第12話 王の思惑

 それから、訓練の日々は続いて1ヶ月がたった。


 訓練は美波とシンを除いて、みんなバラバラの場所で学んでいる。


 それ以外の時はできるだけ4人一緒だった。

 男子も近づいてきたがったが、シンへの態度が悪かったので、遠ざけている。


 ちなみに男子たちは、ほっといてもそれなりに強いためにあまり真面目に訓練を受けていない。

しかし、拷問や囚人の処刑には積極的に参加して、残酷なことをしている。

これは訓練をまともにやらないことで、精神的な成長を遂げられないのに、手軽な拷問や処刑などに手を染めてしまっているために、より残虐性が伸びてしまっているためだ。


 シンとエクレールがたびたび一緒にいる。

シンにエクレールといることを許してくれないか、せがまれるのだ。

美波は仲良くなったものを強く断れないため、仕方なく許可した。


(本当にエクレールは何を考えているのかしら。それとも、本当にシンくんのことを気に入ったの?)


シンとエクレールが楽しそうに喋っているのを見る度に嫌な予感が首をもたげてくる。


「それは、美波ちゃんのヤキモチかもしれないよ」


 嫌な予感を桐花と玲奈に話したら、桐花にそう言われた。

今、シンはエクレールとお茶をするために、ここにはいない。


「ヤキモチ?」

「うん、美波ちゃんはシンくんに対する思い入れが強いから、シンくんが取られちゃうって感じてるかも」

「私はそうは思わない。最初の時の態度から見れば、あの女の手の平返しは信用ならない」

「そっか、それはそうかも。私たちだって、勝手にこっちの世界に連れてこられたわけだし。自分勝手な国だよね」

「2人とも、私がヤキモチ妬いてる可能性はあるわ。でも、疑ってるに越したことはないと思うの。

用心が一番だもの」

「そうだね」

「それは大事」

「だから、警戒はしたいんだけど、肝心のシンくんが懐いちゃってるのよね」

「うーん」

「いっそ、あの女に近づかないように言う?」

「それはしたくないわ。シンくんにとって、私たちが遠ざける理由がわからないから」

「困ったわね」

「それはそうと、2人の修行はどうなの?」

「私は中級のポーションなら100%作れるようになったわ」

「中級のポーションって、この世界ではかなり価値が高いのよね。」

「うん、作れる人は少ないみたい」

「すごいわね」

「魔道具にも挑戦しようと思ってる」

「楽しそうね」

「国が信用ならないという他は楽しいわ。正直学校よりも楽しい」

「玲奈はそんなに楽しく感じてるんだ」

「私も楽しいよ。作物が早く成長したり、土地が豊かになっていくんだよ。地球ではあり得なかったことだから、面白いの」

「美波は?」

「私は2人と違って、魔法ばっかりだけど、それなりに充実はしてるよ。自分なりに工夫して、新しい魔法を作ったりしているよ」

「へえ、どんな魔法なの?」

「氷属性の見えにくい網を作って、そこに引っかかった人や魔物を凍らすの」

「何それ、怖い」

「なんて言う魔法なの」

「氷の霞網ってつけたの」

「霞網って、鳥を一網打尽にするって言うことで、販売が禁止になったっていう?」

「そう、おじいちゃんが昔使っていた時の話を聞いて、怖いなって思ってたの。それなら、使えるかなって思って」

「どんな時に使うの?」

「例えば、盗賊とかが出た時に予め周囲に張っておくの。で、真ん中を攻撃すれば、逃げようとしてそこに引っかかるってわけ。」

「すごいの考えるね」

「防御にも使えるかなって思ってるの。自分の前に貼っておけば、襲いかかってきた人は勝手に引っかかるでしょ。

あと、シンくんの周りに張っとけば、結界にもなるし。まあ、防御だけの結界魔法もあるけどね」

「へー、すごいね。遠征の時に役に立ちそう」

「遠征って言えば、今度、レスフィーナ教の教皇猊下に会いにいけって言われてるの」

「それって、どこにいるの?」

「レスフィーナ神聖国にいるみたいよ」

「遠そうだね」

「その時は2人も行こう?」

「うん、そうしよう。この国だけしか知らないと危険な気がするし」

「まあ、先にこの国の司教と会うみたい」

「美波ちゃんはそういうの多そうね」

「桐花もひと事じゃないよ。桐花の能力って食糧に直結しているからね。会いたい貴族は絶対多いよ」

「ああ、面倒臭い」


 桐花が心底面倒そうに言う。

それを玲奈と美波は苦笑いしてみる。


「結婚とかも強要されそうね」

「あるかもしれない。この世界での結婚を2人はどう思う?」

「私は、今のところ嫌かな」

「私も嫌」

「じゃあ、やっぱりできるだけ3人でいよう。私は権力的にはかなり強いらしいし、結婚を迫ってきても跳ね除けられると思うわ。特に玲奈は伯爵と同程度だから、侯爵以上は断りにくくなるだろうし」

「うん、頼むね」

「私もお願い、美波ちゃん」

「うん」

「さてと、シンくんを迎えに行こう」

「うん」

「行こう」




 王の執務室。


「エクレール、今日もあの小僧とお茶会か?」

「はい」

「時間のかけすぎではないか?」

「いえ、聖女様に不興をかうようなわけにはいきませんので、ここは慎重に行かないと」

「聖女か。厄介なものよな。余と同等の権力とは」

「はい、その上城下での聖女人気が日に日に高まっております」

「余よりも人気が出るのは歓迎しないぞ」

「しかし、聖女は伝説の存在。人気が出てしまうのも仕方ありません」

「ぬう、やむを得ぬか」

「はい、聖女様は上手く使うのが肝要かと思われます」

「それで、小僧の処分はいつになるのだ?」

「もう少しお待ちください」

「そうは言っても、日に日に貴族どもの不満が高まっておる」

「貴族たちは、無能を召喚したことに加えて、聖女様がシンを溺愛しているのが気に入らないのでしょう。

聖女様が自分よりも無能者を大切にしていると。

自分の価値が下がると感じているのです」

「フン。くだらない事だな」

「ですが、その嫉妬も侮れません」

「貴族の不満が爆発する前に小僧を処分するんだぞ」

「心得ています。が、今一つ材料が足りません」

「何が足りない」

「シンを処分した時の聖女様への言い訳です」

「そんなことは、なんとでも言い訳が効くのではないか?」

「いえ、最も重要な部分かと思われます。下手したら、この国と敵対されかねません」

「敵対した場合はどうなる?」

「レスフィーナ教が敵に回るでしょう」

「厄介なものだな」

「はい、レスフィーナ教は魔王国と魔帝国それに獣王国の3国を除けばこの大陸に君臨していると言っても良いですから」

「これで、聖女に神託でも降りたら、尚更厄介な存在になるな」

「そうなるでしょう。教皇よりも権威がつきますから。ですから、聖女様とは敵対できないのです」

「うむむ、やむを得ん。うまく処分するようにな」

「処分しないと言う選択肢もありますが」

「それはないな。金をかけて召喚した無能のゴミも処分できないと余が非難されるわ。

よもや、情が移ったなどと馬鹿げたことを言うのではないだろうな」

「まさか。そのようなことはございません」

「それなら良い。其方には期待している。期待を裏切るなよ」

「心得ております」


 エクレールはそう言って、下がった。

王は誰もいなくなった部屋でつぶやく。


「期待を裏切ってくれるなよ。エクレール」

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