第16話 能力の検証

 イタミュエットとの国境までは1日半かかる。

1日目は途中の村に泊まり、翌日昼には国境にあるブライ砦に着いた。


 出発は明日になるので、半日は休養になっている。

その間にシンのスペースの検証をしに、砦の外に出てきている。

その際、護衛は来ないように厳命した。


 美波は気配を探ることも可能なので、監視がいないか念入りに調べての検証だ。


「シンくんが最初はボールしか入らなかったって言ってたけど、今はベッドも入るって言っているわ。

玲奈、どうしたら能力が伸びると思う?」

「多分、限界量を収納すれば、ある程度まで大きくなっていくと思う」

「じゃあ、まず大きなものを収納できるか試してみて、限界を見てから小さなものを収納してみましょうか」

「うん、シンくんこれを収納できる?」


 玲奈が、荷車ほどの大きさの岩を指差していう。


「わかった。『はいって』」


 岩はそのままだった。


「ダメみたい」

「いいわ。じゃあ、これはどう? シンくんのベッドより少し大きいけど」

「『はいって』あ、はいった」

「すごいわね。同じ大きさのものが複数入るかしら。これを収納してみて」

「『はいって』はいらないや」

「じゃあ、これは。人の大きさくらいのもの」

「『はいって』はいった。」


 そうして、 同じくらいの岩を収納していったら、ベッドより少し多いくらいの量が入った。

これで、ベッド2台分くらい収納したことになる。


「大きな岩だけ残して、小さな岩は全部出してくれる」

「うん『でて』」

「それじゃあ、このベッドより少し大きな岩をもう一回入れてみて」

「うん、わかった。『はいって』あ、できた」

「収納量が増えたわね」

「やっぱり限界から、少しずつ増やしていけるみたいね」

「シンくん、さっき出した小さな岩を全部入れてくれる」

「『はいれ』……全部入ったよ」

「じゃあ、小さい岩も大きい岩も全部ここに出して」

「うん『でて』」

「出したら、この一番最初に試したものを入れてみて」

「うん『はいって』はいった」

「すごい能力の伸びね」

「うん、これだったら、どんどん容量を増やしていけるわね」

「シンくん、毎日今みたいにして、入れられるものを増やしていこうね」

「うん、わかった」

「シンくんは具合とか悪くなってない?」

「うーん、すこしだけつかれたかな。でも、まだだいじょうぶだよ」

「無理はいけないわ。この岩を収納したら、戻って休みましょう」

「シンくん、『はいって』と『でて』と言わないとできないかしら。

できれば何も言わないでできた方がいいと思うけど」

「わかった、どうすればいいのかな」

「じゃあ、入るところを考えてみるのはどうかしら」

「わかった。うーんと……できた」

「出来たわね。じゃあ、出すことも同じようにやってみて」


 シンが手をかざすと、岩が現れた。


「出来たわね。これからは何も言わないようにやろうね。

それじゃあ、終わりにしましょう。出ている岩全部収納しておいて」

「わかった」

「これは、国宝級のマジックバッグよりも収納できるようになる可能性が高い」

「うん、まだ伸びているものね」

「どこまで大きくなるんだろうね。それに生き物を入れられるのもすごいし」


 こうして、シンの能力「スペース」の検証1日目は終わった。

戻っている途中、シンは眠りそうになってフラフラしていた。

美波がシンを抱っこしたら、シンはすぐに眠ってしまった。


「ふふ、まだ4歳だものね」

「シンくん可愛い」

「うん、シンくん可愛い」


シンは幸せそうな顔をして眠っていた。



――――――――――――――――――――――――――――


 王の執務室

ホルビス王と第二王女エクレールが話している。


「聖女は、今頃ブライ砦のあたりだろうか」

「はい、そうだと思われます」

「首尾はどうだ」

「イタミュエットに入って1日ほど進んだところで、仕掛ける手筈になっております」

「抜かりはないか」

「はい、不測の事態にも備えておりますので」

「なんとしてもあの無能者は処分せよ。

放置するのは貴族どもを増長させる原因になるでな」

「心得ております」

「良い報告を待っておるぞ」

「はい、それでは失礼いたします」




――――――――――――――――――――――――――――――


 第2王子 オリオの自室


「おい、聖女はどうなった」

「今頃、ブライ砦のあたりでしょう」

「エクレールの裏をかけるのだろうな」

「はい、準備は万端に整っております。あとは網にかかるのを待つだけです」

「聖女が反撃してきても大丈夫なのか?」

「聖女など、多少力があれど、実践経験の乏しい素人。こちらの敵ではありますまい」

「奴らはどうだ」

「彼らはすでに国境に向け出立しております。襲撃には間に合います」

「そうか。しかし、よく奴らが話に乗ってきたものだな」

「殿下のご威光でしょう」

「ふ、そうだな。俺にかかれば、あの程度のものども、操るのに造作はない」

「おっしゃる通りでございます」

「奴らもすでに俺の陣営。エクレールとの間に差はないな」

「聖女から、無能者が切り離されれば、聖女は王女殿下を疑いになるはず。

そうなれば、聖女もこちらの陣営につくことでしょう。

そして、陛下に聖女がついたことを認めていただけば何も問題ありません」

「そうだな。今回の襲撃で聖女を傷つけるようなことはないようにな」

「しかし、反撃を受けた場合はその限りではないかと」

「ならん。あれは俺が王になった時に妃にする。それが傷物になったらどうするのだ。

これは命令だ。傷つけるな」

「はい、承知しました」

「走竜でもなんでも出して、通達しておけよ」

「はい」

「ところで、ふと思ったが無能者を連れてくることはできぬか?」

「なぜでしょうか?」

「いや、ちと俺も楽しみたいと思ってな」

「危険です。もし、連れてきた無能者が見つかったら、タダでは済みますまい」

「ふっ、そうだな。首だけで我慢しよう」

「本来でしたら、首を持ち込むのも危険なのですが」

「父上への手土産にも必要であろう」

「そうですな」

「今から、エクレールの驚いた顔が楽しみよ。待っているが良い、エクレールよ。

其方の王位継承争いは終わりだ。ハハハハハハハ」


 オリオの高笑いは部屋の中に響き渡った。

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