第17話 襲撃

 ブライ砦を出て1日。聖女一行はイタミュエット王国の小さな宿場町で泊まっていた。


 聖女一行は美波 桐花 玲奈とそれぞれの護衛3人ずつ計9名 外交官3名 騎士15名の30名とシンとソフィーの入れて32名で構成されている。

小さな宿場町では全員が宿泊できないので、騎士15名は広場でテントを張って、交代で見張りをしながら宿泊していた。


「ソフィー、いつもありがとうね」

「シン様に尽くすのが私の勤めですので」


 シンはソフィーに体を吹かれていた。

お湯で絞った布が気持ちよく、シンはご機嫌だった。


「そうだ、こんどはぼくがソフィーのからだをふいてあげるよ」

「いえ、私は大丈夫ですよ」

「ママのせなかもふいてあげたことあるんだよ」

「私たち使用人は自分で拭くのが当たり前なんですよ」

「そうなの? ぼく、いつもソフィーにやってもらってるからやってあげたくて」


 あからさまにがっかりするシンを見て、ソフィーは断ることに罪悪感を感じてしまう。


「それではシン様。お願いできますか」

「やった。がんばるね」

「ふふ、お願いします」


 ソフィーは服を脱ぎ背中をむける。

シンは布をお湯に入れ絞る。

最近のシンは力がついてきたのか、布を絞るくらいはできてしまう。


 ソフィーの背中を拭き始めるシン


「ソフィーはきれいだなぁ。ママみたいだ」

「お母様はおいくつだったんですか?」

「24さいだよ」

「それでは、私の2歳上ですね」

「そうなんだ」

「シン様はお母様に会いたいですか?」

「うん、あいたいよ。すごくあいたいけど、いまはみなみおねえちゃんたちがいるから、あんまりママにあいたいっていわないんだ。」

「どうしてですか?」

「ぼくがそういうと、おねえちゃんたちがすごくつらそうなかおするの。ぼくのことをかわいそうっておもってるんだよ。

おねえちゃんたちもさびしいのにぼくばっかりいうとダメだよ」

(この子はいつも人に気を遣っていますね。優しい子です)

「そうですか。偉いですね。シン様は」

「ほんと? やったー」

「ふふ、嬉しいですか?」

「うん、えらかったらかみさまがごほうびにママにあわせてくれるかもしれないでしょ」


 ソフィーは胸を締め付けられるのを感じた。


「ソフィー、おわったよ」

「ありがとうございました。後は自分でやりますので、シン様はお待ちください」

「うん。またやってあげるからね。ソフィー」

「はい、お願いします」

(この子の行く末が幸せであったらいいのですが)


 ソフィーはニコニコしているシンを見て、おそらく叶わないであろう幸せな未来を願うのだった。



 翌朝、早くから一行は出発した。


「シンくん、昨日はよく眠れた?」

「うん、ソフィーがいっしょにねてくれたから、あったかくてよくねむれたよ」

「私はシンくんがいなくて寂しかったよぉ」

「あっ、ごめんね。きょうはいっしょにねようね」

「美波ちゃん、シンくんが気を遣っちゃってるよ」

「ごめんね、シンくん。気にしなくていいよ」

「ううん、ぼくもみなみおねえちゃんといっしょにねたいから」

「きゃー、シンくん可愛い」


 美波がそう言ってシンを抱きしめようとしたら、玲奈が先をシンを抱きしめてしまった。


「ちょっと、玲奈」

「だって、シンくんが可愛いから。今日はお姉ちゃんと寝ようね」

「えー。私もシンくんと一緒がいい。」

「ちょっと、玲奈に桐花。私がシンくんと寝るんだよ。シンくんそう言ったじゃない」

「今日ネルセスは少し大きな街。だから、ベッドも大きいのがある。だからみんな一緒でいい」

「え? みんなでねられるの? やったー」

「もう、玲奈ったら。でもそれもいいかもね」


 そんな話をしている時だった。

ドスンと大きな者が倒れたような音と共に馬車が急停車した。


「「「キャー」」」

「シンくん大丈夫?」

「レイナおねえちゃんにだっこしてもらってたからだいじょうぶ」


 すると、外から護衛の声が聞こえてくる。


「聖女様襲撃です」

「なんですって?」

「皆様は馬車から出ませんように」



 しばらく経っても怒号は続いていた。

美波がそばにいる護衛に声をかける。


「状況を教えて」

「ハッ、敵勢50名かと思われます。全員手練れです。盗賊に扮していますが、傭兵か盗賊でしょう。

騎士たちが交戦中ですが、劣勢です。奴らの目的は、聖女様の馬車と思われます」

「私も応戦します」

「危険です」

「騎士たちだけでは多勢に無勢。どっちみち騎士たちがやられれば、こちらは危険よ。

その前にこちらも打って出ます」

「それでは、護衛をつけてください」

「任せるわ。桐花、玲奈 ちょっと言ってくるから、護衛でしっかり身を守ってね」

「美波ちゃん危ないよ」

「そうよ、危険だわ」

「大丈夫。聖女の力って異常なほど強いのよ。それを襲撃者に思い知らせてやるわ」

「みなみおねえちゃん……」

「そんな顔しないでシンくん。今日、いっしょに寝る約束したでしょ。楽しみにしててね」


 シンを安心させるように笑顔を作る。


「うん、わかった。きをつけてね」

「いい子ね、シンくん」


 美波はシンを強く抱きしめた。


「ソフィー、シンくんをお願いね」

「かしこまりました」


 美波は護衛を連れて劣勢になっている騎士の元へ向かって行った。

 

(シンくん抱きしめると、ホッとするなぁ)


 美波は場違いなことを考えながら、先端の尖った氷の刃を魔法で作ると最初のターゲットに放った。

ヒュンと風切音とともに飛び出して行った氷のそれは、騎士に切り掛かっている襲撃者の太ももに刺さった。


「ぎゃー」


 太ももから血が吹き出し、襲撃者はのたうち回る。


「案外、スプラッターでも平気ね。私そういう耐性なかったと思うんだけど、これも聖女効果かしら」


 美波は自身の周りに氷の刃をいくつも作り出す。


「太ももだと、出血多量で死んじゃうかしら。膝から下を狙うのがいいかな。でも逃げられちゃうから、両足ね」


 次のターゲットを決め、無造作に2本放つと、寸分違わず襲撃者の両方の膝下に刺さった。


「うぎゃー」


 聖女美波の蹂躙劇が始まった。



「美波ちゃん大丈夫かな」

「今は美波を信じて待ちましょう。私も戦える力をつけるべきね」

「そうね、私も戦えるようになるかな」

「シンくん心配しな……シンくん?」

「どうしたの玲奈ちゃ……いない?」


 そこにいたはずのシンとソフィーの姿がなかった。


 焦って護衛に聞いてみたが、誰もわからなかった。


 桐花たち6人の前で、シンは忽然と姿を消した。

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