった」
「それと、あなた。名前は何と言うの?」
「はい、紅炎傭兵団団長のグレゴリーと申します」
「グレゴリー着いてきなさい」
美波と玲奈が戻ると、桐花が泣いていた。
「桐花」
「美波ちゃん! ごめんなさい。シンくんが、シンくんが!」
「ええ、聞いたわ。泣かないで。シンくんは私たちで取り返しましょう」
「分かったわ。絶対にシンくんを取り戻す」
「玲奈、薬の準備は必要かしら?」
「遅効性の毒は少量でいいから、問題ない。解毒剤と自白剤は作り足さないといけないわ」
「それじゃあ、ここでキャンプを準備をさせるから、ここで作っておいてもらえる」
「分かった」
「桐花、農地の魔物よけの応用でここら辺一体を魔物に侵入させないようにできるかな」
「ええ、できるわ。やってくるね」
「ええ、お願いね」
「あ、桐花、玲奈」
2人に呼びかける。
2人は同時にこちらを向く
「私ね、聖女の能力の影響で、とても残酷なことができるようになってるの。
これから、拷問をしたりもするし、必要ないと思ったら殺したりもするの。
だから、2人は近づかないようにしてもらえるかな」
「大丈夫だよ。必要なんでしょ」
「美波は気にしないでいい」
「でも……私、あなたたちには幻滅されたくないの」
美波が辛そうな表情で言うと、桐花と玲奈が抱きしめてきた。
「美波ちゃん1人に背負わせるなんてことしないわ」
「美波は私たちにも頼ればいい。幻滅なんてしない」
「桐花、玲奈」
美波は少しだけ泣いた。
「私ね、怖かったの。平気で人を殺したり、拷問ができたことが。それに、それをあなたたちやシンくんに見られるのが一番怖かったの」
「大丈夫だよ。私たちも一緒だからねー」
「美波は気にしないで、必要なことをやればいい。私達も覚悟を決めたから」
美波は2人をギュッと抱きしめはなした。
「ありがとう。もう大丈夫。みんなでシンくんを助けようね」
「うん」
「当然」
美波は騎士達と護衛に振り向き告げた。
「怪我をしているものはここに残りなさい。怪我をしていないものは、襲撃者いいえ、傭兵達の生き残りをここに連れてきて。怪我の大小は関係ないわ。氷漬けになっているものは私が行かないと外せないから、怪我を治療し終えたものを連れて、回収に行くわ。亡くなってしまった騎士は後程馬車に積みます。傭兵は穴を掘ってからそこに入れ、燃やします。いずれにしても後の話になることは覚えておいて。それでは動いて」
美波の号令で、騎士達は動き始めた。
美波は騎士の治癒から入ったが、治癒は聖女の本領なので、すぐに治った。
「それでは、魔法の網にかかって氷漬けの者達を回収に行くわ。着いてきてちょうだい」
傭兵で生きているものは50名中15名だった。
かなりの数が氷の霞網に捉えられて死んでいた。
(城にいたときに思いついて作った魔法だけど、かなり強力ね。殺傷能力の低い霞網も必要ね。それにしても、私の力は異常ね。これが2級と言うことかしら)
美波は傭兵15名に治癒魔法をかけた。
立ち所に直り喜ぶ傭兵達だったが、美波はそんな甘いことでは終わらない。
言葉を一切交わさず問答無用で、全員を燃やした。
「うぎゃあああああああ」
15の火だるまが辺りを転げ回る。
見ている騎士が青くなる。
動かなくなりかけたものから、水をかけ火を止めた。
焼けこげた、服と鎧を着た傭兵達は、憔悴した顔で座り込んでいる。
グレゴリーが声をかけようとしたが、美波に制された。
そしてもう一度全員に火をつけた。
「うぎゃああああああ」
再び動かなくなりかけたものから水をかけて治癒をさせていく。
傭兵達は仰向けに倒れたまま、動かない。
グレゴリーが青い顔をしている。
「何も喋らないわね、じゃあもう一回」
「待ってくれ!」
1人がようやく口を開いた。
「待ってくれですって! そんな言葉遣いなら聞く気はないわ」
「す、すまねえ。敬語は苦手なんだ」
「私も戦闘は苦手なのに、戦わされたわ。苦手とか言ってる場合?」
傭兵は、知っている限りの敬語で話し始めた。
