第15話 シンの能力
ネイマル王国の王都セラネイマルからレスフィーナ神聖国の聖都レスフィーナに行くには、間のイタミュエット王国を経由し、ライロン王国を経ていかなければならない。
ライロン王国を経由しない方法もあるが、今回は聖女のお披露目もあるので、イタミュエットの王都オムラリオンも行かないとならない。すると、どうしてもライロンを経由しないといけなくなるのだ。
旅程は1ヶ月かかる。往復で2ヶ月。接待や治療や豊穣祈願なども入れれば3ヶ月。
レスフィーナの滞在期間を入れると半年以上になるだろう。
ネイマル王国としては、長期間、聖女と桐花や玲奈を拘束されたくないのだが、レスフィーナ教教皇に聖女の存在を認めさせなければ、聖女の権威を利用できない。王国側としては苦渋の決断であった。
馬車の中でシンは美波と初級治癒魔法ヒールの練習をしていた。
護衛たちは、馬車の外で馬に乗ってるか、別の馬車に乗っている。
「かなりできるようになってきたね、シンくん」
「ほんとう? おねえちゃん」
「ええ、これなら軽い怪我は治せるわよ」
「おねえちゃんたちとかエクレアがけがしてもなおせるかな」
「大丈夫よ。もっと上手くなって、帰ったらエクレールさんに見せてびっくりさせようね」
「うん! ぼくがんばるよ」
(シンくんの治癒って私みたいな聖気でもないし、魔力でもなさそうなんだけど。でも発動してるし、不思議なのよね)
様子を見ていた桐花と玲奈が美波に話しかける。
「しかし、シンくんすごいね。この世界では治癒魔法って珍しいんでしょ」
「それなのに、適性を持ってなかったシンくんができるようになったのがすごい」
「そうなのよね、最初は難しいかなって思ってたけど、才能あるのかもしれない」
「そういえばシンくんって、運動能力も高いよね」
「うん、4歳にしては動きが早いし力強い」
「そうよね、男子も含めてみんな身体能力が高くなってるから、シンくんにも影響があったのかな」
「そうかも。そういえば男子って言ったら、出発前嫌な感じだったよね」
「うん、嫌な笑いをしてシンくんを見ていた。何か企んでた?」
「うーん、何を考えていたんだろうね」
ふと、シンを見るとリュックの中から、ジャグリングボールを出して投げていた。
なんと3つでできるようになっていたのだ。
揺れる馬車の中で3つのボールが素人には理解できない軌跡を描いて飛んでいる。
「シンくん、教えてくれる人もいなかったのに、よく1人でできるようになったね」
「私はやらせてもらったけど、全然ダメだった」
「勘がいいのかし……ら、えっ、シンくん?」
「どうしたの美波ちゃん」
突然あがった美波の大声にシンも驚いてこちらを見る。
「なあに、みなみおねえちゃん」
「シンくん、そのリュックどうしたの?」
「シンくんのリュックでしょ。美波も知ってるじゃない」
「そうじゃなくて、馬車に乗った時持ってなかったよね。どこかに隠してたの? 今まで持ってなかったはずだけど」
「ああ、リュックのこと。これはね、こうだよ」
シンのリュックがパッと消えた。
消えたと思ったら、次の瞬間出てきた。
「ど、どうなってるの?」
「異世界モノとかによくある、アイテムボックスってやつかな」
「私たちに支給された、マジックバッグと同じかな?」
「シンくん、それ、いつの間にできるようになったの」
「ママにもらったこのボールをなくさないようにしないとなっておもったら、パッてきえちゃったの。
びっくりして、でてきてっておもったらでてきたの」
「どれくらいのものをしまえるか分かる?」
「さいしょはボールだけしかはいらなかったけど、だんだんおおきいものもはいるようになってきて、このあいだはベッドがはいったよ。びっくりしちゃった。」
「このマジックバッグじゃあ、ベッドまでは入らない」
玲奈が自分のマジックバッグを指して言う。
「なんでも入るの?」
「このあいだ、バルコニーにことりさんがいたから、はいれっておもったら、はいったよ。いれたのわすれちゃって、つぎのひのあさにだしてあげたの。げんきでよかったんだ」
「生き物も入るの?」
「え? すごくない?」
「このことは誰かに話した?」
「ううん。はなしてない」
「そう、じゃあ、念の為にだれにも話さないでおいてね」
「うん、わかった」
「美波ちゃん、国に話した方がシンくんの待遇改善につながるんじゃない?」
「人を入れられる可能性があるんだよ。軍事利用されたり、実験に使われたり、ろくな未来は考えられないよ。
シンくんは下働きと同程度と見做されてるんだから」
「それはそうだね。それじゃあ、私たちの秘密にしよう」
「荷運び士ってこういうことだったのね」
「かなり有能な力。ネイマルはバカ」
「魔力の流れを見ても流れを感じないわよ」
「どういうこと美波ちゃん」
「多分、魔法でやってるわけじゃない」
「なるほど、だから、あの時水晶がほとんど光らなかったのね」
「こちらからしたら好都合だわ。このまま隠さないと」
「それの名前が欲しいね。」
「シンくんその能力の名前、アイテムボックスかストレージかスペースどれがいい?」
「スペースがいい。かっこいい」
「じゃあ、スペースがいいわね。」
「スペースの検証をした方がいい」
「そうね、玲奈。調べないといざという時使えないものね」
「シンくん、スペースを調べたいんだけど、手伝ってもらってもいい?」
「うん、きりかおねえちゃん。いいよ。ぼくのためなんでしょ」
「うん、シンくんはやっぱりいい子ね」
桐花がシンの頭を撫でる。
シンは笑顔で受け入れている。
「可愛い。桐花、私と代わって」
「ダメだよ玲奈ちゃん。私が先にやったんだから」
「もう、2人ともそんなことで争わないで。私がやれば収まるでしょ」
「ずるいよ美波ちゃん」
「美波、ずるい」
「えへへ」
仲良く順番でシンの頭を撫でた後、スペースの検証をした。
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