第11話 それぞれの立ち位置
翌日から、訓練が始まった。
基礎の部分では全員同じことを学ぶ。
教師についた魔導士に様々なことを教わる。
国の歴史、礼儀作法、貨幣の価値から始まり、魔力の使い方。魔法の使い方。剣の持ち方まで習う。
また、少年少女たちはそれぞれの立ち位置を教わった。
工藤蓮 3級勇者 侯爵と同程度
皇良衛 4級聖騎士 騎士爵と同程度
犬飼京太郎 5級魔法士 魔法師団分隊長と同程度
高槻桐花 4級魔農士 侯爵と同程度
東海玲奈 4級錬金術師 伯爵と同程度
本庄美波 2級聖女 レスフィーナ教 教皇と同程度
山村心 10級荷運び士 下働きと同程度
「以上が皆様の立ち位置になります」
衛が不満を口にする。
「なんで3級の勇者と4級の聖騎士がこんなに待遇が違うんだよ?」
「勇者はそれだけ希少性の高い職業です。それに貴族に無闇に命令されないように、優遇されます」
「それなら、なんで4級魔農士が勇者と同じ侯爵と同程度なんだよ」
「魔農士はかなりレアでして、こちらは多くの領主が迎え入れたいと考えております。こちらも権力をちらつかされても、断れるようにですな」
「じゃあ、4級錬金術師の伯爵は?」
「こちらも希少な魔法薬などを作れるようになった時に囲われないようにするためでございます。作れるものによって、今後侯爵程度までは上がる可能性があります」
「チッ」
衛は自分の待遇に不満があった。
「もちろん、衛様や京太郎様はこれからの働きいかんで、より上の地位につくことができます。これらはあくまでも現段階での目安になりますので」
桐花が声をあげる
「美波ちゃんのレスフィーナ教の教皇と同程度ってどう言うことですか?」
「まず、レスフィーナ教についてお教えしないといけないですね。この大陸の最大宗教がレスフィーナ教になっていまして、女神レスフィーナ様を唯一神として信仰しています。
ですので、レスフィーナ教の勢力は大きく、この大陸のほとんどの国で権力を持っています。
その教皇となれば、小国の王より立場が上で、時には大国の王よりも権力があります。
我がネイマル王国の場合ですと、教皇と国王は同程度の力関係と言えます。」
「そうすると、美波ちゃんは?」
「国王と同程度の力と見做されます。
この中では唯一謁見の時に膝をつかなくていい方になります」
「美波ちゃん、すごいねー」
桐花が驚いている。
もちろん、美波も驚いて目を見張っていた。
(驚いた、私、そんなに権力あるの? でもちょうどよかった。地球に帰る方法を見つけやすくなるし、シンくんも守りやすくなるわ)
衛が再び口を開く。
「すげえな、本庄は。それに引き換えよぉ、そこの金魚のフンは下働きだとよ。ガキの下働きなんざ、使えねえの代名詞みたいなもんだな」
これには、蓮と京太郎もニヤついた。
シンに対する嫉妬が含まれている。
シンは意味がわからずきょとんとしているが、美波は怒った。
「本当に最低ね。こんな小さな子を馬鹿にして、自分の鬱憤を晴らすなんて」
桐花と玲奈も同意する。
「シンくんに当てつけるなんて、ひどいよ」
「人間の程度が知れるわ」
「なんだと! そんなガキの相手しているのが悪いんだろうが」
「何が悪いのよ。普通の人なら、4歳の子を守って当然よ」
「男子たちはシンくんの代わりに自分たちを守ってくれって言いたいのかなー」
「守ってもらいたい系聖騎士に甘ったれ勇者にへっぴりごし魔法士」
「やだ、玲奈」
「玲奈ちゃん、面白すぎ」
男子3人は羞恥で真っ赤な顔をしている。
そこによく分かっていないが笑顔を作っているシンが視界に入った。
「ガキが笑ってんじゃねえぞ。ぶっ殺してやろうか」
「君調子に乗りすぎだよ。お仕置きが必要かな」
「ちょっと痛い目にあったほうがいいかな?」
3人が立ち上がって、シンに向かってこようとした。
その瞬間、室内を濃密な魔力が充した。
それは圧迫感があり、晒されているものは呼吸さえ苦しくなる。
「うっ」
「ぐ」
「うう」
蓮、衛、京太郎の3人は苦しさに呻き声をあげる。
対照的にシン 桐花 玲奈の3人は平然としている。
圧迫感の原因である、美波は3人に声をかける。
「何? あなたたち、シンくんに手をあげようっていうの?
それなら容赦しないわよ」
「「「……」」」
3人は声も出せない。圧迫感が強すぎた。
それに気づいた、美波は圧力を意識的に下げた。
「まだ、シンくんにちょっかい出そうと思ってるの?」
蓮 衛 京太郎の3人は美波と目を合わせないようにしながら、謝罪した。
「すまなかった」
「悪かった」
「ごめんなさい」
それを聞くと、美波は3人に言い放つ。
「今後もシンくんは私が守るわ。絶対に手出ししないで。分かった?」
「「「分かった」」」
美波は教師役の魔導士に向かって、にっこりと微笑んだ。
「話の腰を折ってしまって申し訳ありませんでした。続けていただけますか?」
「は、はい」
魔導士は自分も圧力からは逃れていたが、それだけに思う。
(聖女様だけは怒らせないようにしよう)
その後、自習になった。
美波はシンに話しかける。
「ねえ、シンくん。ヒールの練習をしたいんだけど、受けてもらえるかな」
「どうすればいいの?」
「ただ、座っていてもらえれば大丈夫。うまく行ったら、気持ちよかったりするから気分を教えて」
「うん、わかった」
「じゃあ、行くね。ヒール」
「うわあああ、気持ちいいよお姉ちゃん」
「よかった、この間も使ったけど、それよりもうまくいってるみたい。これならシンくんを守れるね」
「みなみおねえちゃん、あのね」
「何、シンくん」
「ぼくも、ヒールできるかな」
「ヒールが使いたいの?」
「うん、そうすれば、おねえちゃんにつかってあげられるから。もちろん、きりかおねちゃんとれいなおねえちゃんも」
「まあ、うれしい。いっしょにやってみようか。でも、やくそくして。」
「うん、なにを?」
「できる人とできない人がいるんだけど、できなかった時に落ち込まないでほしいの」
「うん、わかった。できなくてもおちこまない」
「じゃ、やろっか」
「うん!」
みなみとシンはヒールの練習をしたが、結局その日はシンのヒールが発動することはなかった。
「大丈夫よ、そのうち出来るようになるかもしれないからね」
「うん!」
元気に返事するシンはなんの屈託もなく、できなかったことを気にしていないようだった。
(良かった。でもシンくんはきっと出来るようにならない。できなかった時、落ち込まないように支えてあげないと)
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