「申し訳ありあせん。聖女様。どうぞ、お許しおくんなせい」
「あなただけ? じゃあ、他の人は燃えていいわけね」
「お、お待ちくだせい。 おい、お前ら、聖女様の前で寝転がってんじゃねえ。早く座れ。また燃えてえのか」
変な敬語の傭兵の言葉で、このままではまた燃やされると気付いた傭兵達は、慌てて座り頭を下げた。
そして、変な敬語の傭兵が代表して喋る。
「聖女様、どうぞ燃やすのは勘弁してつかあさい」
「あなた達は無罪で許せと? 私はシンくんを誘拐されてるのに?」
美波から冷気が溢れ出る。
「ヒエッ! と、とんでもござあせん。 私たちもシン様捜索に加わりてえと存じ上げまする。そして、聖女様に助けられた命聖女様に捧げあげ申し上げますです」
「私はいいわ。シンくんとあの2人桐花と玲奈に命を捧げなさい」
と、戻ってきた桐花と玲奈を見た。
「それでは、聖女様とシン様と桐花様と玲奈様に命を捧げとう存じ上げまする」
「分かった。許すわ」
「かたじけのうございます。団長もそれでいいか?」
「ああ、俺がお前らに言おうと思っていたことだ」
団長グレゴリーは美波に向いた。
「聖女様 桐花様 玲奈様 そして、今はいないシン様。我々、紅炎傭兵団はトップから末端に至るまでことごとく、御身に生涯の忠誠を誓い、命を捧げます。この命、如何様にもお使いください」
「分かったわ。まずはシンくんを探すわ。魔力の流れをさっきから探っているのだけど、正確な方向がわからないわ。
おそらくあっちの方向。人を多くあっち方向に割いて、残りは別の方向を探しましょう」
美波は騎士に向く。
「傭兵達に武器の使用を認め、携帯食を渡して。一部は食べさせて、残りは携行させるように」
美波は再び傭兵団に向く。
「シンくんまだ生きているのは聖女の直感でわかります。でも場所がわからない。みんな捜索に全力を尽くしてちょうだい。グレゴリーは傭兵達の割り振りを考えて、定期的な連絡は徹底してちょうだい」
騎士達には
「騎士達は死体を連れてネイマルに戻って。王都にレスフィーナ王国は延期すると伝えて」
「それはまずいかと」
「聖女命令よ。聞きなさい」
「ハッ」
「馬車と馬は一台残しておいて。数人の騎士は残って、食糧調達などをするように」
美波は玲奈に向いて聞いた。
「玲奈、薬の準備はできた?」
「できたわ」
「それじゃあ、傭兵団聞きなさい」
毒を全員に飲ませること、どんな毒かを説明した。
「私はあなた達の忠誠を疑っているわ。まずはその命で忠誠を示しなさい」
この時には傭兵団は完全に美波に屈服していた。そして、命の危機を何度も経験しているうちに崇拝するようになっていた。忠誠を示せと言われて、喜び勇んだ。
「おお!」
1人が一気に飲んだと思うと、皆われがちにと飲んでしまった。
桐花と玲奈がこそっと話した。
「みんな美波ちゃんの狂信者みたいになっちゃったよ」
「聖女のカリスマ恐るべし」
「桐花、玲奈いい?」
「うん、何?」
「ソフィーはなんでシンくんを攫ったのかしら」
「エクレールの命令かな?」
「でも、この傭兵団は第2王子のオリオが雇ったみたいなのよ」
「そうだよね。私もおかしいと思っているのは、エクレールもソフィーもシンくんを大切に思っているようにしか見えなかったの。そのソフィーがシンくんに害を与えるようなことするとは思えないのよ」
「そうよね。だったら、なぜ連れ去ったのかしら。傭兵団はシンくんをこの場で殺そうとしていたわ。ソフィーだったらそれもできたはずなのに」
「他にもシンくんを狙っている奴がいて、それから逃げるためだったら?」
「その可能性もあるね」
「でも、ソフィーに直接聞かないとわからないね」
「そう。今はソフィーを捕まえないと」
「そうね、まずソフィーとシンくんの捜索するしかないね」
美波は、改めて決意した。
(シンくん、待っててね。絶対に助けてみせるから)
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